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55 それぞれの朝②

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 汚れてはいないが間違いない。
 朝の排泄をいたした後だろう。

 「……僕じゃなくて姉上に拭いてもらいたいんじゃないのか……うわぁっ!!」

 卑屈な物言いのルシアンに、ハリーの制裁が下る。

 「ぎゃわん!」

 「やめろよハリー!!お尻の穴を押しつけるなってば!!」

 本人も自慢の麗しの顔に、これでもかと尻穴を押しつけるハリー。
 たまらずルシアンは起き上がった。

 「もう!誰かいる?ハリーのお尻拭くから湿らせた布持ってきて!!あと僕は洗顔するからそれも一式!」

 侍女が用意した適度に湿った布で優しくお尻を拭いてやると、ハリーは満足したように“ふん”と鼻を鳴らし、ルシアンの前に座った。

 「……なんだよ。お前、シア姉さまと行くんじゃないのか──いてっ!!もう、さっきからなんなのさ!?」

 唐突なハリーの頭突きにルシアンは額を押さえた。

 「わふわふわふわふわふアーヴィングがいい人間だって本当はわかってるんでしょ!?」

 もちろん言葉は通じるわけではなかったが、ハリーの真剣な眼差しから、なんとなく彼が言わんとすることを感じ取った。
 
 「……お前が懐くくらいだ。いい奴なんだろうね……だからってシア姉さまがここを出ていくことは賛成できないよ」

 「きゃわわわんそれでもいいんだよ。でも言うべきことはちゃんと言わなきゃ!!」

 ルシアンはしばらくハリーと見つめ合った。
 そしてしばらくするとのそのそと立ち上がり、顔を洗い出した。尻を押し付けられた辺りを念入りに洗ったあと、少し乱暴に顔をゴシゴシと拭く。
 顔を上げたルシアンは、なにか吹っ切れたような表情をしていた。


 *


 そしてここは王太子ローレンスの部屋。

 (痛い……めちゃめちゃ痛い……)
 尊い王太子の身体をよくぞここまで痛めつけてくれたものだ。
 いくら乳兄弟との喧嘩といえど、さすがに限度があるのではないだろうか。
 ルシアンともこんな喧嘩はしたことがない。もっともあれは年が離れているせいで、最初から喧嘩にはならないのだが。

 「あだだだだだだ!!」

 寝台から降りようとするだけで、身体中が悲鳴を上げる大騒ぎだ。
 重い身体を引きずって寝室を出ると、なんとそこにはいつも待機しているはずの侍女ではなく、イヴを膝にのせたイアンがいた。

 「な~う大丈夫?」

 「これくらいなんともないよ。イヴは本当にいい女だな。あいつローレンスにはもったいないよ」

 イヴは心配そうにイアンの身体を確認している。ローレンス御主人はベッドに放っておいてだ。

 「イヴ!!」

 わなわなと震えながら愛猫の名を呼ぶと、イヴは睨め上げるような視線をローレンスに向けた。

 

 
 

 
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