【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki

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第三章  別離

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「大神官長様!!」

 意識が戻ったと同時に私はそう叫んでいた。
 何故なら私にしてみれば全てはつい今し方の出来事だったのだもの。

「「「エル⁉」」」

 無事に目覚めた私を見て歓喜し、喜びの涙を思いっきり流しておられるお父様と王陛下には申し訳ないと思う。
 また心配し私の手を握り締めておられるお母様やその隣で涙ぐまれる王妃様と、何故か茫然自失な表情をしておられるジーク様の事も今はどうでもいい。
 それよりも何よりも私にとって先ず確認をしなければいけない事は――――。

「大神官長、様!?」

 長時間眠っていた所為なのか、身体が物凄く重怠いけれどもここは気合で起き上がる。
 くらくらと眩暈を起こしながらも私の左でを握り締められている方へと視線を向ければ、寝台の傍に座りそのまま倒れ込まれる御姿の大神官長様⁉
 
「……無事にめ、ざめた、のです、ね」

 良かった!!
 ちゃんとこの世界へ戻ってこられた事に物凄く安堵したわ。
 でも大神官長様の、今までに聞いた事のない弱弱しいお声だけではない。
 私の手を握る大神官長様の手。
 そして全く汚れてはいない法衣より少しだけ見え隠れする腕の何と細く皺だらけな事へ驚愕してしまったの。

 まるで冬の枯れ枝の様に、今にもぽきんと折れてしまいそう。

 常の凛とした百合の様な美しいかんばせだったのに、今は実際のご年齢でもある80歳よりもずっと老け込まれ、大神官長の法衣を纏われていなければ多分誰も大神官長様とはわからない。

 その余りの変り果てられた御姿に私はポロポロと涙を流すばかり。
 先程までお母様と同じくらいの若く瑞々しい御姿は、今は何処にもない。
 あんなにも眩い光に満ちておられた筈なのに、今ではその光の輝きすら風前の灯となっている。

「ごめ、ごめんなさい大神官長様。私があの様な所にいたから、私を助ける為に〰〰〰〰」

「それ、は違います。わた、しはただ、の器に過ぎない。あの御方は、その昔、死を直前に、迎えた私の前、へ降りられた、のです。命を伸ばす代わりに、あの御方、の器とならん事を……」

「……器?」

 一体何を仰って……。 


「ほん、とうに幸せ、でしたよ。器となり、人々の安寧を願う日々は……」

「大神官、長様?」

「ふ、ぅ、先程、貴女がお会いしたあの御方は女神様、です。そう、偉大な、る女神イルメントルート様。そし、て私、は普通の人間、です。あぁもう時間ときが追い付いて、きましたね。私は貴女へ何も答え、られません。それ、でもエルネ、スティーネ、あの御方は貴女方を、とても愛しんでおられ、まし、た……よ」


 握られた左手よりすっと力が抜ければ、大神官長様の御手が私の左手よりゆっくりと、まるでスローモーションのように離れて、いく。

 そうして安らかな、幸せに満ち足りておられる様な面差しのまま、大神官長様は永遠の眠りに就かれた。

「だ、大神官長、さまっ!?」

 私は反射的に大神官長様の御手を、お身体を抱き締める。
 
 もう息はしていらっしゃらない。
 でもまだそのお身体は優しい温かさがしっかりと残っている。
 
 どうして、どうしてご自身の御命までかけて私なんかを――――⁉

「エルネスティーネ……」
「お、おかあ、さまぁぁぁ」

 大神官様を抱き締めている私を含めてお母様は優しく抱き締めてくれたわ。
 溢れる涙は止まらない。

 ごめんなさい。
 本当にごめんなさい。

「誰かある!! 直ぐに侍医を!!」
「大神官長様!! おお何と言う事だ!!」

 王陛下は緘口令を敷くと共に大神官長様の治療を指示された。


 今ここで生を終えられたのは大神官長様であって大神官長様でない御方。
 それでも生を終える瞬間まで私の手を握って下さったあの温もりは大神官長様のものと何ら変わらない。

 私に力があったのであれば、この未来は変えられたの……かしら。
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