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お祭りでは羽目を外しすぎてはいけない

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「日蔭さん? 君は何の、えっと、その性質? があるの」


 半夏が半信半疑コップに麦茶を出しながら尋ねると、ようやく落ち着いた典理が顔を出した。



「僕の中にいるのは先ほど説明してもらった通り、河童の妖怪です。九州で封印されていて忘れられていた河童です。僕たち河童はきれいな水がないと生きられないんですが、僕の中の河童がいたところは不法投棄やら廃水やらでとても汚れていて。本来の姿を忘れていたらしいです」

「こいつの中の妖怪がうちの村に来たのはもうずっと前だ。それこそ公害が認知され始めて、解決しないとと国が動き始めた時だ」
「だから、僕の中の河童はすごくグルメ、舌がちょっとでも受け付けないと水を飲んでくれなくって。僕自身は経口摂取でいいんですけど、河童だから頭のお皿にあげる水はおいしくないと受け付けなくって、僕、干からびてミイラになってしまうんです」




 医者が言うには、頭の皮膚と河童の皿が同化していて、見た目には普通の頭だが触ると確かにつるつるとしていた。
 そして皿の水分が少なくなると髪の毛に蓄えていた水分から吸収していくので髪の毛がくるくるし始めたら水分不足の証拠らしい。



「だから、今はそんなにつやつやなんだな」
「はい、とってもおいしかったですから」


 その時はとてもいい笑顔で返してくる。
 水郷はつい触れていた手を頭から髪の毛を撫でるようにしてしまった。



 かき氷屋を始めたいと計画している半夏は氷からこだわっている為、しっかり氷室から仕入れてきた氷なのだ。
 丹精込めて作られた氷で不純物なんか見えやしない。
 そりゃあおいしいだろう。


 因みに甲羅も背中と同化していて見た目は確かにただの人間の背中だが、触れるとつるつるとしている。


 皮膚なのは皮膚なのだが、こんなにつるつるしている皮膚があるのかとこちらもついつい触れてしまう。
 その背中に赤い痕を見つけて水郷は手を下ろした。



「この甲羅は逆に日光に当てないと苔が生えちゃうこともあるんで、週に一度くらいは日に当てます」
「結構面倒くさいな」
「河童の方の姿になったら力持ちにもなるんですよ。相撲が得意ですけど、僕の姿だとあんまり上手ではないです」
「そういうこともあるのかぁ。不思議だなあ」
「だから、医者もなるべく村の医者にかかるんです。僕なんかまだ見た目が普通の人間だから紛れやすいけどそうじゃないのもいますから」
「なるほどな」




 因みに村の医者も陰陽師の末裔がやっているらしい。
 陰陽師の末裔は村の秘密を守るため、運営に必要な人材育成にも力を入れているので教育は結構充実している。


「ちなみに僕は医薬品メーカーに勤めています。薬剤師の資格もあるんですけど、今は実地で学びたいので事務とか営業とか行っています」

 そうなんだ、へぇー。そうなんですなどとのんびりと会話を交わしていたら、大人しく話を聞いていた少年がぶっこんだ。



「でも、こいつ、なかなか処理しないから爆発するんだ。せいよ……ふがふが」



 誰も触れようとしなかった事故の話をあけすけに言おうとした少年の口を、ぎゃーと叫んだ典理が口をふさいで窒息死させようとしている。


「その話は私からしようか。河童についてこういう言葉は知っているか?」


 尻子玉という言葉を聞いて水郷と半夏は二人して首を傾げた。漢字すら思いつかない。

 河童は人間の尻から尻子玉を抜くのだそう。それを抜かれた人間は腑抜けになって川でおぼれてしまうそうだ。
 そして典理の中にいる河童はかつて多くの人間から尻子玉を抜いて、それがもとで封印され、その抜いた尻子玉の力を還元するように川の氾濫を抑える役割を担わされていたそうだ。



 尻子玉は、龍神にささげるパターンもあるそうだが、それはキレイな尻子玉に限られる。だから典理の中にいる河童は尻子玉をたくさん採ってきれいなものだけを龍神にささげ残ったものは自分の力としていたのだ。




 で、結果。典理の中にもその尻子玉でできた力が大量に残っていて。


 村に集まる河童はそういうのも多くいて。

 で、典理は幼いときに、その力を開放しまくってどんちゃん騒ぎしていた大人にトラウマを抱えていた。








 祭りの日、きれいなおいしい水の作用で中に秘めている力が開放されて、姿を変えた大人たちが羽目を外しすぎた。


 典理にしたら事件である。
 事故ともいうか。
 とりあえずいい迷惑であった。





 酒が並んでいる机の上でくんずほぐれつが始まってしまったのだ。


 子どもの典理には刺激が強すぎた。
 子どもでなくても食事の席で見るものではないが。

 呆然としている典理はそのままそこで動けなくなった。
 気づけばそのくんずほぐれつをしている人物たちが典理の目の前の机の上にやって来た。



 大きい声で、真っ裸で、男の人の後ろで男の人が体をぶつけて、膝立ちで全部が見えるような格好で典理の前に来たのだ。


 なんとなく目が離せなくて怖いと思って動けなくなった。


 



 そりゃあ、怖い。獣みたいだったんだから。






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