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第二章
閑話 僕の愛しい天使 Sideアルフォンス
しおりを挟む僕には七つ年下の妹がいる。
僕と同じ菫色の瞳に王族特有の赤毛交じりの金色の艶やかな髪からの、雪の様に真っ白でふわふわでマシュマロの様な肌を持つ女の子。
今でもエルが誕生した日を忘れはしない。
三十四年ぶりに王族の血を受け継ぐ女児の誕生に国中で華々しくお祝いしたものだ。
それは本当に小さな村々までもがお祭り騒ぎだったのだからな。
当時7歳だった僕は単純にエルの兄として誇らしく思っていた。
また兄妹が出来た事を素直に喜んでもいた。
今まで一人っ子だったから余計にかな。
彼女に出逢えて本当に心より歓迎したよ。
まさかこの僕が両親の愛情を独り占め出来ないと駄々を捏ねるとでも思ったのかな。
確かに全くない事はなかったよ。
母上のお腹が大きくなるにつれて父上や周囲の者達は新しい命へ関心を示すからね。
7歳の子供にしてみれば嬉しい反面、少し面白くもないと言ったところだな。
でもそれは僕のエルと初めて対面するまでの僅かな時間だった。
小さな顔に小さ過ぎる身体を持って生まれた僕の妹。
生まれたばかりのエルの手は本当にとても小さくて、でも少し皺くちゃだった。
僕は好奇心からちょんと彼女の掌を突くまではしない。
そんな事をしてしまえばあっと言う間に壊れてしまうと思ったんだ。
だからほんの少し、彼女の掌を人差し指でちょんと刺激をした瞬間――――。
ぎゅっ。
僕の人差し指を小さな手がぎゅって力一杯握ったと同時に僕の心は鷲掴みにされたよ。
天使最高!!
はぁあの瞬間萌えの境地へ入信したと言ってもいい。
僕はこの時よりエルの為に生きようと思ったし固く誓ったのだ。
だが大人達……僕を覗いた両親やこの国の国王でもある伯父夫妻と従兄の四人の王子達、また双方の祖父母達だけは素直に喜んで、いや確かにエルの誕生を皆で心より喜んだのは言うまでもない。
ただ諸手を挙げて素直に喜べなかっただけ、何故なら……。
ファーレンホルスト家の娘、つまり王族女児にだけ発症すると言う呪いとも言える不可解な病。
その病があるが故に大人達は諸手を上げて素直に喜べなかったのだ。
僕は男であり王族の血を継いでいるとはいえ直系ではない。
まあ味方によれば直系の血筋でもある。
何と言っても母上は現王陛下の妹王女なのだからね。
でも僕はキルヒホフ侯爵家の嫡男で直系王族として生きる訳ではない。
形式上では僕にも、そして生まれたばかりのエルにも王位継承の資格はある。
ただ王陛下には殺しても絶対に死にそうにはない四人の王子殿下達がいるので、生涯僕の所まで王位は回ってはこないだろう。
また回ってきたとしても僕自身国王になる器もなければ気持ちもない。
あぁ話が少し逸れてしまったね。
僕もあの時までその事実を全く知らされてはいなかったのだが当然三十四年前に誕生したであろう母上も漏れなくこの呪いと同義な病に罹ったのである。
今の母上は実に健康そのもの。
母上の頑丈さと頑強さは折り紙付きだね。
第一あの行動力と性格は破天荒過ぎる。
父上も良く母上と結婚できたよなって思うよ。
だからエルだけは、僕の可愛い妹はそんな恐ろしい女傑にはなって欲しく――――。
ごっきぃぃぃぃぃん!!
「命が惜しくないようですねアルフォンス」
「は、母上タンマ、待って⁉」
「問答無用です。最近の貴方は男として些か軟弱としか思えませんね。この際ですこの母自ら鍛え直して差し上げましょう。さぁ覚悟なさい!!」
「ひぃぃぃぃぃぃ!!」
冗談ではない。
行き成り問答無用で頭突きをお見舞いする淑女いや、母親が何処の世界にいるのだ。
「ここにおるわっっ」
「一々僕の心の声まで突っ込まないで下さい母上!!」
「関西人故にボケ突込みは搭載積みよ、ほほほ」
何が関西人だ。
「それは母上ではなく作者でしょうがあああああああああ」
{そこは生みの母と同じと言う括りで……}
作者迄中へ入って来るな。
話が余計ややこしくなるし進まないだろうが!!
{すみません、どうしても突っ込みたかったもので……}
「兎に角アルフォンス貴方はもういいわ。これより先はこの私が、えぇ経験者でエルの母であるこの私より説明致します事よ。貴方は向こうでいじけているジークヴァルトの相手でもしていらっしゃい」
「そ、そんな母上。私が、此度の回は私がエルの知らない秘密を解説すると共にエルの可愛さや僕が兄として如何にエルを愛しているかを幅広く皆様へ知って頂く為のモノであ――――」
ごっきぃぃぃぃぃぃぃん!!
「ひ、ひど……は、母、う……」
抵抗する間もなく僕はそのまま二度目の頭突きを喰らい意識を失ってしまった。
「ほほほ、後は任せなさいなアルフォンス。では皆様また後程御機嫌よう。呪いの様な病の経験者である私がしっかりと説明させて頂きますわ」
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