ひとりでこっそり暮らしていた僕はクマ獣人と幸せになります

余計なことしないでー！

慌てて脱衣所に駆け込み、心を落ち着かせる。
危なかった。
一応、外套が外れたときのために獣耳としっぽは付けているけど、近くで見られたり触られたりしたら偽物ってバレてしまう。

「はぁ…やっぱり無理にでも帰ってればよかった」

この家に来たことを後悔しながら、破れた外套を脱いだ。

浴槽には湯が張られており湯気が立っている。
これに浸かれば暖まるだろうな。

…少しだけ、脚だけ浸けてすぐに戻ろう。

服は今着てる1着しかないから、濡れないように全部脱いだ。

恐る恐る足先を浸け、そこからジーンと暖かくなる。
あまりの心地よさに顔がふにゃけてしまう。

久しぶりの湯船だ。
家では夏は水浴びをし、冬は竈で暖めたお湯を使って身体を拭いている。

ひとりで森の中で暮らしてるから水道はないし、近くの川から水を汲んでいるけど、湯船を張れるほどの大量の水を汲むのは重労働だ。


両足を浸けると、もっと浸かりたいという欲が出てきて無意識に肩まで沈んでいた。

冷えきっていた身体がポカポカしてリラックスしていると、結構な時間が経っていたみたいだ。


「フィル？？大丈夫かい？」
浴室の磨りガラスの向こうに大柄な影が見えた。

「！！！！！なっなっなんでしょうか！！！」

今扉を開けられたら終わりだ。
暖かくてだらけきっていた身体は瞬時に硬直し心臓がバクバクしている。

「逆上せていないか心配になったんだ。大丈夫ならよかった。俺のもので申し訳ないけど着替えを用意したから使ってくれ」

「わかりました！わかりましたので、夕飯の支度に戻ってください。僕もう上がりますから！」

一刻も早くその場から立ち去ってくれ！！

「…わかったよ。急がなくていいからね」


ガラスの向こうの影が消え、ホッとする。
これ以上長湯をしてまた来られたら困る！
さっさと上がろう。

体を拭き、ルーカスさんに用意してもらった服を見ると明らかにサイズが合っていない。

そりゃそうだ。あのデカさだもんな。
チビの僕には大きすぎるよ
「これは着れないな」

自分が着ていた服をもう一度着よう…と思ったけど
「あれ？？ない！？僕の服は？？」

おかしい確かにここに置いたはずだ。

もしかしてルーカスさんが持っていってしまったのか？
余計なことするなよーーー！！
だけど、偽耳と偽尻尾は無事だった。
万が一のことを考えて脱衣所のかごの下に隠しておいたんだ。


仕方ない。
ひとまずこれを着よう。

白いシャツは僕の膝まですっぽりと隠れ、ズボンはストンと下に落ちてしまう。

はぁ、ズボンは無理か。
仕方なくシャツだけ着て耳と尻尾を装着する。

新しく買った外套を羽織り、リビングへ行くと美味しそうな匂いがした。

「…フィル？？どうして外套を着てるんだい？」

「えっと…僕寒がりで…」

「！！そうか、ならもっと薪をたこう！！」

「いえ！大丈夫です。これを着てれば寒くないので。」
部屋の中は十分あったかい。
外套を羽織っていると暑いくらいだ。
これ以上暑くされると、熱がこもって倒れそうだ。
頼むから何もしないでくれ！！

「…そうかい？」

「はい！！それとこのズボン、僕には大きすぎて履けませんでした。シャツだけお借りしています。」

「えっ！？？？今ズボン履いてないのかい！？…あぁ、神よありがとうございます」

この人はやはり変だ。
いきなり神に祈るように感謝しはじめた。
僕は特に信仰心なんてないからよくわからないけど、ズボンを履かないと感謝する風習でもあるんだろうか。

「あのっ、僕の着ていた服知りませんか？」

「あぁ！それなら雪で少し濡れていたから洗濯しておいたよ。明日の朝には乾くと思うから！」

だから余計なことしないでーーー！！
心の中で盛大に叫びました。

僕はこのまま、シャツに外套というおかしな格好で朝まで過ごすことが確定した。