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 マリの様子がおかしいことが少し気がかりだったが、シリィがそっとしておいた方がいいと言うので私達はグレンと合流すべく共和国へと入国した。

「お、ルル来たか。こっちは大変だったぜ。ゴールドマリーとは和解・・・したのか?なんか消沈してんな」

「グレン、ちょっとは気を遣って」

「わりぃわりぃ」

 私には結構気を遣ってくれるのに。
 でもまぁグレンって親しい間柄の人間以外にはそんなに気を遣う奴でもないか・・・

「久しぶりですね魔女」

 カイン、改めて聞いてもこの喋り方違和感あるわ。
 無理してるのが見え見えだし煽ってやろう。

「ふふっ。あんた、その喋り方疲れない?そうじゃなくても似合わないわよ」

「何を言うのですか?元から私はこう言う喋り方ですよ?」

「顔が引き攣ってるの隠せてないわよ」

「何のことでしょうか?」

「あらそう・・・レオーネ」

 レオーネをカインに向かって放つと、カインは即座に聖剣を抜いてレオーネを斬り割いた。

「テメェガキじゃねぇんだぞ!魔法をぶっ放してくんなよ」

「そんなキモイ喋り方をするから」

「はぁ・・・お前、記憶失ってる間のがまだ淑女だったぞ?」

「大きなお世話よ!」

 肩を透かして呆れた様な表情をしたあと、少しだけ苦笑いしながら手を差し出してきた。
 これはーーー

「お菓子食べたいの?生憎手持ち無沙汰なんだけど」

「ちげーわ!」

「ふふっ、久しぶりカイン」

 私はカインの手を取り、手を握りしめる。
 カインとは記憶を操作されてからもよく鉢合わせていたけれど、懐かしいわね。

「ディラの事、ごめんなさいね」

「仕方ねぇさ。お前が手にかける可能性だってあったんだ。それに妹の様に可愛がってたお前だって辛かったはずだろ?」

「それでもよ」

「それじゃあーーー」

 カインは私の額の前で人差し指と親指を交差させて手を向けてきた。
 そして思い切りデコピンされる。

「いたっ!」

「これでお前に対しての罰は気が済んだ。もう気にすんな」

「カイン・・・」

 それなりの気遣いだろう。
 私は目の前でディラの死を見てしまった。
 だからこそ心の中で誰かに罰して欲しかった。
 こんな軽い罰でもかなり心は救われるのね。

「ルル、お前・・・その・・・カインとはそういう仲なのか?」

「そういう仲?」

「その、恋人みたいな・・・」

 少しだけ気恥ずかしそうに聞いてくるその仕草に私は思わず笑いが込み上げてきた。

「あはは!何言ってんのグレン?親友としてはカインはいいやつだろうけど、恋人?ないわねー」

 私の笑い声にカインも思わず笑いが飛び出る。
 そうよ、コイツとは馬が合うけど絶対に恋仲にはならないわ。

「ハハハ!そうだな!この腐れ魔女に俺の食指が向かねぇよ。だがまぁ大事な親友だ。泣かすやつがいんなら、ぶん殴るから覚悟しとけよ」

「お、おう」

 なんだグレンとカインもそれなりに仲良くなってるじゃない。
 
「マリ、貴女もしっかりしてよ。別に気にしてはいないけど、今の貴女見てるとこんな人に私は立場を危うくさせられたのかと思うと情けなくなるんだけど」

「ごめんなさい。あの時はあーするしかなくて」

「はぁ。まぁ別に気にしてないわよ、関係改善をするつもりもなかったしね」

 マリはそれ以上はダンマリだった。
 聖なる力を失ったのがそんなに辛いのかしら?
 そんなものに執着する様な子には見えなかったけど。

「それはそうと稲妻、記憶を取り戻したんでしょ?おめでとう。アハト様の話によると殺人衝動だったり、自死を選択したり、最悪精神を破壊される呪法をかけられてたって聞くけど」

「あー、それは光の精霊王に精神崩壊をしない為の加護をもらったから平気です」

「すごいね。それにしても精霊王様に君やグレンやガウリ、ミハイルやラフィールまで救われるとは」

「二人に一体何があったんですか?」

「実はねーーー」

 オリバー様にマヤの超級魔法がカルロス様に直撃した話を聞かされて驚かされる。
 彼女の魔法はかなりの威力だ。
 マーティンの収束魔法とは違い質も良い為、それを食らったとなれば無事では済まないのはわかる。

「辛うじて息はあるらしいけど、それもどうなるか」

「それに結構王国も大変なことになってるらしいぜ?オリバーの親父さん、右腕を失って帰国してるらしい」

「国王陛下が!?」

 そういえば国王陛下も共和国にいた。
 イデリッサも何も言ってなかったからてっきり帰国したのかと思ってた。
 いや、もうしていたのか。

「近々王位は僕に譲るそうだ。アハト様が父を助けてくれなければ、亡骸で会うことになっていただろうね。まぁ奇しくもそれでカルロス様は瀕死の重傷を追うことになったと思うと居た堪れないけどね」

「いーや。陛下もカルロス様も死んでた可能性のが高えよ」

 これはグレンなりの気遣いのつもりだろう。
 おそらく国王陛下が腕を失ったことで、重鎮達は唯一の跡取りのオリバー様を失う可能性を考慮して出国の許可が降りなかったのだろう。
 
「んでシリィ?なんでカルロス様を助け出さなかったの?」

 これをシリィが予想できなかったとは思えない。
 多分何かしらの意図があったのは確か。
 私の知るシリィなら、こんな危ない橋は渡らない。

「それが一番最善だったのよ。これから起こる大戦に置いてね」

 シリィのその言葉は、新たな不穏の始まりを鳴らす鐘の音だった。
 
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