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15 幸せを掴む

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「ジューリーの婚約者だった男はダルム=ファイファンと言ったね……?」
「確かそうだったと思います」

曖昧な返事をザーレムさんに返しました。
今が幸せすぎて、過去の相手のこと名前など覚えている余裕はありませんからね。

「風の噂で聞いたのだがね、放火で焼死したらしい」
「え? 放火!?」

流石にこれには驚きました。
マーヤも巻き添えを喰らったのでしょうか。
恨みがあるとはいえ、命に関わると流石に同情します。

「ファイファン家に何者かが火を放ったそうだよ。で、その犯人が捕まったそうなんだけれどね……」
「……」
「マーヤ=アルファードだと……」
「はい!?」

何を血迷ったんでしょうかマーヤは!
同情すると言ったのは取り消しましょうか。
本当ならば、もはや救いようもないですね……。

「なんでも、ダルム男爵に捨てられてどうしようも出来なくて、恨みで同じ目に合わせようとしたらしいよ。まさか焼死するとは思っていなかったと供述しているようだけど、火を放ったらどうなるか理解できないものかね……」
「学力は恐ろしく低かったので本当かもしれませんね。言い訳にもなりませんが」
「当然彼女は極刑になるし、両親も貴族としての地位も失うだろうね。一応報告しておこうかと思ったんだけれど、余計なことだったかい?」
「いえ、今のうちに知れてよかったです。もしもダーレーアビアに行くことがあって、そのときに知ったら更に衝撃でしたし」

マーヤが窮地に追いやられた時点で嫌な予感はしていました。
あの子、頭の中がお花畑ですからね。
火を放ったら中にいる人はどうなるかなんて理解できなかったのでしょう。
おそらくダルムも平気でマーヤを捨てたのでしょう……。
婚約破棄を平気で出来る男の罰とでもいうのでしょうか。
自業自得というか……、命を奪われたことは同情しますが、ダルムがもう少し考えていればこんなことにはならなかったのでは?

しばらく頭の中でモヤモヤしながら生活を送っていました。
しかし、ロイス様を中心に、ハイマーネ一家からの温情と優しさに包まれ、やがて元気になりました。
私はバイアリタークのハイマーネ家で暮らしていくのですから、いつまでもひきづってもダメですね。
元気出していきましょうか。

そして、半年が過ぎました。



「今日はどこへ連れて行ってくださるのです?」
「あぁ、今日も俺の行きたい場所で良いのか?」
「もちろんですよ。ロイス様の行きたい場所でつまらなかったことなど一度もありませんから」

ロイス様のデートプランは、私の好みと似ていることがわかりました。
何度か連れていってもらったおかげで、私の気持ちは既にロイス様で埋め尽くされています。
一緒にいられるだけで幸せですよ。

馬車に揺られながら今日の目的地へと向かいました。
普段こないようなルートですね。

え……?
なぜ王都の外れにある山を登っているでしょうか?

「ロイス様? こちらはあまり人が来ないような場所ですけれども……」
「そうだ。だから良いんだよ」
「え……」

既にロイス様とは恋人関係です。
私は貴族として育ってきました。
結婚するまでは、そういうことはオアズケと思っています。
しかしながら、ロイス様の考えていることはそういうことなのでは……と思ってしまうのでした。

やがて馬車は止まり、ロイス様が御者に命じます。

「すまないが、日がくれるまでこの場所で待機してほしい」

私は馬車から降ろされ、手を繋いで更に山を登っていきます。
人が来ない場所、ロイス様と二人きり。

ドキドキは最高潮です。
ロイス様が望むのならば、それでもいいでしょう。
本心としては、紳士なロイス様が好きなのですが……。

「ジューリーを、ここに連れてきたかったんだ」
ロイス様が指を指す方向をみて、私は感動しました。

「うわぁあああ! 綺麗!!」

王都の街並みを一望できる景色です。
絶景と言えるでしょう。

「ここは誰も知らない、俺の一番好きな場所なんだ」
「……」
「一番好きな場所に一番愛している人と共に来るのが夢だった」

よからぬことを……などと考えてしまった自分を恥じます。
嬉しさのあまり、涙を溢しながらロイス様の身体をぎゅっとしてしまいました。

「ジューリーよ、俺と結婚して共に人生を歩んでほしい」
「……嬉しくて死にそうです」
「俺もだ」

絶景が見渡せる素晴らしい場所で、一番嬉しい言葉をいただきました。
私がこんなに幸せになれて良いのでしょうか。
一年前の地獄生活と比べたら、まるで真逆です。

「これも用意してあるんだ」

私の薬指に、美しく輝く指輪をはめられました。

「ジューリーはこの景色のように美しく、俺にとってはかけがえのない宝なんだ。迷惑をかけることもあるかもしれないが、これからもよろしく頼む」



「はい、ロイス様を愛しています!」
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