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一方、エミリア達が国を去った後、人々は深い眠りから覚めた。
妖精がいなくなったことも、加護がなくなり魔法が使えなくなったことにも、まだ気づいていないこの瞬間が、おそらく国民たちにとって、最後の幸せだった。
エミリアの妹、アイラもまたそのうちの一人である。
王子と共に寝ていた彼女は、目を覚ますと、隣で寝ている王子を見つめ、笑った。
「ふふ」
寝ている王子が、いとおしくて…というわけではなかった。
王子は、態度や口調こそ、とても高圧的であるが、顔は平凡的であったし、日々の不摂生がたたって、最近は腹がぽっこりと膨らんできていた。
アイラは、内心王子でなかったら、こんな男とは寝ていないのにと思っている。
王子という身分、財力だけが彼女の目に入っている。
だから、今笑ったのは、単純に自分の幸運さに酔いしれてのことであった。
王子の婚約者という身分。それについてくる自身の待遇。それは、きっとこれから先だって、崩れることはないだろう。
それから、自身の姉のこと。
姉と自分を比べれば比べるほど、なんともいえない幸福さにアイラは、包まれる。麻薬のようなものだった。姉のエミリアが、不孝になればなるほど、自分は幸福になるのだとアイラは、信じて疑っていない。
まさか、エミリアが今この瞬間、この国を出ていることなど知っているはずもなかった。
―あーあ。お姉さまが、お父様に折檻されているところ見たかったなぁ。きっと、今頃、ぼろぼろね。でも、もう王子の婚約者(仮)っていう肩書もないし、これからは、もっと虐めることが出来るもの。今までは、止められていたけど、私だって頼めばきっと折檻してもいいって言って下さるわ。だって、私は未来のお妃様だもの。なんでもやらせてくれるわ。楽しみ。
そうして、喉が渇いたアイラは、いつものように魔法で、水を出そうとして、アイラは呪文を唱えた。
しかし、何も出てこない。
当たり前である。この国から、加護は失われたのだから、魔法を使える人間は、一人も存在しない。
アイラは、首をかしげて何も出てこない手のひらを見つめた。
―おかしいわね。寝起きで調子が悪いのかしら?
もう一度、呪文を唱える。
しかし、何も出てこない。
「う、うそでしょ…。まさか、私、魔法が…」
「う…」
「っ!」
魔法が使えなくなったと知られたら、まず婚約は破棄される。しかも、この王子は、大の加護なし嫌いである。もしかしたら、罰の一つや二つを受けることになるかもしれない。
―そんなのは、絶対いや!!!
アイラは、「まだきっと寝起きだから、調子が悪いのよ…また眠ればきっと…大丈夫…だいじょうぶ…私は姉とは違う。あんな出来損ないとは、違うの」と繰り返し、またベッドにもぐりこんだ。
全ては、悪い夢だと思い込もうとした。
魔法が使えなくなったなんて、信じたくなかった。
そして、それはアイラだけではなかった。
妖精がいなくなったことも、加護がなくなり魔法が使えなくなったことにも、まだ気づいていないこの瞬間が、おそらく国民たちにとって、最後の幸せだった。
エミリアの妹、アイラもまたそのうちの一人である。
王子と共に寝ていた彼女は、目を覚ますと、隣で寝ている王子を見つめ、笑った。
「ふふ」
寝ている王子が、いとおしくて…というわけではなかった。
王子は、態度や口調こそ、とても高圧的であるが、顔は平凡的であったし、日々の不摂生がたたって、最近は腹がぽっこりと膨らんできていた。
アイラは、内心王子でなかったら、こんな男とは寝ていないのにと思っている。
王子という身分、財力だけが彼女の目に入っている。
だから、今笑ったのは、単純に自分の幸運さに酔いしれてのことであった。
王子の婚約者という身分。それについてくる自身の待遇。それは、きっとこれから先だって、崩れることはないだろう。
それから、自身の姉のこと。
姉と自分を比べれば比べるほど、なんともいえない幸福さにアイラは、包まれる。麻薬のようなものだった。姉のエミリアが、不孝になればなるほど、自分は幸福になるのだとアイラは、信じて疑っていない。
まさか、エミリアが今この瞬間、この国を出ていることなど知っているはずもなかった。
―あーあ。お姉さまが、お父様に折檻されているところ見たかったなぁ。きっと、今頃、ぼろぼろね。でも、もう王子の婚約者(仮)っていう肩書もないし、これからは、もっと虐めることが出来るもの。今までは、止められていたけど、私だって頼めばきっと折檻してもいいって言って下さるわ。だって、私は未来のお妃様だもの。なんでもやらせてくれるわ。楽しみ。
そうして、喉が渇いたアイラは、いつものように魔法で、水を出そうとして、アイラは呪文を唱えた。
しかし、何も出てこない。
当たり前である。この国から、加護は失われたのだから、魔法を使える人間は、一人も存在しない。
アイラは、首をかしげて何も出てこない手のひらを見つめた。
―おかしいわね。寝起きで調子が悪いのかしら?
もう一度、呪文を唱える。
しかし、何も出てこない。
「う、うそでしょ…。まさか、私、魔法が…」
「う…」
「っ!」
魔法が使えなくなったと知られたら、まず婚約は破棄される。しかも、この王子は、大の加護なし嫌いである。もしかしたら、罰の一つや二つを受けることになるかもしれない。
―そんなのは、絶対いや!!!
アイラは、「まだきっと寝起きだから、調子が悪いのよ…また眠ればきっと…大丈夫…だいじょうぶ…私は姉とは違う。あんな出来損ないとは、違うの」と繰り返し、またベッドにもぐりこんだ。
全ては、悪い夢だと思い込もうとした。
魔法が使えなくなったなんて、信じたくなかった。
そして、それはアイラだけではなかった。
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