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手紙
しおりを挟むゲオルクも今朝伯父さまから聞いたばかりだという昨夜の私の行動をまとめるとこうだ。
昨夜。
フランツの部下であるパウルという青年からワインを注がれ、それを飲み干した私は、いつまでもその場を離れようとしない立ちっぱなしの彼らに椅子を持ってくるよう言ったそうだ。
この時点で既に自分自身信じられないのだが、話はそれだけで終わらなかった。
楽しそうに椅子を並べて飲む私たちの周りにたくさんの出席者たちが集まって来たらしい。
私はその全員と親しく挨拶し、会話を楽しみ、卓上にはみるみるうちに空瓶がところ狭しと並べられていったと……
──この世の終わりだわ
どこの国に身分の分け隔てなく、しかも男たちと酒を酌み交わして二日酔いになる公爵令嬢がいるっていうの。
しかも、伯父さまは潰れた私をフランツに馬車まで送る……というより運ぶように言ったそうだ。
『英雄が送るなら世界一安全だろう』とかなんとか言っていたらしい。
こんなことなら、酔った勢いで一発くらいつるぺかな頭を引っ叩いておけばよかった。
走馬灯だと決めつけてかかっていたから、無礼講だとやりすぎてしまった私が悪いのはわかってる。
けれど、いったい誰がこれを現実だなんて信じると思う?
か弱い令嬢があんなに高い所から飛び降りたのよ?
生きてるはずないじゃない。
「そうそう、そういえば……」
ゲオルクはなにかを思いだしたように往診用の鞄を膝に乗せ、その中から白い封筒を取り出した。
「これをダミアン殿下からお預かりしました」
「お兄さまから?」
私は一人娘で兄はいない。
そんな私が“お兄さま”と呼ぶのは、伯父さまの息子である第一王子ダミアンと、第二王子ヨハネスの二人だ。
確かダミアンお兄さまは、今回の戦争で受けた損害の賠償額を決めるため、敗戦国である隣国との交渉の場に、代表として出向いていたはず。
相当大きな戦だった。
戦費などの賠償金も、莫大な金額になるだろうということで、伯父は話し合いに重みを持たせるためにも、王族であるダミアンお兄さまを遣わせたのだ。
だが相手側が、負けたにも関わらず少々ごねたため、なかなか落としどころが決まらず、話し合いが難航した──というような話を巻き戻る以前に聞いたことがある。
ちなみにヨハネスお兄さまは……少し前に万が一の事態に備え、友好国へ援軍の要請に出向いていたはずだ。
「私宛ての手紙を預かったってことは、お兄さまは戻られたの?」
「ええ、ちょうど今朝方のことです。リゼル様と同じように二日酔いでいらした陛下に呆れた顔をしてらっしゃいました」
自分に面倒な役割を押し付けた張本人が、二日酔いになるほど酒食の席を楽しんでいたなんて聞けば、それはお兄さまだって面白くないだろう。
診察器具を鞄にしまうゲオルクの横で、私は美しい筆跡で書かれたダミアンお兄さまからの手紙に目を通した。
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