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「…他国の王子だからと、こちらが黙っていれば、なんという無礼!」

聖女様の怒りを表すようにゴロゴロと雷が鳴り始める。
今日は、一日中晴れという予報だったが、外れることになりそうだ。

「しかもなんです?私が可愛がっている大事な子を…ぃ、き、きき、き寄生虫?ですって」

寄生虫という言葉が、よほど頭にきたのか何度もつっかえている聖女様が、言葉に出したことで怒りが頂点に達したらしい。
すさまじい爆音が、辺りに鳴り響いたと思うと、特大の雷が落ちた。

「ひぃ」
「恥を知りなさい!この無礼者!!!」
「聖女様。お、落ち着いてください」
「落ち着けるわけがありません。私の大事な子を寄生虫呼ばわりした上に、挨拶もなしに、いきなり抱き着いてきたこの無礼者を見て、冷静にいられますか!」
「それは、そうなんですけど…」

殿下は、すっかりと腰を抜かして、おびえた目で、私たちを正確には、聖女様を見つめている。

「それにしても殿下は、なぜこちらに来られたのですか?」
「それは、この男の国の者たちが、加護を外されたからです」
「え」

加護を外された?
驚きと同時に納得する。
先ほど、魔法で吹き飛ばされた殿下が、受け身をとれなかったことも、ろくに守りをしなかのは、そういうことか。
しかし、なぜ?

「殿下。あれだけ言ってたじゃないですか。俺たちの国は、選ばれた国だと。俺たちは、選ばれた人間だと。特別な人間なんだと。だから、私たちとは違うと」
「…ああ。そうだ。俺は、選ばれた人間だ。だから、こんなのは間違っている!こんな、今時神様なんて信じている狂った国に来る予定など、なかったが、緊急事態なら仕方あるまい」

私という存在が、殿下の自尊心を回復させてくれるのだろうか。
あれだけ震えていた殿下は、ぺらぺらと余計なことまでしゃべってくれた。
おかげで、聖女様どころか、兵士もこの国の王も誰も彼もが、王子の味方をする気がなくなった。

「…殿下」
「そこの聖女は、なるほど。噂に聞くより美しい。これなら、俺の妻にふさわしい。やはり、俺の妻になる女は、魔法が使えなくてはな」
「殿下には、婚約者がいるではないですか。妹は、どうしたのです」
「殺した」
「… … …え?」
「当たり前だろう。あんな女。生きている価値もない。そもそもお前の妹という時点で、ダメだったのだ。あんな疫病神生かしたところで、何になる」
「…そんな」
「ああ。そうだ。お前の父も母も死んだそうだ。父親は、転落死。母親は、自殺だそうだな。まぁ、あんな落ちぶれた人間には、ふさわしい最後といえる」
「父と…母が…?」

あれだけ私を苦しめていた人たちが、死んだ?

「うそ…」

しかも、転落死と自殺?あの気高い母が?あの恐ろしくて仕方なかった父が?
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