【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki

文字の大きさ
100 / 140
第五章  忘れられし過去の記憶

12

しおりを挟む


「そんなの決まっているでしょ、私はルルお姉様のお傍にいたいからです」
「それだけか?」
「それだけとはっ、私にはルルお姉様こそがとても大切な存なのです!!」

 妾の許へとゆっくり一歩ずつ近づくとリーゼは両の手で妾の左手を包み込みながら自身の頬へと引き寄せようとしたのだが、妾はそれを冷たく振り払い拒否の意思を示した。

「ね、えさま?」

 妾の拒絶に理解出来ないと言った面持ちでリーゼは茫然と妾を見つめる。
 
 然もあろう。
 リーゼが誕生してよりこの瞬間まで妾はリーゼを拒んだ事は全くなかったのだからな。
 だが妾はリーゼの姉である前に一人の神。
 神として時には厳しい判断を下さねばならぬ。

 叶うならば今妾が心の中で抱く不安が現実ではない様に。


「リーゼ、いやトルテリーゼよ、今一度訊こう。そなた神界で何をいたした。またコリンナの魂は如何様にしたのだ」

 頼むから妾を裏切るなリーゼ!!

 まさにこれが一縷の望みと言ったものなのだろう。
 妾は生まれて初めてそれなるものへと望みを賭けた。
 だが時に現実とは恐ろしくも残酷なものなのだと思い知らされる事になる。

「ふふ、ルルお姉様ってばまさか気付いていらっしゃったの。でも流石です。それでこそ私の愛するお姉様よ!!」

 喜色きしょく満面と言った面持ちで嬉々とした様に語り出す。
 そこへ若干の狂気を孕ませて……だ。


「だってあの馬鹿が抑々の原因なのですわ。何時もの様に蔑むくらいならばまだ私も我慢はしたのです。しかしあの馬鹿は余程消滅したかったのでしょうね」

「消滅?」
「そうですわお姉様。私達神は不老不死。望んでも普通の生命体の様に死を迎える事はありません。ただし滅する事が出来ればそれは神にとっての死と言うものなのです」

「確かに言われてみればそう……だな」
「だからアレは滅されたかったのですよ。多分膨大な時の流れの中で生き続ける事に疲れていたのでしょう。永遠の生に嫌気がさしていたのやもしれません。とは言え少しは感謝しておりますのよ」

「感謝……だと?」

 何に対してなのかと思えばだ。
 リーゼは私の背後にいるオズをギリっときつく睨めつける。

「お姉様に新しいが出来たと教えて貰った事ですわ」

 その言葉に眩暈を覚えた。
 一体何番目の兄妹がその様な戯言を申したのかはわからない。
 だが私は一度たりともリーゼやオズをその様な対象として見た事はない!!

「お怒りにならないでお姉様。確かに最初はショックを受けましたわ。でも……」
「でも何だ」
「切っ掛けは様々ですが私は気づく事が出来たのです。そしてこの様に無事成体へと進化を遂げる事が出来たのです」

 両手を広げ妾を抱き締めようとするリーゼ。
 だがまたしても妾は一歩後ろへと下がり、リーゼの抱擁を拒絶する。
 
「何故ですの姉様。どうして今までの様に私を受け入れては下さらないの!!」

 心より血を流す様なリーゼの悲鳴ともとれる悲痛なる叫び。

「確かにそなたは成体へと進化を遂げた。だがその姿は妾の知る神の姿ではない」


 堕天……まさに今のリーゼに相応しい言葉。


 我らとは違う神ではないもの。
 また人間とも違う。

 我ら神が生命体を愛し育み、その成長を促す存在ならば今のリーゼは全てを破滅に齎す者。

 破壊の限り、有あるものを全て無に帰すのを喜びとせし存在。

 混沌の母は我ら全てを超越した存在故に多分無事であるとは思うが、大神である父と多くの兄弟達は恐らく……。

「えぇ滅しましたわよと言うべきなのでしょうか。私の力が発現した瞬間、神界にいたであろう多くの神々は一瞬にして滅してしまいましたわ。その様子を見てこれ程までに脆弱な物達に虐げられていたのかと、思わず笑ってしまいましたわ」

 予感的中……か。

「ではコリンナの魂は如何した」

 コリンナ?……と小首を傾げ少し逡巡したかと思えばだ。
 リーゼは朗らかにコロコロと笑ってみせた。
 普通ここは笑う場面ではないと思うぞ。

「ふ、この娘はそこな雄へ恋をしておりましたの。ずっと以前からですわ。気の弱い性格故に雄へ想いを打ち明ける事も出来ず日々悶々と過ごしていた所へふふ、お姉様も罪作りですわよ」
「何をだ」
「この娘はお姉様の存在を知り、またそこな雄が恐れ多くもお姉様へ懸想している事を知り嫉妬で身を焦がしておりましたの」

「真か……」
「嘘だ!!」
「お黙り人間の雄!!」

 リーゼは感情のまま闇の炎でオズを襲う。
 
「あぅっ⁉」
「オズ!!」

 コリンナの事で一瞬反応が遅れてしまった。
 その結果オズの肩は黒い炎で燃えている。
 直ぐに火を消したのだが闇の炎で生身の人間が燃やされたのだ。
 呪と言う形でオズの身体をじわじわと痛めつけるだろう。
 リーゼとの件を一刻も早く済ませ解呪しなければ最悪オズは死んで――――いや、馬鹿な事を想像するな!!

 オズは決して死なせはしない。
 何としても助けてやる。

「オズ、そなたはそこで大人しくしておれ。良いかこれは命令だ。大人しくしておれば……」

 呪の巡りはそう早くは進むまい。

「っ、ね、寝言は一旦寝てから言えよ。出来れば俺の腕の中でぐっすり眠ってから言ってくれると嬉しいのだが……な」
「阿呆っ、動くでないわ!! そなたは今直ぐにでも死にたいのか!!」

 肩を抑えながら苦悶に満ちた表情をしつつもまだ立ち上がろうとするオズ。
 確かに戦士として並外れた胆力があるのはわかる。
 だが幾ら鍛えておるとは申せ、その呪は生命体へかなりの激痛を与える。

「今は頼むから休んでくれ」

 妾は結界をオズへと展開させる。
 これで少しでも呪の巡りが弱まればよいのだがな。

「本当に何処までも憎たらしい。私の攻撃を掠った程度でお姉様の関心を惹く等とは、本当に下等な生き物ってこれだから嫌だわ」
「黙るがよいリーゼ」
「あらお姉様、お姉様はそこな下等生物の雄に騙されておられるのです。神であられるお姉様がその様にお心を砕く必要はないのです。私が、このトルテリーゼがお姉様のお傍に永遠におりますわ。だから――――」

 リーゼの身体より醸し出されるのは噎せ返るような色香。
 しかしただの色香ではない。

 闇色に染まり猛毒を含む色香。

 それは私の知るリーゼとはかけ離れた見苦しい形でもあったのだ。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

【完結】この胸が痛むのは

Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」 彼がそう言ったので。 私は縁組をお受けすることにしました。 そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。 亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。 殿下と出会ったのは私が先でしたのに。 幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです…… 姉が亡くなって7年。 政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが 『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。 亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……  ***** サイドストーリー 『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。 こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。 読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです * 他サイトで公開しています。 どうぞよろしくお願い致します。

【完結】もう誰にも恋なんてしないと誓った

Mimi
恋愛
 声を出すこともなく、ふたりを見つめていた。  わたしにとって、恋人と親友だったふたりだ。    今日まで身近だったふたりは。  今日から一番遠いふたりになった。    *****  伯爵家の後継者シンシアは、友人アイリスから交際相手としてお薦めだと、幼馴染みの侯爵令息キャメロンを紹介された。  徐々に親しくなっていくシンシアとキャメロンに婚約の話がまとまり掛ける。  シンシアの誕生日の婚約披露パーティーが近付いた夏休み前のある日、シンシアは急ぐキャメロンを見掛けて彼の後を追い、そして見てしまった。  お互いにただの幼馴染みだと口にしていた恋人と親友の口づけを……  * 無自覚の上から目線  * 幼馴染みという特別感  * 失くしてからの後悔   幼馴染みカップルの当て馬にされてしまった伯爵令嬢、してしまった親友視点のお話です。 中盤は略奪した親友側の視点が続きますが、当て馬令嬢がヒロインです。 本編完結後に、力量不足故の幕間を書き加えており、最終話と重複しています。 ご了承下さいませ。 他サイトにも公開中です

【完結】最愛から2番目の恋

Mimi
恋愛
 カリスレキアの第2王女ガートルードは、相手有責で婚約を破棄した。  彼女は醜女として有名であったが、それを厭う婚約者のクロスティア王国第1王子ユーシスに男娼を送り込まれて、ハニートラップを仕掛けられたのだった。  以前から婚約者の気持ちを知っていたガートルードが傷付く事は無かったが、周囲は彼女に気を遣う。  そんな折り、中央大陸で唯一の獣人の国、アストリッツァ国から婚姻の打診が届く。  王太子クラシオンとの、婚約ではなく一気に婚姻とは……  彼には最愛の番が居るのだが、その女性の身分が低いために正妃には出来ないらしい。  その事情から、醜女のガートルードをお飾りの妃にするつもりだと激怒する両親や兄姉を諌めて、クラシオンとの婚姻を決めたガートルードだった……  ※ 『きみは、俺のただひとり~神様からのギフト』の番外編となります  ヒロインは本編では名前も出ない『カリスレキアの王女』と呼ばれるだけの設定のみで、本人は登場しておりません  ですが、本編終了後の話ですので、そちらの登場人物達の顔出しネタバレが有ります  

私たちの離婚幸福論

桔梗
ファンタジー
ヴェルディア帝国の皇后として、順風満帆な人生を歩んでいたルシェル。 しかし、彼女の平穏な日々は、ノアの突然の記憶喪失によって崩れ去る。 彼はルシェルとの記憶だけを失い、代わりに”愛する女性”としてイザベルを迎え入れたのだった。 信じていた愛が消え、冷たく突き放されるルシェル。 だがそこに、隣国アンダルシア王国の皇太子ゼノンが現れ、驚くべき提案を持ちかける。 それは救済か、あるいは—— 真実を覆う闇の中、ルシェルの新たな運命が幕を開ける。

もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません~死に戻った嫌われ令嬢は幸せになりたい~

桜百合
恋愛
旧題:もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません〜死に戻りの人生は別の誰かと〜 ★第18回恋愛小説大賞で大賞を受賞しました。応援・投票してくださり、本当にありがとうございました! 10/24にレジーナブックス様より書籍が発売されました。 現在コミカライズも進行中です。 「もしも人生をやり直せるのなら……もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません」 コルドー公爵夫妻であるフローラとエドガーは、大恋愛の末に結ばれた相思相愛の二人であった。 しかしナターシャという子爵令嬢が現れた途端にエドガーは彼女を愛人として迎え、フローラの方には見向きもしなくなってしまう。 愛を失った人生を悲観したフローラは、ナターシャに毒を飲ませようとするが、逆に自分が毒を盛られて命を落とすことに。 だが死んだはずのフローラが目を覚ますとそこは実家の侯爵家。 どうやらエドガーと知り合う前に死に戻ったらしい。 もう二度とあのような辛い思いはしたくないフローラは、一度目の人生の失敗を生かしてエドガーとの結婚を避けようとする。 ※完結したので感想欄を開けてます(お返事はゆっくりになるかもです…!) 独自の世界観ですので、設定など大目に見ていただけると助かります。 ※誤字脱字報告もありがとうございます! こちらでまとめてのお礼とさせていただきます。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

幼馴染の王女様の方が大切な婚約者は要らない。愛してる? もう興味ありません。

藍川みいな
恋愛
婚約者のカイン様は、婚約者の私よりも幼馴染みのクリスティ王女殿下ばかりを優先する。 何度も約束を破られ、彼と過ごせる時間は全くなかった。約束を破る理由はいつだって、「クリスティが……」だ。 同じ学園に通っているのに、私はまるで他人のよう。毎日毎日、二人の仲のいい姿を見せられ、苦しんでいることさえ彼は気付かない。 もうやめる。 カイン様との婚約は解消する。 でもなぜか、別れを告げたのに彼が付きまとってくる。 愛してる? 私はもう、あなたに興味はありません! 一度完結したのですが、続編を書くことにしました。読んでいただけると嬉しいです。 いつもありがとうございます。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 沢山の感想ありがとうございます。返信出来ず、申し訳ありません。

処理中です...