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本編
命名・クロ
しおりを挟むあの後、興奮したニールたんを落ち着かせるのは非常に大変でした。何とか時間をかけて宥め、午後に予定していた魔法の授業を予定通りに終わらせまして。
現在は夜、就寝前。
一人で眠るには大き過ぎるベッドの真ん中で、私とわんこな闇の精霊様は互いを見つめ合っていた。
話が通じるかは分からないけど、一応お願いしてみようか。
「闇の精霊様。もしも私に魅了の魔法を授けて下さっているのなら、是非とも止めていただきたいのですが!」
「わふ?」
「この通りです!何卒何卒!」
私はふかふかなベッドの上で、闇の精霊様に土下座した。
「わふ!!わんわん!!」
「…………」
あかん。
尻尾振ってめっちゃ嬉しそうにしてるけど、話は全く通じてないっぽい!!
「う~困ったなぁ……」
そのままゴロンと寝転がる。ベッドめちゃくちゃ気持ちいい。シーツもお布団もお日様の匂いだよ。
そのままゴロゴロしていると、闇の精霊様が私の顔によだれを垂らしてきた。止めてくれ!!
「ハッハッ!」
「ちょ、よだれよだれ!闇の精霊様よだれ凄いから!!」
「わふぅ?」
「いや、だから闇の……もーめんどくさい!!真っ黒だから、もうクロでいいよね?!クロ!よだれ凄いから顔の上でハッハッしない!!」
「ハフッ?!」
「え?!」
瞬間。クロの体から眩いほどの光が発せられ、私は堪らず目を瞑った。
そうして気付いた。これって小説あるあるだよね?
「……しまった。名前つけちゃったら駄目だよね?これって契約成立になるんじゃ……」
ハッ!
でも待って!もしかしたら、これで会話出来るようになったりするんじゃ…………
「わおぉんっ!!」
しねーのかよおおおお!!!
今の光はなんだったの?!思わせ振りな事しないでよ!!というか、契約したかどうかも分かんないしっ!!
「もー考えるの疲れた。寝よう……」
「わふっ!」
「……一緒に寝たいの?仕方ないなぁ。もふもふだし可愛いし、仕方ないなぁもお。おやすみ、クロ」
「わん!」
ああ、クロが私の顔をペロペロ舐めてるわ。可愛い。誰よ、こんな可愛いクロに呪いかけたやつ。
少しでいいから話せたら良かったのに…………
………………………………
………………
『……ス』
……んん。なあに?
『……リス』
なんか聞こえる。なんだろ。
というか、ここ何処?
『アリス』
―――え?
ぱちりと目を開けてみると、目の前に超絶美形な長髪黒髪の少年が居た。何故かわんこな耳と尻尾がついている。
いや、誰だよ。起きたばっかり?だからか頭が全く働かない。私、起きてるの??
『アリスが契約してくれたから、何とか夢の中では人の形になれたよ』
契約??
え、待って。もしかして、もしかしなくとも……
クロなの??
『うん、そうだよ。呪いのせいで、僕の精霊としての力が足りなくなっているんだ。だから起きている時は人の形にもなれないし、話す事も出来ない。ごめんね』
いやいや、そんなしょんぼりしないで!クロが悪いんじゃないんだから!ね?……というか、私の思ってること筒抜けなんですけども……
『夢の中だからね。アリスの身体は眠っているから』
念話とは違うの?
『そうだね、念話とは違うかな。念話は意識して相手に思っている事を伝えるものだけど、ここでは意識してない事も相手に伝わるから』
そうなんだ。
ちょっと色々焦るねソレ。
『焦るの??ふふ、アリスは面白いね。精霊としての力が戻ったら、起きてる時も沢山話したいな』
ち、近っ!近いです!口説かれてるみたいで心臓が死ぬ……!
勘弁して下さい!
『可愛い僕のアリス。残念だけど、精霊としての力が戻るまでは魅了の魔法を解く事は出来ない。でも、魅了の魔法が効かない人間は結構居るんだ。だからそんなに気にする事はないよ』
いや、そこは気にするでしょ!!
つーか、やっぱり犯人はクロだったんだね?!そして予想通り魅了の魔法は発動していると!!
……気にするよ。しない方がおかしいよ。お父様やアルが私に優しいのだって、魅了の魔法のせいなら寂しいだけじゃん!!
『リトフォード卿は魅了の魔法にかかってないよ。アリスのこと、本当に娘だと思ってる。安心していいよ』
え?
『ああ、もう朝になってしまう。そろそろお別れの時間だね。すぐには無理だけど、また夢の中ならば話すことが出来るだろう』
ま、待って!
まだ聞きたい事が……
『またね、僕のアリス。……光に気をつけて』
――――っ。
………………………………
………………
気付いたら、もう朝でした。
* * *
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