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第28話
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格納庫から出てエプロンを歩きながらシドは案らしきものを打ち出す。
「まずは第一基地に行かなきゃ話にならねぇよな」
「目的は?」
「破壊工作。当然だろ」
「『一機でも上がれば勝ち』だっけ」
「それでここに帰ってこなきゃならねぇんだ」
「こっちのサボタージュとダグラスの監視だね」
「電磁虫のサンプルの在処さえ分かれば、あんな男どうだっていいんだがな」
「バラ撒かれたらリモータすらアウトだもん。クーデターどころか暴動、下手すればジェノサイドが起こるよ。そんな星に居たくないって言うのは本音だよね」
相棒の本音が出て、シドも本音が出た。
「キン○マ撃ち落として吐かせてやろうか、あのゲイ野郎」
「うーん、色んな意味で不適切な発言だなあ。それにダグラスはゲイじゃないよ」
「何だ、余計に無節操じゃねぇか」
「……」
隊員宿舎への道を辿りながら黙ったままのハイファをシドが睨む。
「人にばっかり考えさせてないで、お前も何か提案しろよな」
「僕は閃きや思いつきでストライクしないからね。せめて端末くらいないと」
「また頭脳派を気取りやがって」
「肉体派じゃないのは自覚してるもん」
隊員宿舎の十二階に上がると一二〇七号室に向かう廊下の途中の部屋で、他の兵士らと談笑しているダグラスとラリーの姿を発見した。
「幽霊兵士がこんな所で立場を確立してるとはな」
「入ってみる?」
そこは娯楽室と名のついたオートドリンカとテーブルとパイプ椅子しかない部屋だ。デカ部屋くらいの広さがあるだろうか。ダグラスとラリーの他にも非番らしい兵士らが七、八人固まって話している。
シドとハイファが足を踏み入れると、喋りながらも全員が見慣れぬ二人に目を向けた。そうでなくとも執銃した二人は目立つ。
「おっ、宝探しは終わったのか?」
「あんたの口の中を探したいところなんだがな」
ダグラスにそう返しながらシドは椅子に腰掛け、テーブル上の灰皿を引き寄せると煙草を咥えて火を点けた。ハイファがオートドリンカで保冷ボトルのコーヒーを一本買ってきて口をつけながらテーブルに腰を預け、コーヒーをシドに手渡してやる。
「ねえ、ダグラス。何でティム=カーライル二尉を殺したのサ?」
一瞬、皆が黙ったがすぐに話を再開した。何かの冗談とでも思ったらしい。
「元々上の命令で組んだバディだったからな。気が合わなかったのさ」
「それだけ?」
「分別臭く説教垂れて、陰では上に俺を密告しようとしたんで、ズドン!」
笑いながら語る男を見上げたシドの目に怒気が閃く。気付いたハイファが宥めた。
「ダグラスはね、誰にでも平等に人でなしなんだよ。だから許してやってよ」
「どんな理由だよ、それは?」
「多少なりともそういう要素が別室員には必要だってこと」
「そういやお前も薄愛主義者だったよな」
「別室任務はそうでなきゃ務まらないよ」
「ユアン=ガードナーの妖怪野郎も、えげつないまでの人でなしだもんな」
一緒にされたくないらしく、ハイファだけでなくダグラスまでが嫌な顔をした。
「あの人は特別」
「だからって俺は七分署管内での殺人を許すつもりはねぇからな」
自分を睨みつけるシドにダグラスは指で銃を形作って撃つ真似をする。
「俺がテラ連邦全域指名手配になってから、その科白は言うんだな」
「どうせ機密資料はあんたのリモータに入ってるんだろ。その左腕ごとちぎって任務三分の一完了でも俺は構わねぇんだぞ」
「真顔で言うのは止めてくれないか?」
バディが冗談を言っていないと知るハイファは、慌てて対衝撃ジャケットの右袖を引いた。危機感もなく笑う元バディの長身を見上げて訊く。
「ダグラス。本当に電磁虫をバラ撒くつもりなの?」
「俺はジョークで人殺しはしない」
「ふざけていそうで、じつは何もかも本気なのは分かってるけどサ。ねえ、ヒントくらいくれてもいいんじゃない?」
「ヒントか、それも面白そうだな。だがそっちは交換に何をくれるんだ?」
言葉に詰まったハイファの顎に手を掛けて上を向かせ、ダグラスは口づけた。
周囲が「おおーっ!」と歓声を上げる中、ラリーが黙って僅かに顔色を変える。
一瞬ののち、抵抗を見せないハイファの代わりに表情を一切変えずシドがガチギレし、煙草を灰皿に投げ捨てると椅子を蹴って立ち上がった。
ハイファの顎に掛けたダグラスの手を払い除けると割って入ってダグラスの腹に膝蹴りを入れる。躰を折って退いた男の腕を掴み、右ストレートを頬に叩き込んだ。
ガタガタと椅子を倒しテーブルに背を打ち付けたダグラスは起き上がるなりシドにこぶしを振るう。当たらない。だが続けて放った前蹴りがシドの胸に入った。
咳き込みながらもシドは長身の相手に上段蹴りを放つ。避けられたが連続で見舞った後ろ回し蹴りが腹にヒット。腰の入った蹴りに吹っ飛ばされてダグラスは尻餅をついた。
しかし近づいてきたシドに足払いを掛け、体勢を崩させておいてダグラスは跳ね起き腹を殴る。三発目でその袖を掴んだシドは身を沈めつつ一歩間合いを取った。制服の胸ぐらを掴んで身を返し、腰に相手の体重を載せて背負い投げる。
床に叩きつけたダグラスを容赦なくシドは蹴った。腹を庇い躰を折ったところでベルトの後ろに付けたリングから捕縛用の樹脂製結束バンドを引き抜き、強引に後ろ手に縛り上げる。
「元軍人ふぜいが、現役サツカンを舐めんなよ」
言い捨てて気付くと周囲はドン引きしていた。たった十五秒足らずの間に娯楽室は目茶苦茶、それも原因が男同士の痴話喧嘩である。
「シドっ、大丈夫?」
我に返ってハイファが駆け寄ってきた。一方でラリーがダグラスを看ている。
「部屋に帰るぞ」
さっさと娯楽室を出るシドにハイファも従った。部屋に帰るまで二人して無言のままだった。
「まずは第一基地に行かなきゃ話にならねぇよな」
「目的は?」
「破壊工作。当然だろ」
「『一機でも上がれば勝ち』だっけ」
「それでここに帰ってこなきゃならねぇんだ」
「こっちのサボタージュとダグラスの監視だね」
「電磁虫のサンプルの在処さえ分かれば、あんな男どうだっていいんだがな」
「バラ撒かれたらリモータすらアウトだもん。クーデターどころか暴動、下手すればジェノサイドが起こるよ。そんな星に居たくないって言うのは本音だよね」
相棒の本音が出て、シドも本音が出た。
「キン○マ撃ち落として吐かせてやろうか、あのゲイ野郎」
「うーん、色んな意味で不適切な発言だなあ。それにダグラスはゲイじゃないよ」
「何だ、余計に無節操じゃねぇか」
「……」
隊員宿舎への道を辿りながら黙ったままのハイファをシドが睨む。
「人にばっかり考えさせてないで、お前も何か提案しろよな」
「僕は閃きや思いつきでストライクしないからね。せめて端末くらいないと」
「また頭脳派を気取りやがって」
「肉体派じゃないのは自覚してるもん」
隊員宿舎の十二階に上がると一二〇七号室に向かう廊下の途中の部屋で、他の兵士らと談笑しているダグラスとラリーの姿を発見した。
「幽霊兵士がこんな所で立場を確立してるとはな」
「入ってみる?」
そこは娯楽室と名のついたオートドリンカとテーブルとパイプ椅子しかない部屋だ。デカ部屋くらいの広さがあるだろうか。ダグラスとラリーの他にも非番らしい兵士らが七、八人固まって話している。
シドとハイファが足を踏み入れると、喋りながらも全員が見慣れぬ二人に目を向けた。そうでなくとも執銃した二人は目立つ。
「おっ、宝探しは終わったのか?」
「あんたの口の中を探したいところなんだがな」
ダグラスにそう返しながらシドは椅子に腰掛け、テーブル上の灰皿を引き寄せると煙草を咥えて火を点けた。ハイファがオートドリンカで保冷ボトルのコーヒーを一本買ってきて口をつけながらテーブルに腰を預け、コーヒーをシドに手渡してやる。
「ねえ、ダグラス。何でティム=カーライル二尉を殺したのサ?」
一瞬、皆が黙ったがすぐに話を再開した。何かの冗談とでも思ったらしい。
「元々上の命令で組んだバディだったからな。気が合わなかったのさ」
「それだけ?」
「分別臭く説教垂れて、陰では上に俺を密告しようとしたんで、ズドン!」
笑いながら語る男を見上げたシドの目に怒気が閃く。気付いたハイファが宥めた。
「ダグラスはね、誰にでも平等に人でなしなんだよ。だから許してやってよ」
「どんな理由だよ、それは?」
「多少なりともそういう要素が別室員には必要だってこと」
「そういやお前も薄愛主義者だったよな」
「別室任務はそうでなきゃ務まらないよ」
「ユアン=ガードナーの妖怪野郎も、えげつないまでの人でなしだもんな」
一緒にされたくないらしく、ハイファだけでなくダグラスまでが嫌な顔をした。
「あの人は特別」
「だからって俺は七分署管内での殺人を許すつもりはねぇからな」
自分を睨みつけるシドにダグラスは指で銃を形作って撃つ真似をする。
「俺がテラ連邦全域指名手配になってから、その科白は言うんだな」
「どうせ機密資料はあんたのリモータに入ってるんだろ。その左腕ごとちぎって任務三分の一完了でも俺は構わねぇんだぞ」
「真顔で言うのは止めてくれないか?」
バディが冗談を言っていないと知るハイファは、慌てて対衝撃ジャケットの右袖を引いた。危機感もなく笑う元バディの長身を見上げて訊く。
「ダグラス。本当に電磁虫をバラ撒くつもりなの?」
「俺はジョークで人殺しはしない」
「ふざけていそうで、じつは何もかも本気なのは分かってるけどサ。ねえ、ヒントくらいくれてもいいんじゃない?」
「ヒントか、それも面白そうだな。だがそっちは交換に何をくれるんだ?」
言葉に詰まったハイファの顎に手を掛けて上を向かせ、ダグラスは口づけた。
周囲が「おおーっ!」と歓声を上げる中、ラリーが黙って僅かに顔色を変える。
一瞬ののち、抵抗を見せないハイファの代わりに表情を一切変えずシドがガチギレし、煙草を灰皿に投げ捨てると椅子を蹴って立ち上がった。
ハイファの顎に掛けたダグラスの手を払い除けると割って入ってダグラスの腹に膝蹴りを入れる。躰を折って退いた男の腕を掴み、右ストレートを頬に叩き込んだ。
ガタガタと椅子を倒しテーブルに背を打ち付けたダグラスは起き上がるなりシドにこぶしを振るう。当たらない。だが続けて放った前蹴りがシドの胸に入った。
咳き込みながらもシドは長身の相手に上段蹴りを放つ。避けられたが連続で見舞った後ろ回し蹴りが腹にヒット。腰の入った蹴りに吹っ飛ばされてダグラスは尻餅をついた。
しかし近づいてきたシドに足払いを掛け、体勢を崩させておいてダグラスは跳ね起き腹を殴る。三発目でその袖を掴んだシドは身を沈めつつ一歩間合いを取った。制服の胸ぐらを掴んで身を返し、腰に相手の体重を載せて背負い投げる。
床に叩きつけたダグラスを容赦なくシドは蹴った。腹を庇い躰を折ったところでベルトの後ろに付けたリングから捕縛用の樹脂製結束バンドを引き抜き、強引に後ろ手に縛り上げる。
「元軍人ふぜいが、現役サツカンを舐めんなよ」
言い捨てて気付くと周囲はドン引きしていた。たった十五秒足らずの間に娯楽室は目茶苦茶、それも原因が男同士の痴話喧嘩である。
「シドっ、大丈夫?」
我に返ってハイファが駆け寄ってきた。一方でラリーがダグラスを看ている。
「部屋に帰るぞ」
さっさと娯楽室を出るシドにハイファも従った。部屋に帰るまで二人して無言のままだった。
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