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9 ラスボスは不在でも無敵 ―大将―

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「さて。これで終わりだ。
エイデンとアイラの婚約は破棄。この家は俺のものになった。
お前たち一家は今日中にここを出て行ってくれ」

再び泣き出したエイデンを無視して、アイラの父オリバーはドアへと向かった。
エイデンの父ケイズは急いでオリバーの足元に行くと土下座した。

「待ってくれっ!オリバー。
謝る!心から反省して謝る!
お前にも、アイラちゃんにも本当に申し訳ないことをした。
すまなかった。
……それでも頼む。この家だけは許してくれないか?
知ってるだろう?ここは俺の父親が建てた家なんだよ。お願いだ。
償いは金でする。何年、何十年かかってもこの家と同等な金を渡す。
だから―――」

「――その大事な家をかけた契約を破ったのは誰だ。
金の問題じゃないと言っただろう。この家の持ち主はすでに俺だ。
お前たち一家はとっとと出て行ってくれ」

「……俺がこれだけ頼んでもダメなのか?」

「そうだ。早く出て行け。顔も見たくない」

とりつく島もない幼馴染のオリバーの様子に、ケイズはとうとう涙を流した。
ぐっと手を握りしめて、床に額をこすりつけた。

「オリバー。そうだよな。すまない。怒るのはわかるよ。
けど俺たちは行くあてもない。
俺も妻も両親はもういないし、きょうだいもない。
すぐに頼れるような身内はいないんだよ。
頼む。せめて数日、猶予をくれないか?」

「やれないね」

「オリバー!頼む!」

「――しょうがないな……。じゃあはっきり言ってやろうか」

「え……?」

「気がつかないか?
娘アイラの一大事なのに、母親――俺の妻がここにいないのは何故だと思う?
俺たちはここへ来る途中で宿屋の女将さんに会ったんだよ。
そうしたら《顔色が悪いけどどうしたの?!》って。
あっという間に妻は女将さんに連れて行かれてな」

「…………」

「今ごろ妻は、顔色が優れない理由を聞き出されているだろう。
宿屋の女将さんは聞き出すのが上手いからな。
そして俺の妻は街中の商売人の人気者だ。
商売人は契約をいとも簡単に反故する奴を嫌う。
どうだ?ケイズ。
俺の言いたいことが分かるか?」

「―――――」

エイデンの父ケイズは床につけていた顔を上げて幼馴染オリバーの顔を見た。
そのきょとんとした、わからないと書いてあるような顔を見てオリバーはため息を吐いた。

「教えてやるよ。
お前たち一家はこの街中の商売人を敵に回したんだよ。
―――もうこの街でパンの一切れ、野菜の葉一枚まともに買えると思うなよ」

「そ……そんな……」

「他所へ移った方がお前たちのためだ。
ああ、そうだ。連れて行く気はない、とは思うが。
そこのナウリアは置いていけよ。一緒にいればお前たち全員殺されるぞ?」

「へ?」

「どういうことか説明したらどうだナウリア。起きてるんだろ?」


皆の目がずっと転がっていたナウリアに向いた。


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