上 下
4 / 11
本編

4  兎と吸血鬼

しおりを挟む

「ふふ可愛い、これぞ癒しよね」

 私は馬車の中自身の膝の上でカチコチに固まる兎を愛でていた。
 その兎の正体は言わずと知れたチャドよ。


 チャドは南にある獣人国リナレスに連なる者。
 見た目通りの兎族。
 ただ一般的な兎族ではなく、北の凍える大地を故郷とする雪兎族なの。
 新雪の様に真っ白でふさふさの毛は抱きしめるだけで幸せな気持ちになるわ。
 チャドや皆の癒しがあったからこそ、今までの苦行にも耐えられたと言っても過言ではない。

 因みにチャドは男性。
 年齢は……。

「私はもうお爺さんですよ」

 私の心を読み取った様に兎のチャドは呟く。
 勿論表情は――――素よ。

「そうねチャドはお祖父様と同じ年齢ですものね」
「はい、エイブラハム様とは若かりし頃よりのお付き合いですね」

 かれこれ四十年以上は経ちますね……と微妙に渋い表情で呟く雪兎って面白いわ。

 人間として振る舞う際は長い耳は普通の人間のものへと変化している。
 ただよく見れば若干人間より縦に長い。
 でもよく観察をすればよ。
 普通にすれ違うだけでは獣人と人間の区別はつかない。
 
 それでも何処の世界にも人間至上主義もいれば獣人至上主義を唱える者は一定数存在する。
 若しくは魔族や妖精至上主義も……いるわね。
 それらより彼らを護るのも四大公爵家のお仕事の一つよ。

「アリスお嬢様何時まで年寄り兎を愛でていらっしゃるのですか」

 尻尾はない筈のジョアンには見えない大きな尻尾を何度も床をバチンバチンと叩いている。

「吸血婆は黙ってらっしゃい。今私がアリス様のお心をお慰めしているのです」
「う、煩いっ、万年もふもふジジイ!!」

 あぁまた始まってしまった。
 何故かこの二人の仲は昔から良くない。
 私を護る事に関しては一時休戦し共闘する事はある。
 でも基本仲は悪い。

 侍女のジョアンは吸血バ……コホン、魔族で吸血鬼なの。
 ちょっとした縁があって私の侍女となってくれたわ。
 勿論年齢的に言えば……ねぇ、魔族だし、それなりに年齢は重ねているでしょう。

 性格は猫ね。
 特にチャドを愛でている時は機嫌が頗る悪い。
 二人の喧嘩を見るのも楽しいけれど今は……ね。

「お嬢様、そろそろ王都の外れへと到着します」

 声を掛けてくれたのは御者のミッキー。
 可愛い名前とは違いその見た目は強面ゴリラ……とは言え彼は普通に人族よ。
 ただ筋骨隆々で、多少毛深いからよく……ね、そう偶に獣人と間違われる事がある。
 
 仲間……としてね。

 まぁ我が領地では人族や獣人魔族の差別はないと信じている。
 何れにしても犯罪を犯せば皆平等に罰するけれど、普通に生きているのであれば問題はない。

「チャドをお願いね」

 私はジョアンにチャドを託して馬車を降りる。
 当然二人はぎょっとしたまま固まっている。
 後数分もすれば喧嘩になるだろう。
 普段年寄りだと連呼する癖に何時までも元気だ。
 それに喧嘩する程仲はいいって言うしね。

「では移動するわね」

 私は四台の馬車を一台ずつ北のマナーハウス前へと転移させていく。
 最後に私は再び馬車へと乗り込み術を発動させる。
 馬車の中で静かに喧嘩をしている二人は無視だ。
 

 次の瞬間私達は王国の北を護るノースモアのマナーハウスの前にいた。

 
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

運命の番を見つけることがわかっている婚約者に尽くした結果

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7,982pt お気に入り:302

貴方達から離れたら思った以上に幸せです!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:198,332pt お気に入り:12,465

ブラック・スワン  ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~ 

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,279pt お気に入り:194

イケメン俳優パパ 『生田 蓮』に恋をして――。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,164pt お気に入り:38

【完結】地味令嬢の願いが叶う刻

恋愛 / 完結 24h.ポイント:8,867pt お気に入り:3,427

義妹の身代わりに売られた私は大公家で幸せを掴む

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:8,727pt お気に入り:912

突然の契約結婚は……楽、でした。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:132,267pt お気に入り:3,535

ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:80,557pt お気に入り:2,871

処理中です...