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 レインが馬車の御者を代わり、ルルシアとロアーナは後ろに乗って馬車を走らせている。
 子供が御者をするなんて聞いたことのないルルシアは、興味津々に窓から顔を出して見ていた。

「ロア、貴方の婚約者ってこんなことも出来るのね」

「うん!レインは私の将来のお婿さんだもん!すごいんだ」

「私の婚約者もあんな人だったらいいなぁ」

「シュナイダー様は、ガキね。多分クソガキに入ると思うわ」

「クソガキ?」

 ロアーナのことを内気な性格と正しい評価をしたルルシアから見て、それでもクソガキというのは、おそらくシュナイダーはかなり酷いのだろうと思った。

「アイツはロアやルルシアと比べたらかなりクソガキやけど、4歳児なんであんなモンだと思うで」

「そうなの?同じくらいの子供と話したのが二人とが初めてだからわからないわ」

「ルル!」

 ルルシアの境遇は平民と比べてもかなり異常だった。
 帝国には孤児はいない。
 育児放棄は犯罪で、貧しい家庭で子供が産まれた際には少年兵として出仕させる法案がある。
 平民の場合は虐待も発覚した場合は即処刑のため、滅多に子供が虐げられるケースはなかった。

「ルルシアの家は公爵やからなー、精々護衛や乳母が処刑される程度やろな」

「別にそこまでは望んでないわ。でもそうね。アイツらに仕返しするくらいの力があったら欲しいわね」

「ほぅ、せやったらフォッカーに師事を仰いだらええな。ワイもフォッカーに習ったおかげで、ガイアウルフくらいなら撃退できるようになったさかい!」

「ルルのおかげでしょー!レインは危ないことはもうしないで」

「すまんすまん」

「まぁまぁロア。ちゃんと紹介しなさいよレイン」

「あぁ大丈夫や。フォッカーはルルシアのことを絶対に気に入るで!」

 一行は話をしながら馬車を走らせ一時間ほど経つと宮殿へとたどり着いた。
 子供だけの登城に困惑する護衛達だったが、レインとロアーナは日常だった為すぐに理解され通された。
 レインは馬車を止めるために裏を回り、ルルシアとロアーナは待合室でレインを待っていた。

「すごいわ。これが顔パスね」

「なんかちょっと違うと思うなー」

「違うの?こんなすんなり入れたのに」

 皇城はもっと警備が厳重で簡単に通れるものではないとルルシアは思っていたので、こんなに簡単に入れるとは思ってなかったのだ。

「ふむ。魔女以外に初めて見る顔だな」

「誰?」

「あ、カイン様。ごきげんよう」

「薄汚い魔女め。俺に気安く話かけるな」

 ロアーナはその反応に慣れていた為、微笑み返し、カインと呼ばれる少年が腕を組みロアーナを睨み付けてる。
 腹が立ったのでルルシアはカインの胸ぐらを掴んだ。
 流石に驚いたカインだったが、すぐに睨む表情に戻る。

「離せ貴様」

「なによ。女の子に向かって薄汚いだの魔女だのと、あんた常識がないの?」

「貴様!俺を誰だかわかって言っているのか?」

「そうね。クソガキ、かしら?」

 ルルシアは見下すように笑い、カインは顔を赤くして睨みつける。

「貴様!成敗してくれる!」

「貴方になんか負けないわよ?」

 そういうと腰に下げている聖剣を抜刀し、ルルシアは周りにある家具を浮かび上がらせた。

「貴様も魔女か!」

「その呼び方やめてくれる?なんかムカつく」

「そんなのどう見ても魔女だ!討伐してくれる!」

「残念。もう終わりよ?」

 ソファをまるでハエ叩きのようにカインを潰し、顔だけ出るように調整した。
 クッションに挟まれた程度では怪我もしないため、無力化方法としては完璧だった。

「なにっ!?」

「クソガキぃ、反応できないなんてだっさーい!」

「貴様!聖騎士の俺を侮辱する気か!」

「聖騎士?貴方が聖なる騎士?アハハ!」

「何がおかしい!」

「そんな人を見下すような奴が聖騎士なの?だったら聖騎士はみんなだっさいのね!」

「貴様俺だけでなく聖騎士をバカにすーーー」

「だって聖なる騎士は穢れのない騎士って事よね?貴方の心、穢れてないようにはとても見えないわ」

「それは俺が聖なる力をーーー」

「聖なる力って何よ?人をゴミのように扱う奴が聖なる力?笑わせないでよ」

「それは俺の親父も祖父も俺の事を、俺の事を大切に扱ってくれないから・・・」

「あー、親に構ってもらえないから八つ当たりね。やっぱクソガキじゃない」

「お前に何がわかる!」

「わかるわよ?だって私もそうだもの」

「お前も!?」

「生まれて四年間両親は私をいないもののように扱い、両親に離れに追いやられたもの」

「俺よりも酷い扱いを受けていたのか」

「さぁ貴方の境遇なんて知らないもの。それに一人称が俺!粗暴よ粗暴!私にしなさいよ!」

「それはどうでもいいだろ!?」

 しかし最後の以外は思うところがあったようで、俯いて黙ってしまう。

「何よ急に黙っちゃって」

「俺はロアーナやお前を魔女と言って傷つけた。それに俺は刃先を潰してるとはいえお前に剣を向けた。だから甘んじて裁きを受けようと思っている」

「だから?」

「好きにしろ。お前にはその権利がある」

「はぁ、あんたはガキな上バカねぇ」

 そういうとルルシアはソファを退けて、カインを床に下ろした。

「え?」

「悪い事をしたと思ったらどうするの?世間に疎い私でもわかるわよ?」

「あ、その、ごめんなさい」

「よろしい。ロアもいいかしら」

「う、うん」

「私はルルシア。貴方は?」

「ッ!?か、カインだ。カイン・フォン・テリーだ」

「よろしくカイン」

 その握られた手の温もりは、カインが味わった不遇で作られた腐った冷たい心をとかした。
 そして本来交わることのない関係の、ロアーナとカインの関わるきっかけを作った。


 
 
 
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