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本編
本物と偽物
しおりを挟む朝。
目覚めた私は、夢で見た事をただただぼんやり思い出していた。隣がめっちゃ暖かい。わんこな闇の精霊様、クロが気持ち良さそうに寝ているからだわ。
このクロがあんな超絶美形な少年だったとは。流石は乙女ゲーム。ヒロインがアホの子なのに、友人がこのゲームをプレイしていた気持ちがほんのちょっと分かったかも。攻略対象であるイケメン達に罪はないって言ってたもんね。確かに彼等に罪はないわ。
罪……
『リトフォード卿は魅了の魔法にかかってないよ。アリスのこと、本当に娘だと思ってる。安心していいよ』
クロはそう言ってたけど、どういう事?
お父様が魅了の魔法にかかってない?なら、お父様はどうして私を引き取ったの?
考えていたら、侍女のライラが部屋の扉をノックした。私が慌てて返事をすると、室内へ入ってきたライラは不思議そうな顔をしていたけれど、そのまま身支度を整えてくれた。
朝食の為に食堂へ向かい、扉を開けると既にお父様が席について居た。入ってきた私を見て、お父様が嬉しそうに笑う。
「おはよう、アリス。私の天使は今日も可愛いね」
「……お父様」
「どうしたんだい?」
私は自分の席には座らず、お父様のところへ歩いていった。不思議そうな顔をするお父様に、思い切って訊いてみる。訊かないと分からないから。
「お父様は、どうして私をお父様の娘にしてくれたの?」
私の質問に、お父様は一瞬目を見開いた。そして静かに私と向かい合い、大きく温かな手で、私の頬にそっと触れた。
「前にも一度答えたと思うが、君が可愛かったからだよ。アリス」
「……本当に?それだけですか?」
お父様の綺麗な紫色の瞳が揺れた気がした。
「きっかけは君の容姿だった。アリスは、死んだ私の妻に似ているんだ」
「お母……いえ、侯爵夫人に?」
「ふふ。そのままお母様と呼んでくれていいよ。その方が彼女も……アリシャも喜ぶだろうから」
「…………」
「きっかけは確かに容姿だった。……けれど、今はそれ以上に本当の娘だと思っているよ。アリス、君はとても聡明でがんばりやさんだ。君は熱心に自分から様々な事を学んで覚えようと努力した。そして私やアルに遠慮しながらも、家族になろうとしてくれている」
「それは……」
全部自分の為だよ。
もちろん、引き取ってくれたお父様の恥にならないようにとも思ったけど。それに遠慮してるのは、二人は魅了の魔法効果で私と居るんだと思ってたからで……
「妻ときちんと夫婦になれたのも、後からだった。私はいつも一人で先走ってしまうところがあってね。……アリス。私はきちんと君の父親になれているだろうか?まだ父親らしい事は、全然出来ていない気がしてね。きっと至らない事ばかりだと思うのだが、私はアリスの父親になりたい。いつだって私は、アリスが私に甘えてきてくれたらと思っているんだよ。だから」
お父様が、私を優しく抱き上げてくれた。ぎゅっとされると安心する。
「だから泣かないで。私のアリス。何か不安にさせたかい?」
違う。だって、ずっとずっと、本当に私を好いてくれる人は居ないって、そう思ってたから。全部全部、偽りだと思っていたから。
「ううん、違うのお父様。私、私ね。お父様が、私のお父様で良かった。娘にしてくれて、ありがとう」
情けない事に、私の声は震えていた。いつの間にか涙がボロボロ溢れてて、一向に止まってくれそうにない。私の涙腺は完全に決壊してしまったようだ。
前世では社会人だったのに、これが肉体年齢に引っ張られるというやつだろうか?どうやら本当に寂しかったらしい私は、お父様の気持ちが偽物ではないと分かって、心の底から喜んでいた。嬉しくて嬉しくて、お父様の抱擁効果もあってか、私はこの世界で『私』という存在を認識してから初めて、心の底から幸福感で満ち足りていた。
「アリス。私もアリスと出会えて良かった。アリスが私の娘になってくれて良かった。私が引き取ったせいで、アリスとアルにはいらぬ苦労をかけるだろう。だが、私はもう君達を手放せない。すまない。愛している」
「お父様……!」
良かった!
良かったよ、本当に!
まだ魅了の魔法は解けないらしいけど、お父様が私の事を本当に娘として好いてくれている事が分かって良かったよ!!
教えてくれてありがとう、クロ!!
私とお父様が親子としての愛情を確かめ合っていると、食堂の扉が開いてアルフォンスが入ってきた。アルは泣いている私を見て、「アリス姉さま?!どうしたんですか?!」と走り寄って来てくれた。
流石私の天使。今日も天使のように可愛いね!
聞いてくれ、弟よ。お姉ちゃんは生まれ変わったのだよ!!家族の愛が本物だと分かった今、お姉ちゃんは無敵の……?!
いや、待って。
今私、都合よく『家族の愛』って脳内変換してたけど、クロはリトフォード卿は魅了の魔法にかかってないって言った。
という事は、アルは?
アルはどうなの?
アルは…………
「お父様、アリス姉さまに何かあったのですか?それに……姉さまを独り占めしていてズルいです。僕も姉さまをぎゅってしたい」
あれ。
私の天使よ、まさか君……
「僕も大好きなアリス姉さまをぎゅってしたいです。仲間に入れて下さい!」
なんてこった。
クロは、アルの事については何も言わなかった。つまりはそういう事だろう。
アルの『好き』は、魅了の魔法による偽物なのだ。
やばい。
もともと覚悟してたのに、お父様の気持ちが本物だって分かったせいか、アルの偽物の気持ちが物凄く精神的にキツい。
「アリス姉さま!僕ともぎゅーして下さい!!」
うぐっ!
クロのばかあああああ!!!
早く魅了の魔法解いてえええええ!!!!!
* * *
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