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「ありがとうございます」

きらきらと光る妖精たち。
彼らは、無表情でこちらを見ている。
妖精は、人間に絶望しているから姿を見せないのだと、絵本に書かれていたけど、こうして姿を見せてくれた。

「誓います」

エミリアや妖精たちが、じっと私を見つめている。
…恐ろしい。
私は、弱い人間だ。消えていった彼らと私は同じだ。
だから、いつ私が挫けてしまってもおかしくはない。それでも、私は聖女として歩まなくては、彼らと本当に同じになってしまう。

「私、立派な聖女になります」
「聖女様…」

妖精への誓いは、神への誓いだ。
私が、間違った行いや聖女としての道を踏み外せば、消えてしまった彼らのように、私もまたこの国を去ることになるだろう。

「エミリアにも謝らなくてはいけませんね。ごめんなさい。今まで、ずっとあなたのことを見てみないふりをしていました」
「そんなこと…」
「エミリアが、無事だったからよかった。でも、もし、危害を加えられていたら、…」

エミリアは、気づいていなかったのだろうか。
チカ、と妖精の一人が、火花のような輝きを見せた。
そう。あの妖精が、ずっとあなたを守っていたのね。

いじめられていたのに傷一つついていないエミリアは、おかしかったのだ。
掃除を押し付けられただけなんて、可愛いものだ。

聖女候補の生活は、狭い水槽に入れられた魚のようなものだ。
その中で、特殊な条件で、半端な時期に入ってきたエミリアがこうして聖女候補も聖女にも暗い感情を抱かずに、怪我一つない状態で、立っているのは、あの妖精がそれとなく守っていたのだろう。

「私、嫉妬していました。妖精と友達で、神様のお気に入りのあなたに」
「私は、そんな」
「あなたをきちんと見ることが出来なかった。だって、きちんと見て、私は自分の正体に気づくことになったら、傷つくと思ったから」
「正体ですか…?」
「私が、特別な人間ではない、ということです」

ずっと、魔法の才能があって、人より癒しの力や結界を張ること、神様から直々に選ばれたこと。自分は、特別な人間なんだって思えていたから、私は聖女になったのだ。
聖女は、特別な人間がなるものだからと。
でも、私は特別な人間ではなかった。単純に聖女としての力がほかの人間よりあっただけ。
本でよく見るような素晴らしい人間にはなれないかもしれない。

「今度は、私も彼女を守ります。許してくれとは言いません。彼女のそばに立つことを許さないというのであれば、従います」
「… … …」
「ポッド」

じっと、私を見つめる冷たい目が、ふいにそらされた。
そうして、つまらなそうな顔をしてあと、空間に溶けるように消えてしまった。
そのあとを追うようにして、ほかの妖精たちも消えていく。

「見ているものがいたことに気づけたから、私は、聖女として頑張ろうと思った。…がっかりしました?」
「どういう意味ですか?」
「しょせん、私も誰かが見ていると知ったら、自身の行いを悔い改めるような人間だったと知って」
「いえ…そんな。今、ここでこうしてあなたは聖女としての地位にいて、それに恥じない仕事をしていることを私は知っていますから」
「私は、あなたが嫌いでした」
「… … …」
「それなのに、こうして手のひらを反しています。…がっかりしましたか」
「…聖女様は、今も私が嫌いですか?」
「いえ。それよりも感謝と尊敬をしています」
「そうですか。なら、別にいいです」
「…いいの?」

そんなに簡単に私を許して?
私の顔を見て、エミリアは、少し笑った。

「私も同じようなものです」
「同じようなもの?」

「…この言葉を聞いたら、聖女様のほうが、私にがっかりしますよ」
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