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27話 心の傷

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『今日からルヴァイス様お出かけ?』

「はい。国境近くに魔物の動きが活発になっていると急な視察になってしまいました。
 10日後の朝にはお戻りになるそうです」

 この宮殿にきてから10日目。
 だいぶこちらの生活になれてきた頃、朝起きて、私の髪をくしできれいにとかしてくれてるクレアさんが説明してくれた。

 ルヴァイス様は急なお仕事で外出しているから朝ごはんは自分のお部屋で食べることになったの。

 今日はルヴァイス様いないのかぁ。
 
 ルヴァイス様はお食事が終わるとに私がはやくこの環境に慣れるようにってこの国の面白いお話を教えてくれて、それが楽しみだったけれど、お仕事なら仕方ないよね。

 国境付近に魔物が現れたからルヴァイス様の弟のラディス様が管理している砦で状況視察をするんだって。そのせいか、私の警護の竜騎士の人がいつもは室外で待っているのに今日は室内までいるの。
 ルヴァイス様が不在の間に何かないようにするためだから、我慢してほしいって言われてる。
 もちろん我慢できるよ。だってここはいじめてくる人が誰もいないもの。

「ソフィア様、今日はお食事が終わったらどうなさいますか?」

 クレアさんが聞くから、私はすぐにノートに書いた。

『庭園に行きたい』

 王族しか入れないルヴァイス様とよくいく庭園。
 私はフィアンセだから入っていいっていわれたよ。
 あそこはリザイア家にいたときも見たことのないような不思議な植物がいっぱいある。

 竜王国にしかない珍しい品種。そのお花や植物の性質や特徴を聞くのが好き。
 ここでの生活になれて、研究をさせてもらえるようになったらいろいろ試したいからメモしておきたいな。

「かしこまりました。そのように手配しておきますね」

 クレアさんが笑ってくれて、私は嬉しくて頷いた。



「この花はフォラオの花といって春に咲く花です。
 夜になるときれいな淡い光を放つため貴族の間では人気なのですが、その分必要な聖気が多いため、栽培には国の許可が必要になります」

 庭園にある温室で、クレアさんがお花の説明をしてくれた。
 今日はルヴァイス様がいないから、温室なんだって。
 普段はルヴァイス様が気を配っていてくれるけれど、私に会いたいという貴族がすごい多いらしいの。だから庭園でそういう人たちが偶然を装って会いに来ることがないようにってクレアさんが言っていた。
 温室の前では騎士さんたちが見張ってくれている。

 私が温室の植物の特性をメモしていたら、なんだかワイワイと温室の入り口のほうから声が聞こえた。

「何事でしょう?」

 クレアさんが私を抱き寄せて、一緒についてきてくれた護衛の騎士さんも私とクレアさんの両隣にくる。

 そしてがやがやと騒ぐ入り口から入ってきたのは大勢の神官服をきた竜人の人達だった。


 竜神官の人たち?
 私は怖くなって慌ててクレアさんの後ろに隠れる。
 神官服は好きじゃない。リザイア家の神官の人たちはみんな私をいじめてきたから、どうしても身構えちゃう。

「これはソフィア様。お初におめにかかります。お会いしとうございました」

 そう言って一番豪華な神官服の人が手をあげた。
 年のころなら40代から50代くらいの、端正な顔立ちの銀髪の男性。
 顔はすごくニコニコしているけれど、その眼は私を馬鹿にしてきた神官達と同じ眼で、きっとこの人は私のことを好きじゃない。
 どうしよう?
 挨拶しないとルヴァイス様に迷惑がかかる?
 それとも挨拶をしちゃうとルヴァイス様に迷惑がかかる?

 どうしていいかわからなかいでいたら、クレアさんが私を後ろに隠してくれて、護衛の騎士の人が二人私たちをかばうように前にでた。

「司教デラル様!! ここは何人たりとも立ち入り禁止です!
 いくら司教様とて、このような無体を働いて乱暴に押し入るなど許されることではありません!!」

 護衛騎士の人が叫ぶと司教と呼ばれた男の人は跪いた。

「無礼は承知でございます。ですがどうしても急ぎこの温室でしか手に入れられない薬草がありまして、このような形になったことをお詫びいたします」

「薬草?」

「ルヴァイス様の従弟にあたられるデラファン様が急な体調悪化で一刻を争う事態なのです。
 こちらの薬草をとる許可はいただいております」

 そう言って、司教って人は何か書類を護衛の人に見せた。

 護衛の人は書類を確認したあと、仕方ないといった感じでうなずいて。

「かしこまりました。それでは薬草のところまではこちらでご案内いたします」

 そう言って、書類を受け取った。

「それではお騒がせいたしました。ソフィア様。
 ご迷惑をおかけしたことまことに申し訳ありません。
 後日このお詫びはさせていただきます。

 ぜひその時はお会いいただけますか?」

 手を差し出されて。その笑顔が歪んで見えた。

 ああ、そうだ。
 燃やされる前もこうやって連れていかれた。

 わけもわからなくて、部屋にいたら大勢の人がきて、銀髪の40代くらいの人にすごい丁寧にきてくださいっていわれて、手を差し出されて手をとって連れていかれた場所が、ガラス張りの部屋だった。

 そこでみんな私が燃えてるのに誰も助けてくれないの。

 この人はその時の人にそっくりだ。

 がくがくと足が震える。

 この人の声も顔も違うのになぜかそっくりなの。なんで?
 また私は燃やされちゃうの?

 温室のガラスの外で、お母さまとデイジアが笑ってる姿が見えて――私はそこで意識が飛んだ。

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