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ニーナ④
しおりを挟むいつものように、令嬢たちの輪の中に入ろうと声をかけると、彼女たちは私の姿を見るなりキョロキョロと辺りを見回した。
『フランツ様は!?』
『え?ああ……フランツは、今日は来れないって』
『……あら、そうなの……』
『それよりもなんのお話をしていたの?ねえ……皆さま……?』
誰からも返事がない。
この数年で仲良くなった子たちは、フランツがこないと聞いた途端、まるで私なんてそこに存在していないかのように、話の続きをしだした。
いつもなら“ニーナ様、こっちにいらして!”と競うように誘ってくれる他の令嬢たちも、今日は誰も側に呼んでくれない。
その日、私はテーブルの端っこに、自分で用意した椅子に座って一日を過ごした。
帰り道。
いつもなら落ち込んでいるところだけど、今日はあることがわかったお陰でそんなに気分は悪くなかった。
──今日の彼女たちは、いつもは隠してる私への嫉妬心がでちゃったのよ
私がいつもフランツをひとりじめしてるからって、フランツが見ていないところで少し意地悪しようと思ったのね。
やっぱりフランツと来なきゃ駄目だわ。
だってみんな、私のお陰でフランツと仲良くできるのよ?
それをもっとわからせてあげなきゃ。
私にどれだけ価値があるのかってことを。
こういう時は、フランツを説得するよりお父さまとお母さまにお願いした方が早い。
だから私はお茶会から帰るなり、フランツが一緒に来てくれないからみんなに意地悪されたとふたりに泣きついた。
するとフランツは、渋々だがまた同伴してくれるようになったのだ。
それからしばらく経ったある日のことだった。
度重なる天災がロイスナー子爵家の領地を襲い、整備にかかる費用がかさんで破産寸前に追い込まれたのは。
親友の危機ではあったけど、被害が甚大なだけに、いつものような援助額ではなんの助けにもならない。
お父さまはどうするべきなのか、相当悩んでいた。
うちだって、決して余裕がある訳じゃないから。
けれど私はお父様に必死でお願いした。
『ロイスナーのおじさまを助けてあげて!!お願いよ、お父さま!!』
もしかしたらそのせいでうちの財政も傾くかもしれない。
でもそんな危険は承知の上だった。
そんなことよりもわたしの私の頭を占めていたのは、“これで一生フランツの側にいることができるかもしれない”ということだった。
返しきれない恩を売れば、フランツをずっと縛りつけておけるんじゃないかって。
案の定、ロイスナー子爵家を助けたことでうちも破産寸前まで追い込まれた。
けれどその代わり、義理堅いフランツはお父さまに私の将来を頼まれ、それを承諾してくれた。
これでいい。
これでこの先もずっと、私は特別な存在でいられる。
地位もお金もなくたって、フランツさえいれば。
いつの日かクラリッサが言っていた“ローエンシュタインの真珠”だって、私には適わないわ。
だって、なんていったって私にはフランツがいるんだもの。
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