おや? 婚約者の様子が……

りんごちゃん

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 ──うん、まあ僕もあの時はかっこつけて、ソフィーが他の男に求婚したこと許すよ、なんて言ったけど、許すわけないよねぇ? 僕よりも先にアルドルフが求婚の言葉を聞くってなんなの? 殺すよ? って感じだし。それにややこしくなりそうだったからほっといたけど、修道院に行くとか、娼婦になる、とか頭おかしいことを言ってたの気付いてたからね。僕がいかに心の広い王太子でも、笑って許すなんてありえないに決まってるじゃない。だから絶対僕以外の男になんて走らないように、徹底的に躾ようと思って。それに気付かないようにしてたけど、やっぱりソフィーの泣き顔ってすごくかわいくて好きなんだよねぇ。もうたまらない。うん、もちろん今後も同じようにヤるよ。仕方ないよねぇ? ソフィーがまた他の男に求婚したり、修道院に行くって言ったり、娼婦になるなんて言い出したら大変だもの。

 とは、全てが終わったあとにオスカー様から聞いた言葉である。
 私が分かり合えた! 相思相愛! 感動! と思っていた場面は実は全然そうではなく、オスカー様が単純に物事を進めることを優先するための嘘だったらしい。
 いや、相思相愛は本当みたいだけど。あれ以来、すっごく甘やかされてるけど。──ただし、オスカー様の部屋の中で。
 鎖もそのままなの……。これ、監禁だと思う……。
 でもまだ大人な玩具は使われてないから、たぶんセーフ! だけどそろそろ子どもができそうで怖い! 子どもは欲しいけど、監禁の末にできた子どもとか、言えない。誰にも言えない……。

「ただいま、ソフィー。いい子にしてた?」
「おかえりなさい、オスカー様。いい子にしてたので、鎖を外してください」
「うん、やだ」

 やだ、と言われてショックを受ける私の顔を見て、オスカー様は楽しそうに笑う。最近オスカー様はなんだか意地悪だ。
 どうしてこうなってしまったんだろう。
 というか一国の次期主人がその婚約者を監禁とか、すごく問題だと思うんだけど。半年後に結婚とは言え、まだ半年あるんだよ? 半年待てば、監禁しても合法なのに。いや、監禁されたくないけど。

「そうそう。君の妹、今度隣国の伯爵家に嫁ぐことになったって」
「え!?」

 オスカー様がベッドに座る私の膝を枕にしながら、なんでもないことのようにそう言った。
 アステルが? この国を出る? え、ヒロインなのに?
 ゲームの終わりは私の結婚前夜パーティ。まだ半年近くもある。それなのに、隣国に行くって……。

「ほら、言ったでしょ? 君の妹は婚約者のいる男たちにちょっかいをかけて、煙たげられてるって。とうとうアーノルドにも夜這いをかけたらしいよ」
「よ、夜這い……」
「それでロマンス公爵が業を煮やして、隣国の伯爵家に嫁がせるんだって。古くからの知り合いで、財政難に陥ったからその援助をする代わりだってさぁ。典型的な政略結婚だね」

 アーノルドは私の弟の名前。つまりアステルからすると腹違いの弟にあたる。
 次期当主でもあるから、お父様も手を出されちゃたまらないと思ったのかな。
 少しホッとしちゃってる自分がいる。だって、アステルがいなくなればオスカー様を取られる心配をする必要もなくなる。
 うぅ、ちょっと性格悪いなぁ。でも、だって、オスカー様とせっかく両想いになれたんだし、取られたくないもの。
 ……両想いになったはずなのに、どうして私は監禁されてるんだろう。

「あ、あとソフィーから聞かれるのは嫌だから先に言っておくけど、アルドルフには騎士団長として怠けた騎士たちを連れて遠征に行かせたから」
「へ?」
「遠征。今は周りの国との確執もないしね。それでも身体が鈍ってたら、いざとなったとき大変でしょう? だから半年くらい、リンブレアの山に遠征行ってきなって。もしもなにかあってもゼルビスがいるから、騎士団長のアルドルフがいなくてもなんとかなるよ」

 騎士団長が遠征って行くものなの……?
 それに私の記憶が正しければリンブレアの山は竜が出るって噂の山で、とても険しい死の山と恐れられてるところじゃなかったっけ……?
 ちなみにゼルビスは攻略対象の一人で、本来は私の専属騎士になる予定だった。全力でお断りしたので、彼は現在ただの騎士。この国一、二の実力を持つと言われてる。
 それにしたって、もしかしてアルドルフ兄様が遠征に行かされたのって私が原因……?

「ちなみにアルドルフは喜んで自分から行ったよ。いい子だよねぇ。これからも側近として使いたいんだけどなぁ。ソフィーが迫るなら、潰しとくしかないよね?」
「迫るなんて、そんな真似しませんっ!」
「よかった!」

 こわっ、こわっ! オスカー様、こっわ!
 下から私の頬を撫でながら笑う。私も笑ってみせたけど、ちょっと笑顔が引きつった。

「じゃあ、ソフィー。アルドルフに言った言葉、僕にも言ってくれる?」
「……え」

 オスカー様に? アルドルフ兄様に言った言葉を?
 ポッと頬が赤く染まった。

「む、無理です……」
「え? アルドルフに言えて僕に言えないことがこの世にあるの?」
「だ、だって……はずかしいもの……」

 アルドルフ兄様に言うのと、オスカー様に言うのでは全然違う。
 顔を背けながらそう言うと、膝を枕にしていたオスカー様が起き上がる。そしてがっちりと私の顔を掴んで強制的に目を合わせた。

「恥ずかしいの?」
「あ、あの……」
「もう全てを見せ合った仲なのに? こんなことが?」

 それとこれとは違う。あといかがわしいから。オスカー様、ちょっといちいちいかがわしいから。

「そんな恥ずかしいことをアルドルフに言ったの? あいつ一発殴らせてくれないかな」
「ちがっ! だ、だって、アルドルフ兄様に言うのと、オスカー様に言うのとじゃなんだか、全然違うんです……」

 顔が熱い。隠したいのに、オスカー様にがっつり抑え込まれてるから無理。

「……わかった。ちゃんと言ってくれたら、足枷は外してあげるよ」
「本当ですかっ!?」
「うん、約束する」

 そ、それなら頑張らなくちゃ。毎晩毎晩獣のように犯されては、身体がもたない。本当にもたない。切実にもたない。あといかがわしい単語も前よりも素直に言えるようになってしまった。このままいたらど淫乱悪役令嬢になってしまう。
 せっかくバッドエンド抜けられたんだもの。まともな生活を送りたい。
 よし、と意気込んで、私の頬を包むオスカー様の手に自分の手を重ねる。

「あの、ね、オスカー様……」
「うん」

 そんなギラギラとした目で見られると言いづらい。だけど、言う。

「ソフィーを、オスカー様と結婚させてください。オスカー様と一緒なら、きっと幸せなれると思うの」

 あと、あと。

「わたくしは、オスカー様のこと、愛してま、んっ……」

 最後まで言う前に唇を塞がれた。いつもの舌を入れるキスじゃなくて、ただ唇を押し当てられただけ。それなのに、なんだかいつもより幸せだ。

「僕もソフィーを愛してるよ」
「オスカー様……」

 ジッと私を見つめるオスカー様。幸せな場面のはず。感動していいはず。それなのに。

「あ、あの、どうして手首に手錠を……?」
「だって足枷は外してあげるって約束だから。代わりのものが必要でしょう?」

 ふるふると首を振る。わからない。その理屈が私には理解できない。
 どうしてそうなったの? おかしいよね?

「愛してるよ、ソフィー。今日も気持ちよくなろうね」

 結婚前に本当に子どもができそうで不安でたまらない。

 だけど一応悪役令嬢だった私は、自分の運命に打ち勝つことができました。
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