【完結】物作りを頑張っている婚約者にベタ惚れしてしまったので、応援していたらなぜか爵位が上がっていきます

よどら文鳥

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「私の今があるのは、すべてソフィーナのおかげですよ。ありがとう」

 玉座の間にて、今日で十五歳になったレオルド=ミルフィーヌ様は男爵の爵位を授与された。
 私は彼の婚約者として一緒にいただけである。
 レオルド様と一緒にいるようになってから、毎日が幸せでしかない。
 いっぽう、私の元家族はというと、悔しそうにしながらハンカチを噛み締めていた。
 今まで大変だったなぁ。
 ふと、今までのことを走馬灯のように思い出してしまった。

 ♢

 モンブラー子爵邸の物置小屋にて。
 私は今日もここから出ることを許されず、魔法の訓練を行なっていた。
 訓練といっても、実際に魔法を発動して、火事などを起こしても困るということで、イメージトレーニングだけだ。
 目を瞑り、瞑想するだけである。

「ほら、今日のエサよ。ソフィーナったら、そんなことをしてなにか意味があるとでも?」

 腹違いの義姉様が、嫌らしい目をしながら物置小屋の扉を開け、入ってきた。
 義姉様は毎日一度、私の食事を届けに来てくれるのだ。
 もちろん嫌々仕方なく届けていることは重々理解している。

「私にはこれくらいしかすることがありませんから」
「そんな無駄なことをして、魔法学園に入学できるとでも?」
「いえ。私を入学させるお金はないと、お父様から言われていますし。だから自己流で魔法の勉強をするしかないので……」
「当たり前でしょ! 庶民の血が混じっているソフィーナなんて、行く価値もないわ!」

 モンブラー子爵邸当主の不倫相手との間に産まれたのが私。
 モンブラー子爵一家にとって私は必要のない子だと直接何度も言われ続けられている。
 だが、いつか外に出て楽しい生活を送ってみたい。
 この国では、魔法に優れている者が良い職に就きやすいと教えられた。
 いつの日か外へ出られるときのために、四歳のころから毎日イメージトレーニングで魔法の訓練をしてきた。
 しかし、もう私は十四歳。
 貴族界隈では婚約相手も決まっているのが当たり前の歳になってしまった。
 もちろん、同い年の義姉様には婚約相手がいる。

「あ、そうそう。お父様が呼んでくるよう言われていたんだった。屋敷に入って良いそうよ」
「わかりました。食べたら向かい――」
「いえ。今すぐに来なさい!」

 ――べちゃ!!

 義姉様はそう言いながら、私の食事を足で踏み潰してしまった。
 これで今日もなにも食べることができないのか……。

「たとえこのまま餓死しても、誰も困らないものね」
「おなかすいた……」
「良いから、さっさと屋敷に来なさい!」

 強引に腕を引っ張られ、屋敷に連れていかれた。
 栄養もろくに摂れず、運動もしていないため体力がほとんどない。
 そんなに早歩きされたら息苦しくなってしまう……。

 ♢

 久しぶりの屋敷。物置小屋とは違い、使用人たちの手により綺麗に清掃されていることが良くわかる。
 お父様は魔力が高く、国の治安関連の総括を任されているらしい。
 そのため、子爵という立場の中でもかなりの稼ぎがあるそうだ。

 お父様の執務部屋へ入ると……。

「汚いゴミが来たか。臭くてかなわん!」
「申しわけありません」
「庭の噴水で綺麗にしろとあれだけ言っただろう!」

 そうは言っても、今は噴水が凍ってしまいそうなくらい極寒の季節だし水浴びができない。
 魔法の使用許可さえもらえればなにかしらできそうな気はするのだが……。

「噴水で水浴びするには寒くて……」
「ばっかもん!!」

 すぐにお父様の平手打ちが飛んできた。
 頬がジンジンと痛む。
 これは日常的なことで、もう慣れっこだ。
 横で義姉様がこの状況をクスクスと笑っている。

「今までとおまえの状況が変わってしまった。少しは綺麗になってもらわねば困るのだよ」
「と、言いますと?」
「用件だけ伝える。ソフィーナに縁談の話が来てな。結納金で少しは金になるから、おまえもわずかながら子爵邸の役になる」
「「え!?」」

 私だけでなく、義姉様にとっても意外だったらしく、一緒に驚いてしまった。

「ちょっとお父様! なんでこんな平民の血が混じった女に縁談なんか」
「ふっ、おまえには後で説明してやろう。ともかくソフィーナには選択権などはない」

 お父様は私を見ながら嘲笑ってくる。

「相手はレオルド=ミルフィーヌという男爵家の次男でソフィーナと同い年の十四歳だ。まぁ、大方婚約相手も見つからず、探しに探してソフィーナで妥協したと言ったところだ」
「なーんだ。男爵家の次男ならまだ納得ですわね。次男じゃ男爵を継ぐこともできないし、婚約者が見つけられない程度のお方ではそのまま落ちこぼれへと進んでいくんでしょう」
「そういうことだ。だが、ソフィーナがそこに行ってくれさえすれば、我がモンブラー邸にとってもメリットしかない。ゴミを引き取ってくれるうえに大金まで入ってくるのだから」

 散々ゴミ扱いしてくるが、それでも私は顔に出さないようにして喜んでいた。
 これで、ようやく外に出ることができるのだから。
 私のことを拾ってくれた相手のことは知らないけれど、感謝しかない。

「モンブラー子爵邸の誇りとして、このままの姿で出すことはできんからな。仕方がないから最低限の服を着させ、屋敷内の風呂を使い徹底的に綺麗にさせる」
「ありがとうございます」
「ただし、わかっているな? もしもこの家で起こっていたことを話すようなことをすれば……。ソフィーナだけでなく婚約者も地獄に落ちることになるからな」
「は、はい……。なにも言いません」

 お父様は脅しではなく本当に権力を使って潰しにかかってくるに違いない。
 それだけの権力も地位もある。
 だが、特に言うつもりはなかった。
 一応最低限の食事はもらえていたし、生かせてはくれた。
 自分から復讐をしたいなどとは思わない。
 むしろこれからの外での生活にワクワクしているだけだった。
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