俺はヒーローなんかじゃない

ここクマ

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俺は君のヒーローだ。

31 友達side太狼

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最近、妙なことがある。
それは、俺の腐れ縁の友達であり、俺の片想いの相手のこと。

毎日の様に夕飯を食べに行くカフェ。
いつもなら、分かりやすいくらい俺に嫌われようと行動するそいつが最近何もしてこない。

俺の感情をおもちゃの様に遊ぶそいつ。
だが、俺は知っている。その行動の裏に複雑な感情が隠れていることを。
思えば、あいつはいつもそうだった。
矛盾した感情に悩まされて、けれどそれを隠す様に笑う。笑って誤魔化して触れさせない様にする。

『ねぇ、テンテン……僕のこと、嫌いになってよ。』

遥か昔に聞いた言葉。泣きそうに声は震えていたのに、それを誤魔化すように笑っていた顔。

『いやだ。』
『なん、で……』
『お前、俺が居なきゃだめだろ。』

過信じゃない。フラフラと色々な奴のところに行く人間が俺とだけは何年も一緒にずっといる。
俺も離れようとはしないけれど、お前だって離れようとはしなかった。

『……っ、テンテンのばか……ばか、ばーか!』

涙をこらえながら必死に語彙力の無い抵抗をしてくる。

何年も隣にいるからわかっていた。

(自分が嫌いになれないから、嫌いになってほしいんだろ。)

だから、嫌われようとする姿すら愛しく思っていた。
けれど、最近はそれがない。電話をしても計算の無い普通の会話だけ。実際に会っても変わらない。
普通なら喜べる変化。
それなのに、俺は喜べないでいる。

(もう、俺に嫌われる必要が無くなったのか?)


今日もいつものようにカフェに行く。

「いらっしゃい、テンテン。」
「あぁ……。」

カウンター席に座って既に用意された温かいパスタを食べる。

「いただきます。」
「はい、召し上がれ。」
「……。」
「…………テンテン、今日元気ない?」

本当に心の底からの心配。
こいつのこんな顔、いつ振りに見ただろうか。

「いや、大丈夫だ。」

心がぐしゃぐしゃになって気持ちの整理がつかない。
(俺は何を恐れている。俺はどうして焦っている。)

「ご馳走さま。」
(味がしなかった……。)
「テンテン、これからどっか行く?」
「いや、家に帰るだけだ。」
「じゃあ、さ……この後……」

満たされない。
つまらない。

「……なぁ、智也……」
「え、なに?」

わからない。
知りたい。
だけど、知ってしまえば壊れてしまうだろう。

『もう、俺は要らないのか?』

出そうになった言葉を飲み込んで、暗闇に放つ。
(あぁ、俺はどうしたって臆病で、弱いな。)

「今、楽しいか?」
「え、うん。楽しいけど?」

いつもなら、笑顔が付いてくるのにキョトンとした顔でそう言われる。
その表情と答えを聞いて、ストンと落ちた。

(そうか……もう、本当に……俺が居なくても、もう、大丈夫なのか……)

「……ねぇ、急に、どうしたの?」
「いや。お前が幸せそうでよかった。」
「えぇ!なにそれ?」
「ははっ、そのままの意味だよ。」

俺は今、ちゃんと笑えているだろうか。
いつもと変わらぬ自分を作れているだろうか。

「そうだ、智也。俺はしばらくココに来ないよ。」
「え?!な、なんで?」
「ははっ、本当にお前はわかりやすいな。大丈夫だ。しばらくだけだから。」
「っ、そ、そっか……」

心にあくのは孤独か空虚か。

スーツのポケットの中に手を突っ込む。
冷たい、誰もはめることのない指輪がそこにある。
それを少しいじってから財布を取り出す。

「じゃあ、これ会計な。釣りはまた今度返してくれ。」
「あ、ちょ!テンテン!」

智也の声を背に、俺は構わず歩き出す。
店を出て指輪を眺める。

「寂しい……のか、俺は。それに、苦しいな……。」

些細な変化かもしれない。
けど、変わったことに変わりはない。
握りしめた指輪をまたポケットの中にしまう。

幸せになってくれればいいと思っていた。
自分を大切にしてくれればそれでいいと。

けれど、そうだ。
友達にはそれを眺めることしかできないんだ。


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