【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki

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第三章  別離

9  Sideジーク

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 森へと入り五分も掛からずエルのいるだろう中心部にあるガゼボまで辿り着く。
 そこで俺は信じられないモノを目の当たりにした。
 
 ここはこの国の支配者であられる国王一家の住まう王宮の敷地内にある庭園の一部として人工的に造られし森。

 確かに森と呼ぶには些か小さ過ぎるのは否めない。
 だが散策を楽しめる程度の目的で作られし手入れの行き届いた場所であると共に、幼い頃よりエルの大切な遊び場だった。
 だから自然と俺……だけではなく多くの者がここへ訪れる。
 それ故庭師だけでなく俺達騎士も定期的に見回りを行っていたと言うのにだ。


 ガゼボを中心にこの場所を覆う何とも禍々しい青紫の靄。
 視界もだが何故か俺は咄嗟に外套で口と鼻を覆った。
 これまでに見た事のない靄に違和感を抱くだけではなく、これを吸い込んではいけないと身体の奥より声が……まぁそれも可笑しな話だな。
 しかしその声にあの時の俺は無論賛同したよ。
 
 先ず霧や靄と言うものはが大原則だろう。

 それ以外のモノは大抵身体にとって良くないモノだと俺はそう捉えている。
 だが幼いエルは何も知らずどうやらその得体のしれないモノを吸い込んだらしい。
 あの生気に満ち溢れ光り輝く美しい菫色の瞳が少し濁っている様に見える。
 おまけに瞳の焦点も合わず、何者かにいざなわれる様に覚束ない足取りでゆっくりと、然も確実に目の前に存在する危険なモノへと歩みを進めていた。

 禍々しいと言う言葉がしっくりとくる暗赤色を滲ませた仄暗い蒼色で、形状は九枚からなる肉厚の大きな花弁を持つ花?
 
 果たしてアレを花と呼んでいいものなのか。

 また花にある筈の一般的な雌蕊めしべや雄蕊があるとされる真ん中にはそれらの存在はなくぽっかりと、全く底が見えない闇色の空洞。

 それだけではない。
 肉厚の花弁が個々に動いている事も異様でしかない。
 新たなる何かの生命体なのか。
 まさかとは思うが魔に属する食虫……いや、エルのあの様子を見れば人もアリなのか。

 
 ピィピギィィィィィィィィ!!
 
 運の悪い所へ迷い込んできただろう小鳥のつんざく悲鳴と同時に、あの空洞より無数の青黒い触手の様なモノが幾重にも小鳥を捕え中へと引き込む様に消えていく。
 大きな肉厚の花弁達がまるで小鳥を捕食しているかの様にゆらゆらと大きく動いている様子に思わず戦慄してしまった。
 
 間違いなく肉食植物だ!!

 だが何故ここに魔に属するモノが入り込んで……と、残念ながら考える余裕は与えられなかった。
 そう小鳥を捕える為に出てきた残る触手がしゅるりとエルの腰や足に巻きつけばだ。
 強引に中へと引き込もうとしていたからだ。
 
「や、嫌!! は、放し……た、す、け……」

 エルは朦朧とする意識の中、必死に小さな声で抵抗を試みていた。
 しかしこの靄を吸い込んでいる故なのだろう。
 彼女は思う様に動けない。
 普段のエルならば逃げられ……いやエルはまだたった9歳の小さな子供。

 先ず恐怖で動けまい。
 果たしてこの正体不明の生き物を俺は倒す事が出来るだろうか。
 いや、今この場所には俺しかいない。

 俺が動かずして一体誰がエルを救うのだ!!


「諦めるな!! 今直ぐ貴女を助けるからほんの少しだけ耐えてくれ!!」


 あぁ直ぐに助けてやる。
 そしてまた俺を忘れるのだとしても構わない。
 万が一の場合は俺がエルの代わりに盾となってやる。
 お願いだからもう少しだけ我慢をしてくれ!!
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