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175(カイン視点)

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 ったく全員逸れちまってガキかよ。
 覚醒者で神器持ってたグレンとルルは平気だろうし、ルルがついてるからマリアって奴も大丈夫だろ。
 ってことはあとは合流するだけだ。

「合流って言ってもここどこだかわかんねぇー」

「なら私が案内致しましょうか?」

「・・・どちら様でしょうか?」

 地下道は貴族の管理下だってマリアが言ってた。
 ルルと仲の良さそうな奴だ。
 おそらくこれは事実だ。 
 だとしたらこの桃色の髪の少女は、管理下の貴族か件の分断を図った犯人か。

「初めましてモモ・イガラシと申します。カイン・フォン・テリー様」

「イガラシ・・・それにモモとおっしゃいましたか?」

「はい」

 俺はモモって奴がわからない。
 桃色の髪をしていて、イガラシって家名。
 普通に考えればグンジョーとモモのモモの方だと考えるのが自然だ。
 が、余りにも短絡な思考だ。
 しかし少なくとも、こいつはモモの件に関わっている。
 それだけは確かだ。
 
「これは丁寧にありがとうございます。グレン様の従妹様に当たるお方だとは失礼致しました」

「結構ですよ。それよりもこちらへご案内致します」

 俺は貴族社会で学んだからわかることがある。
 こいつには今の言葉全てに感情がない。
 操られてる可能性、そもそもこいつが本人でない可能性、そして人形やである可能性。
 全てを考慮しないとはいけないが、少なくとも息はあると思う。
 俺はモモの案内により、地下道を歩いていく。
 ここら辺はちょっと臭うな。

「臭いが少し刺激的ですがここは一体どこでしょうか?」

「ここですか?見てわかりませんか?」

 俺は黙ってうなずいた。
 そんなの全くもってわからない。
 何故なら灯りらしきものがなにも見えなくなったから。

「それではーーーようこそ御出でになりました。貴方が一番大当たりよ」

「やっぱてめぇが」

「この身体は、間違いなくモモ・イガラシよ」

「邪神ってことでいいんだよな?」

「邪神?アハハハ!あたしは邪神じゃないわよ。魔王ゲヘナザード」

「魔王・・・神話上の人物とでもいうのか?」

「そうよ。勇者と魔王。この時代でどのように伝わってるかは大体把握してるし、史実通りだからすごいわよね」

「モモ・イガラシはどうなった?」

「あたしがモモよ?そしてこの現状を作り出したのもぜーんぶあたし」

 ゲヘナザードの後方が照らされたあと、後方には大量のアンデッドが現れた。
 どうやってこんな短期間に集めやがった。

「さぁ、合計百体のアンデッド。そして中には上位のアンデッドである二人のヴァンパイアもできたのよ」

 そしてゲヘナザードの横に二人の男が現れた。
 くそが、どちらも知った顔だ。

「久しぶりカイン」

「おっす。ワイ生き返れたみたいや」

「ロア・・・レイン・・・」

 ルルが一緒じゃなくてよかった。
 こいつがなんの意図があってこいつらを蘇らせたのかはわからない。
 けどいくらこいつらが死んでいたとしても、命をかけて人を守ったこいつらが、生き返ってヴァンパイアになることを望んだとは俺は到底思えない。

「てめぇ、なにしてんのかわかってんのか?」

「帝国に眠っていたアンデッドになりえる最強の母体よ」

「生前と同じ見た目で驚いてる。土葬とはいえもう7年も前の話だ。遺体が腐ってるはずなのにな」

「あら?知り合いだったのね。ヴァンパイアになると再生するのよ」

「そうみたいだな。ロア、レイン。お前ら生き返れてうれしいか?」

「えぇ。とっても!」

「ワイもや」

「なぁロア、レイン。お前らが死んでルルが苦しんでいたの知ってるか?」

 俺はもしかしたら、こいつらが本当に生き返ったかもしれない。
 その希望にかけてこう言ったんだ。

「それは大変だわ。ルルを早く慰めに行かないと。私達は生き返ったと伝えてあげないと」

「あぁ。俺達が生きてることを知ったらきっと喜ぶぞ」

「そうか・・・」

 俺は迷わず二人の首を切り落とした。
 二人とも、死後にこんなことになって悪かったな。

「なにっ!?」

「こいつらがロアとレイン?笑わせんなよ。こいつらならこの言葉を聞いたら真っ先にルルの心配をする。そして決して自分達が生きかえった事で喜ぶなんて自惚れ発言はしない」

「ふふっ、大した絆だこと。でもヴァンパイアを一撃とはこの時代の人間は弱い奴と強い奴の差が激しいわ」

「ヴァンパイアが殺されたのに余裕だな」

「あら、知らないの?ヴァンパイアって不老不死、なのよ?」

 なるほど、アンデッドの最上位が吸血鬼ってどういうことだとは思ったがそういうことか。
 首だけになっても動けるってことか。
 まぁだとしてもすることは同じ。
 聖なる力で二人の心臓を貫いた。

「これで終わりだ」

「聖なる力を通したのね。まぁそれも想定内。貴方からは聖なる力を感じたもの」

「想定内?」

「このヴァンパイアは新たなるアンデッドを生み出すための生贄だったの。本物のアンデッドはその二人を殺すことで生まれる。流石にこんな早く殺されるのは想定外だったけどね」

 そういうと二人の血だまりが渦巻きだし混ざり合った。
 まさか本当に?
 これは儀式ってやつだ。

「出でよスペクター!」

 現れたのはレインのような、ロアのような見た目をしてはいなかった。
 人型なのに何かおぞましく感じるもの。

「亡霊の名に相応しいわ」

「亡霊・・・まさかテメェ!?」

「そうゴースト同様にこの子は魔法が効かない。そしてゴーストと違いこの子は聖魔法も光魔法も効かないのよ!」

 最悪だ。
 まさかゴーストを超える圧倒的な未確認の魔物を召喚するなんて。
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