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聖騎士ガリドア
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忍びたちを放置した後、私は姫様と二人きりになった。護衛の忍びが離れているが、時読みの屋敷の敷地から出なければ、安全なのは分かっている。
「さて、先ほど、うちの忍びが使いました、煙玉に混ぜられていたのが、この媚薬となります」
薬の入った小瓶を姫様に差し出す。
「これが、先ほどの・・・」
「効果はさきほど見ていただいた通り。お勧めの使い方としては、香水のように体に振りまいておいて、意中の方と窓のない密室で二人きりになり、さりげなく、この媚薬の香りを嗅がせれば、さきほどのお嬢さんのように身体が火照り自分から押し倒しに来るでしょう。そこからは先は、お任せします」
「呪いや魔法の類ではないのでしょうね」
「いえいえ、自然に咲いている花や草木を煎じたもので、毒ではありませんからご安心を」
「実は、その私が落としたい堅物というのが、呪いや魔法を跳ね除ける聖なる武具を、常に身につけていることが多く、そういう類の品だと、効果が期待できないので」
「そうですか、ですが、これは呪いや魔法の類ではありません。どちらかといえば、精力剤に近いでしょう。男女がともに嗅げば、二人とも燃え上がること間違いなしの媚薬です、嗅がせるよりも飲ませるのが、一番確実ですが。王妃様もこれで世継ぎを」
「なるほど、うちの姉もこれを使ったわけね。分かったわ。買わせてもらうわ、いくらになるの?」
「王妃様のお知り合いですから、金貨一枚でどうです?」
「あら、もう少し吹っ掛けてもいいのよ」
「いえいえ、王族とお知り合いになれる。それだけで、充分な報酬ですから」
「あら、あなた魔女なんでしょ、魔女はもっと強欲だと思ってたわ」
「王妃様のお手紙に、そう書いてありましたか?」
「いいえ、あの姉様があなたを高く評価するわけね。いいわ、金貨一枚で」
「もし、効果がなかったら、お言いつけ下さい。もっと強力なものを御用意しますので」
最近は匂い袋製作が忙しく、姫様に渡したのは、王都から持ち出した在庫の品だった。
ビンできちんと蓋していても、材料は自然のものを使っているから、薬として時間が経てば劣化もする。
「ところで、一つお伺いしてもよろしいですか」
「なんです?」
「呪いや魔法をはねつける武具を身につけているというと、お相手は姫様のお付きの騎士様のどなたかですか」
「ええ、そうよ、ガリドアというあの四人の中で一番冗談の通じなさそうなおっさんよ。小さい頃から王族を守る者として私のそばにいてくれて、それなりにこちらからアピールしているつもりなんだけど、守るべき王族に手は出せないという感じで、私を小さい頃から知っているせいか、こっちが舞踏会で飲み過ぎたふりをして寄りかかっても、黙って部屋を用意させて、そこに一人きりで休ませる朴念仁なのよ。他の三人は、私が彼に惚れているのに気づいていて、さりげなく応援してくれてるんだけど、当人が鈍感で、気づいてて、はぐらかしているのか、全く相手にされなくて、困ってたの。姉は、国を取るのが夢みたいだけど、私はそんな大それたことは望まない。惚れた男一人手に入れるだけで十分。おかしいかしら?」
「いえいえ、おかしくはありません。でも、この媚薬は呪いでも魔法でもない分、きっかけづくりにすぎません。そこから先は姫様の努力次第です」
「それでいいわ、彼堅物だから、一回でもやったら私に負い目を感じて、私の言いなりになると思う」
なるほど、一回でも関係を持てば、姫様有利となるのか。
私は、にやりと笑っていた。王族の恋の手伝い、悪くはない。
姫様も手にした小瓶を期待するように眺めていた。
そこに、佐助が顔を出した。
どうやら、二人の忍びの場合は、媚薬は恋のきっかけにはならなかったようで、彼は顔面をぼこぼこに殴られて悲惨な表情をしていた。
「あんた、一方的に殴られたの?」
「いや、ま、あのガキ初めてだったらしくてさ、薬が切れてから黙って殴られてやったんだよ。そしたら、手加減なしで、この様さ」
佐助が肩をすくめて苦笑していた。
「たく、人の薬をくすねて使うからよ、で、あんたが傷つけたその可哀想なお嬢さんは?」
「俺を好きなだけ殴って疲れると、どこかにいっちまったぜ。落ち着いたら戻って来るだろうさ。あいつ、自分で俺様のち〇ぽの上に乗って来たくせに・・・、参ったぜ」
「あらあら、あんなかわいい子にひどいことしておいて、それだけで済んで喜ぶべきところじゃない?」
媚薬の小瓶をそっと隠した姫様が、そう言って笑っていた。
「そうね、殺されても文句の言えないことをしたという自覚は持った方がいいわよ」
私も、佐助に忠告した。あのくノ一の妹さんだというし、本当にあの子に佐助が殺されても、私は文句が言えないと思う。私は魔女だが、貞操観念を捨てた覚えはない。
「い、いや、だから、これだけ殴らてやったんだが、俺、殴られ損か?」
「私は勝負は認めたけど、私の媚薬を使ってあそこまでやれとは言ってないでしょ」
「だが、あっちは本気で俺を殺す気だったんだ。あの煙玉が、一番、平和的だと思ったんだ」
「男のくせに、グダグダうるさい、生娘に手を出した責任を、きちんと取りなさい」
「責任って、なんだよ・・・」
「それぐらい、自分で考えなさい。あんたガキじゃないんだから」
私は呆れるように彼を突き放した。というより、その解決策は自分で考えてくれ。私は、媚薬の製造主だが、その使用後の責任まで負う気はない。が、傷薬ぐらいは出してあげよう。
「歯は、折れてないわね、これを塗っておきなさい。明日の朝には、見れる顔に戻ってるはずよ」
「おっ、すまねぇ」
佐助は私から傷薬を受取るとドロンと消えた。
「さて、先ほど、うちの忍びが使いました、煙玉に混ぜられていたのが、この媚薬となります」
薬の入った小瓶を姫様に差し出す。
「これが、先ほどの・・・」
「効果はさきほど見ていただいた通り。お勧めの使い方としては、香水のように体に振りまいておいて、意中の方と窓のない密室で二人きりになり、さりげなく、この媚薬の香りを嗅がせれば、さきほどのお嬢さんのように身体が火照り自分から押し倒しに来るでしょう。そこからは先は、お任せします」
「呪いや魔法の類ではないのでしょうね」
「いえいえ、自然に咲いている花や草木を煎じたもので、毒ではありませんからご安心を」
「実は、その私が落としたい堅物というのが、呪いや魔法を跳ね除ける聖なる武具を、常に身につけていることが多く、そういう類の品だと、効果が期待できないので」
「そうですか、ですが、これは呪いや魔法の類ではありません。どちらかといえば、精力剤に近いでしょう。男女がともに嗅げば、二人とも燃え上がること間違いなしの媚薬です、嗅がせるよりも飲ませるのが、一番確実ですが。王妃様もこれで世継ぎを」
「なるほど、うちの姉もこれを使ったわけね。分かったわ。買わせてもらうわ、いくらになるの?」
「王妃様のお知り合いですから、金貨一枚でどうです?」
「あら、もう少し吹っ掛けてもいいのよ」
「いえいえ、王族とお知り合いになれる。それだけで、充分な報酬ですから」
「あら、あなた魔女なんでしょ、魔女はもっと強欲だと思ってたわ」
「王妃様のお手紙に、そう書いてありましたか?」
「いいえ、あの姉様があなたを高く評価するわけね。いいわ、金貨一枚で」
「もし、効果がなかったら、お言いつけ下さい。もっと強力なものを御用意しますので」
最近は匂い袋製作が忙しく、姫様に渡したのは、王都から持ち出した在庫の品だった。
ビンできちんと蓋していても、材料は自然のものを使っているから、薬として時間が経てば劣化もする。
「ところで、一つお伺いしてもよろしいですか」
「なんです?」
「呪いや魔法をはねつける武具を身につけているというと、お相手は姫様のお付きの騎士様のどなたかですか」
「ええ、そうよ、ガリドアというあの四人の中で一番冗談の通じなさそうなおっさんよ。小さい頃から王族を守る者として私のそばにいてくれて、それなりにこちらからアピールしているつもりなんだけど、守るべき王族に手は出せないという感じで、私を小さい頃から知っているせいか、こっちが舞踏会で飲み過ぎたふりをして寄りかかっても、黙って部屋を用意させて、そこに一人きりで休ませる朴念仁なのよ。他の三人は、私が彼に惚れているのに気づいていて、さりげなく応援してくれてるんだけど、当人が鈍感で、気づいてて、はぐらかしているのか、全く相手にされなくて、困ってたの。姉は、国を取るのが夢みたいだけど、私はそんな大それたことは望まない。惚れた男一人手に入れるだけで十分。おかしいかしら?」
「いえいえ、おかしくはありません。でも、この媚薬は呪いでも魔法でもない分、きっかけづくりにすぎません。そこから先は姫様の努力次第です」
「それでいいわ、彼堅物だから、一回でもやったら私に負い目を感じて、私の言いなりになると思う」
なるほど、一回でも関係を持てば、姫様有利となるのか。
私は、にやりと笑っていた。王族の恋の手伝い、悪くはない。
姫様も手にした小瓶を期待するように眺めていた。
そこに、佐助が顔を出した。
どうやら、二人の忍びの場合は、媚薬は恋のきっかけにはならなかったようで、彼は顔面をぼこぼこに殴られて悲惨な表情をしていた。
「あんた、一方的に殴られたの?」
「いや、ま、あのガキ初めてだったらしくてさ、薬が切れてから黙って殴られてやったんだよ。そしたら、手加減なしで、この様さ」
佐助が肩をすくめて苦笑していた。
「たく、人の薬をくすねて使うからよ、で、あんたが傷つけたその可哀想なお嬢さんは?」
「俺を好きなだけ殴って疲れると、どこかにいっちまったぜ。落ち着いたら戻って来るだろうさ。あいつ、自分で俺様のち〇ぽの上に乗って来たくせに・・・、参ったぜ」
「あらあら、あんなかわいい子にひどいことしておいて、それだけで済んで喜ぶべきところじゃない?」
媚薬の小瓶をそっと隠した姫様が、そう言って笑っていた。
「そうね、殺されても文句の言えないことをしたという自覚は持った方がいいわよ」
私も、佐助に忠告した。あのくノ一の妹さんだというし、本当にあの子に佐助が殺されても、私は文句が言えないと思う。私は魔女だが、貞操観念を捨てた覚えはない。
「い、いや、だから、これだけ殴らてやったんだが、俺、殴られ損か?」
「私は勝負は認めたけど、私の媚薬を使ってあそこまでやれとは言ってないでしょ」
「だが、あっちは本気で俺を殺す気だったんだ。あの煙玉が、一番、平和的だと思ったんだ」
「男のくせに、グダグダうるさい、生娘に手を出した責任を、きちんと取りなさい」
「責任って、なんだよ・・・」
「それぐらい、自分で考えなさい。あんたガキじゃないんだから」
私は呆れるように彼を突き放した。というより、その解決策は自分で考えてくれ。私は、媚薬の製造主だが、その使用後の責任まで負う気はない。が、傷薬ぐらいは出してあげよう。
「歯は、折れてないわね、これを塗っておきなさい。明日の朝には、見れる顔に戻ってるはずよ」
「おっ、すまねぇ」
佐助は私から傷薬を受取るとドロンと消えた。
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