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 グレンとガウリは人をかきのけ、マーティンが逃げた方向へと走っている。
 人に紛れて居る可能性もあるため、一人一人見ながらの為かなり時間はかかっていた。

「くそっ!あいつ何処いんだよ!」

「落ち着け。普通は紛れ込んでほとぼりが覚めたところ逃走を図るだろう。だから必ず居るはずだ」

「そんなのはわかってる!」

 しかしそれでもグレンはキレたかった。
 徹夜明けでイライラしているのもあるが、ルルシアが戻って来るまでに決着をつけたかったのだ。

「ヴァルカン、わかるか?」

『場所マデハ。シカシコノ場ニ、血ノ臭イハシマセン』

「そうか。ガウリ、ここには居ねぇ次だ」

「わかった」

 ヴァルカンのセンサーを頼りに二人は市街地を回り続ける。
 しかしどれだけ探してもマーティンは見つからず、等々王都を丸々探し終えた。

「どこにもいねぇじゃん」

「血を浴びていないだけかもしれん。もう一度回るぞ」

「このままじゃ、ルル達も追いついちまう」

「だから焦っていたのか?」

「お前は焦られねぇのかよ」

「大事な即戦力がくるくらいにしか思って居ない」

「そうかい」

 ここでもツンデレが出たなとグレンは溜め息を吐いた。
 恐らく手前にマリアの事を信頼していると来るだろうと、内心でほくそ笑むグレン。
 そして一つ様子のおかしい人影を見つける。

「なぁガウリ」

「どうした?」

「今は避難誘導が機能してるのはさっき見たよな」

「あぁ」

 避難誘導はルルシアがマシバに伝えた事により始まっている。
 なので街には人の気配があまりなかった。
 それなのに、家の中に入っている影がある。

「あの家、ほんの少しだけ頭が出てる」

「避難勧告が出ているのにおかしい話だ。まさかあれか?」

「わからないが行ってみる価値はありそうだぜ」

 グレンとガウリは人影のある小さな家を挟む様に突入態勢に入っている。
 二人とも目配せで突入の合図を出し、ドアに体当たりした。

「動くな!」

「・・・」

 それはまさしくマーティンの姿だった。
 しかしガウリは闘った時の雰囲気がまるで違うので、少しだけ驚いている。
 まるでここで待っていたかのようだった。

「久しぶりだな。ガウリ・フォン・リューヌ」

「お前と昔話に付き合うつもりはない。お前を拘束する」

「お前程度が俺を?ハハハ!笑わせるな!」

 凄みの圧だけでグレンとガウリは後ろにたじろいだ。

「おい、ガウリ。お前本当にこいつに勝ったのか?」

「昔の話だ。目の前に居るこいつは俺が知ってるマーティンという男ではない」

 すぐに魔装を発動し応戦しようとする。
 しかし、その綺麗な戦闘開始と共に家が爆発で吹き飛んだ。

「なにっ!?」

「仕込んでいたのだろうな」

「逃がさねぇぞ」

「無論だ」

 外に出て待っていたが、マーティンは腕を組み仁王立ちをしていた。

「なんだ、俺達を待ってた?」

「あぁ」

「舐めやがって。ヴァルカン発動」

 グレンとヴァルカンの組み合わせでの戦闘は初めてだった。
 しかしグレンはルルシアのように高速移動が出来なかった。
 代わりに別の能力を使うことができる。

「噂に聞く高速移動の魔装か」

「なんだよ、ヴァルカンのことある程度把握してんのか?」

「受けて立とう。どこからでも撃ち込んでこい」

「・・・やはりおかしい」

 ガウリはマーティンはこんな人間では無かったと記憶していた。
 真面目なところはあるが、決して相手に先生を許すような人間では無い。
 そんな無駄な事をするくらいなら先制で相手を倒すタイプの人間だった。

「おかしいだろうがなんだろうが、こっちを舐めてるなら好都合だろ」

「そうだが・・・」

「行くぜ!」

 魅了されし者と魅了せし者では、それぞれ別の能力が授けられる。
 グレンは高速移動が無い変わりに、水魔法を体内で使うことで爆速的に身体能力を底上げする器官に体内が変化する。
 その際に口から煙を吐き出すが、体内にはそこまでの影響はなかった。
 そして魔力を1箇所に集中させる事で、強化される部分も一点に収束する。

「グレンなんだそれは?」

「俺のとっておきだ!喰らいやがれ!」

 一点集中で強化された拳は熱を帯びており、その拳がマーティンに襲い掛かった。
 マーティンは拳を受けるとそのまま吹き飛んでいき、家を二軒ほど貫いて叩き付けられた。

「おいおい、死んでないだろうな!?」

「バカ野郎。恐らく今のでも大したダメージが入ってねぇぞ」

「なんだと・・・」

 瓦礫を押しのけて身体の砂埃を払ったマーティンが出てきた。
 余りの頑丈さに、ガウリは息を飲み込んだ。

「なるほど、聞いていた話とは違ったがとんでもない力だ」

「その頑丈さに比べれば俺のはかわいいもんだろ」

「お互い様と言う訳か。名乗れ、貴様の名はなんだ」

「名前?俺はグレン・イガラシだ」

「我の名はトマス・チッペンデールだ。冥土の土産に覚えておくと良い」

「マーティンじゃないだと!?」

 ここにきてマーティンではない名前にガウリは今度こそ余裕を無くしていた。
 見た目はマーティンと瓜二つなのに違う人物。
 偽名も考えられたが、そうは見えないため、ガウリは混乱していた。
 しかしその答えはマーティンが教えてくれる。

「我はマーティンでありトマスである。我の中には、が、マーティンが居ますよガウリ様」

 それはマーティンとトマスが二人で一つの身体に住んでいる多重人間を意味していた。
 
※作者がインフルエンザになって閉まったため投稿時間がずれております
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