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1 身勝手な婚約破棄
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「アイリス=ローゼンよ、婚約破棄させてもらう! お前の義妹フリンデルが聖女だとわかった今、結婚する意味もなくなった」
「ゴルギーネ様は何を仰っているのでしょうか。まさか私の義妹であるフリンデルが聖女だと言い張っていることを本気にしているのですか?」
「当たり前だ。故に以前、フリンデルが祈った瞬間に恵みの雨も降ってきただろう。彼女の力があれば、アイリスと結婚するメリットもない。お前は何もできない女だし臆病だからな」
臆病なことは認める。
何年もの間、義父様に奴隷のように扱われてきたせいで、私は些細なことでも恐怖を感じるようになってしまった。
ゴルギーネの言う何もできない女というのは、おそらく聖女のような強力な力のことを言っているのだろう。
聖女でもない私が聖女のようなことができるわけない。
祈ろうとしても何もおこらないはずなので、聖女活動は何もしてこなかっただけだ。
「私は聖女ではないので……」
「つまり、アイリスの義妹フリンデルの方が優れていていることを認めているのだな」
ゴルギーネ様はフリンデルのことを最も近くで見てきたはずなのに、フリンデルの強がりで傲慢な性格を見抜けていないだろうか。
とは言っても偶然義妹が祈った瞬間に久しぶりの雨が降ったので、フリンデルは自分自身を聖女だと思うようになったようだ。
私もあの時は、雨の加護がありますようにと何度も心の中で念じていたような気もするが、それも偶然だろう。
ゴルギーネ様が隠れてフリンデルと仲良くして夢中になっているところを何度か目撃したことがあるので、フリンデルの主張を疑うことをしないのだろう。
「フリンデルほどの素晴らしい聖女が近くにいるのに、お前などと婚約したことが間違いだったのだよ」
「つまり、ゴルギーネ様は私よりもフリンデルと婚約したいということでお間違いありませんか?」
「俺の口から言わせるな。だが、慰謝料は払わんぞ。俺がフリンデルと改めて婚約することは、むしろ国を救うと言っても過言ではないのだからな! わかったか!?」
「は……はい……」
ゴルギーネ様の威圧感がある怒声を聞き、私はたじろいでしまった。
少し心が落ち着いてきて、よくよく考えてみればおかしな話だ。
いずれはゴルギーネ男爵として爵位を継ぐのだろうけれど、私たち貴族の下っ端が国を救うなどとなにを寝ぼけたことを言っているのだろうか。
傲慢な義妹を好きになるくらいだから、ゴルギーネ様本人も傲慢な男なのか。
むしろ、婚約破棄を宣言してくれたことだけは、今後のことを考えれば私にとって救いへの道なのかもしれない。
だが、せめて婚約破棄を婚約解消にしなければ……。
私は思っている感情を全て顔に出さないようにしてお願いをすることにした。
「そうですか。そこまで仰るのならばこれ以上は何も言いません。ですが、婚約解消にしていただけますか? 私としても、今後の人生に影響することですので……」
「ふっ……フリンデルがこれから聖女として活躍することが公に知れれば、アイリスのような無能女のことなど誰も寄ってこないとは思うが」
もし私に力があれば、一発ビンタでもお見舞いしておきたいが、そんなことをすれば何をされるかわからない恐怖が優ってしまい何もできない。
ひとまずは目的達成のためになんとかお願いする形をとった。
「それでも構いませんので、お願いします」
「仕方がない、婚約解消で我慢しておこうか。これも一時の間はアイリスのことを好きになってしまった俺への罰だと思っておこう」
「ありがとうございます」
おもいっきり笑顔でお礼を言った。
内心でも、このような男と縁を切ることができて良かったと思っている。
義父様が勝手に決めた縁談だが、ゴルギーネ様の狙いは義妹のフリンデルだし、婚約解消に反対することはないだろう。
これで私の肩の荷が下りるというものだ。
だが、今まで義父様は私のことを雑に扱ってきたから、今回の婚約解消で何を言われるかがわからない。
いつでも家から逃げ出せるくらいの警戒は意識しておくか。
私は重い足取りでクリヴァイム家へ帰った。
「ゴルギーネ様は何を仰っているのでしょうか。まさか私の義妹であるフリンデルが聖女だと言い張っていることを本気にしているのですか?」
「当たり前だ。故に以前、フリンデルが祈った瞬間に恵みの雨も降ってきただろう。彼女の力があれば、アイリスと結婚するメリットもない。お前は何もできない女だし臆病だからな」
臆病なことは認める。
何年もの間、義父様に奴隷のように扱われてきたせいで、私は些細なことでも恐怖を感じるようになってしまった。
ゴルギーネの言う何もできない女というのは、おそらく聖女のような強力な力のことを言っているのだろう。
聖女でもない私が聖女のようなことができるわけない。
祈ろうとしても何もおこらないはずなので、聖女活動は何もしてこなかっただけだ。
「私は聖女ではないので……」
「つまり、アイリスの義妹フリンデルの方が優れていていることを認めているのだな」
ゴルギーネ様はフリンデルのことを最も近くで見てきたはずなのに、フリンデルの強がりで傲慢な性格を見抜けていないだろうか。
とは言っても偶然義妹が祈った瞬間に久しぶりの雨が降ったので、フリンデルは自分自身を聖女だと思うようになったようだ。
私もあの時は、雨の加護がありますようにと何度も心の中で念じていたような気もするが、それも偶然だろう。
ゴルギーネ様が隠れてフリンデルと仲良くして夢中になっているところを何度か目撃したことがあるので、フリンデルの主張を疑うことをしないのだろう。
「フリンデルほどの素晴らしい聖女が近くにいるのに、お前などと婚約したことが間違いだったのだよ」
「つまり、ゴルギーネ様は私よりもフリンデルと婚約したいということでお間違いありませんか?」
「俺の口から言わせるな。だが、慰謝料は払わんぞ。俺がフリンデルと改めて婚約することは、むしろ国を救うと言っても過言ではないのだからな! わかったか!?」
「は……はい……」
ゴルギーネ様の威圧感がある怒声を聞き、私はたじろいでしまった。
少し心が落ち着いてきて、よくよく考えてみればおかしな話だ。
いずれはゴルギーネ男爵として爵位を継ぐのだろうけれど、私たち貴族の下っ端が国を救うなどとなにを寝ぼけたことを言っているのだろうか。
傲慢な義妹を好きになるくらいだから、ゴルギーネ様本人も傲慢な男なのか。
むしろ、婚約破棄を宣言してくれたことだけは、今後のことを考えれば私にとって救いへの道なのかもしれない。
だが、せめて婚約破棄を婚約解消にしなければ……。
私は思っている感情を全て顔に出さないようにしてお願いをすることにした。
「そうですか。そこまで仰るのならばこれ以上は何も言いません。ですが、婚約解消にしていただけますか? 私としても、今後の人生に影響することですので……」
「ふっ……フリンデルがこれから聖女として活躍することが公に知れれば、アイリスのような無能女のことなど誰も寄ってこないとは思うが」
もし私に力があれば、一発ビンタでもお見舞いしておきたいが、そんなことをすれば何をされるかわからない恐怖が優ってしまい何もできない。
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「それでも構いませんので、お願いします」
「仕方がない、婚約解消で我慢しておこうか。これも一時の間はアイリスのことを好きになってしまった俺への罰だと思っておこう」
「ありがとうございます」
おもいっきり笑顔でお礼を言った。
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義父様が勝手に決めた縁談だが、ゴルギーネ様の狙いは義妹のフリンデルだし、婚約解消に反対することはないだろう。
これで私の肩の荷が下りるというものだ。
だが、今まで義父様は私のことを雑に扱ってきたから、今回の婚約解消で何を言われるかがわからない。
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私は重い足取りでクリヴァイム家へ帰った。
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