【完結】義妹が『私は聖女よ!』と誤った主張をしたことで婚約破棄まで宣言され居場所を失った私ですが、どうやら私が聖女のようです

よどら文鳥

文字の大きさ
1 / 28

1 身勝手な婚約破棄

しおりを挟む
「アイリス=ローゼンよ、婚約破棄させてもらう! お前の義妹フリンデルが聖女だとわかった今、結婚する意味もなくなった」

「ゴルギーネ様は何を仰っているのでしょうか。まさか私の義妹であるフリンデルが聖女だと言い張っていることを本気にしているのですか?」
「当たり前だ。故に以前、フリンデルが祈った瞬間に恵みの雨も降ってきただろう。彼女の力があれば、アイリスと結婚するメリットもない。お前は何もできない女だし臆病だからな」

 臆病なことは認める。
 何年もの間、義父様に奴隷のように扱われてきたせいで、私は些細なことでも恐怖を感じるようになってしまった。

 ゴルギーネの言う何もできない女というのは、おそらく聖女のような強力な力のことを言っているのだろう。
 聖女でもない私が聖女のようなことができるわけない。
 祈ろうとしても何もおこらないはずなので、聖女活動は何もしてこなかっただけだ。

「私は聖女ではないので……」
「つまり、アイリスの義妹フリンデルの方が優れていていることを認めているのだな」

 ゴルギーネ様はフリンデルのことを最も近くで見てきたはずなのに、フリンデルの強がりで傲慢な性格を見抜けていないだろうか。
 とは言っても偶然義妹が祈った瞬間に久しぶりの雨が降ったので、フリンデルは自分自身を聖女だと思うようになったようだ。
 私もあの時は、雨の加護がありますようにと何度も心の中で念じていたような気もするが、それも偶然だろう。

 ゴルギーネ様が隠れてフリンデルと仲良くして夢中になっているところを何度か目撃したことがあるので、フリンデルの主張を疑うことをしないのだろう。

「フリンデルほどの素晴らしい聖女が近くにいるのに、お前などと婚約したことが間違いだったのだよ」
「つまり、ゴルギーネ様は私よりもフリンデルと婚約したいということでお間違いありませんか?」
「俺の口から言わせるな。だが、慰謝料は払わんぞ。俺がフリンデルと改めて婚約することは、むしろ国を救うと言っても過言ではないのだからな! わかったか!?」
「は……はい……」

 ゴルギーネ様の威圧感がある怒声を聞き、私はたじろいでしまった。

 少し心が落ち着いてきて、よくよく考えてみればおかしな話だ。
 いずれはゴルギーネ男爵として爵位を継ぐのだろうけれど、私たち貴族の下っ端が国を救うなどとなにを寝ぼけたことを言っているのだろうか。
 傲慢な義妹を好きになるくらいだから、ゴルギーネ様本人も傲慢な男なのか。
 むしろ、婚約破棄を宣言してくれたことだけは、今後のことを考えれば私にとって救いへの道なのかもしれない。

 だが、せめて婚約破棄を婚約解消にしなければ……。
 私は思っている感情を全て顔に出さないようにしてお願いをすることにした。

「そうですか。そこまで仰るのならばこれ以上は何も言いません。ですが、婚約解消にしていただけますか? 私としても、今後の人生に影響することですので……」
「ふっ……フリンデルがこれから聖女として活躍することが公に知れれば、アイリスのような無能女のことなど誰も寄ってこないとは思うが」

 もし私に力があれば、一発ビンタでもお見舞いしておきたいが、そんなことをすれば何をされるかわからない恐怖が優ってしまい何もできない。
 ひとまずは目的達成のためになんとかお願いする形をとった。

「それでも構いませんので、お願いします」
「仕方がない、婚約解消で我慢しておこうか。これも一時の間はアイリスのことを好きになってしまった俺への罰だと思っておこう」
「ありがとうございます」

 おもいっきり笑顔でお礼を言った。
 内心でも、このような男と縁を切ることができて良かったと思っている。
 義父様が勝手に決めた縁談だが、ゴルギーネ様の狙いは義妹のフリンデルだし、婚約解消に反対することはないだろう。

 これで私の肩の荷が下りるというものだ。
 だが、今まで義父様は私のことを雑に扱ってきたから、今回の婚約解消で何を言われるかがわからない。
 いつでも家から逃げ出せるくらいの警戒は意識しておくか。
 私は重い足取りでクリヴァイム家へ帰った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します

けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」 婚約者として五年間尽くしたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。 他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。 だが、彼らは知らなかった――。 ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。 そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。 「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」 逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。 「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」 ブチギレるお兄様。 貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!? 「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!? 果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか? 「私の未来は、私が決めます!」 皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

悪役令嬢は手加減無しに復讐する

田舎の沼
恋愛
公爵令嬢イザベラ・フォックストーンは、王太子アレクサンドルの婚約者として完璧な人生を送っていたはずだった。しかし、華やかな誕生日パーティーで突然の婚約破棄を宣告される。 理由は、聖女の力を持つ男爵令嬢エマ・リンドンへの愛。イザベラは「嫉妬深く陰険な悪役令嬢」として糾弾され、名誉を失う。 婚約破棄をされたことで彼女の心の中で何かが弾けた。彼女の心に燃え上がるのは、容赦のない復讐の炎。フォックストーン家の膨大なネットワークと経済力を武器に、裏切り者たちを次々と追い詰めていく。アレクサンドルとエマの秘密を暴き、貴族社会を揺るがす陰謀を巡らせ、手加減なしの報復を繰り広げる。

処理中です...