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【一章】異世界でプラモデル

16.初搭乗

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「……さあ皆様お待たせしました! 本日のメインイベント! 期待の新鋭、カマセーヌ家に対するは……なんと! あの『王家の盾』、ヴァイシルト家です! あの名門ヴァイシルト家がこの闘技場で戦うのは……ふむふむ、実に20年ぶりです! 果たしてどんな戦いを見せてくれるのでしょうかぁっ!?」

 今俺は出場者用の控え室にシルヴィアと二人でいた。
 そこからは会場が見渡せるのだが、投影の魔法かなんかだろうか。闘技場の中央に大きく写し出された人物が、カンペ読みながらテンション高めに実況を始めた。
 それに応じて客席が沸く。人数が凄いので、その分迫力も凄い。この反応からして、この決闘がいかに注目されているのかが伺える。

 魔動決闘マギアデュエルは民衆の娯楽として、かなり根強い人気があるのだろう。

「俺ぁ昔にヴァイシルト家の決闘を見たことがあるんだ。そりゃあもう凄かったぜ! なんせ白金等級プラチナムグレードに相当する武装を代々引き継いでいる家柄だからな! あれがもう一度見られるなんて、俺は幸せ者だよ」
「マジか、そいつは楽しみだな! ……しかし、何故20年もの間表舞台に出てこなかったんだ?」
「さあな。当代の当主があまり娯楽に興味がなかったとかじゃないか?」

 近くの客席からそんなやり取りが聞こえてきた。
 白金等級の武装……上から2番目の等級だな。武装ってことは魔動人形自体の等級はそこまで高いものじゃなかったのだろうか。

「……武装だけが入ってる箱もあるってことか」

「――そうですね。一部の強力な武装に関しては、武装のみでアーティファクトから出てくるものもあります」

 独り言で呟いた言葉に、シルヴィアは律儀に返事をしてくれた。そうか、そういうのもあるのか。

 そんな強力な武装を使わないってことは、やはりザッコブに奪われたのだろう。

「……いや待て、ってことはザッコブがそれを使ってくる可能性もあるってことか!?」

「それは無いと思いますよ。あの武装はヴァイシルト家の代名詞。それを公の場で使うのは、盗みましたと言っているようなものです。それに……あれを使える人間は限られますから」

「それって、どういう――」

 俺がその理由を聞こうとした時、わっと会場のボルテージが一段階上がった。

 ザッコブ側の機体が入場したのだ。
 シルヴィアとの会話に集中していて気が付かなかった。ということは、次はこっちの番か……。

 いかん、緊張で手が震える……!

「ケイタさん。例え負けてもあなただけは必ずカマセーヌ家から逃がしてみせます。ですから、あまり気負わないでくださいね」

「シルヴィア……」

 シルヴィアは震える俺の手を握り、そう言ったのだ。
 自らが破滅の道を辿るかもしれないのに、俺の心配をしてくれている。まったく、敵わないなぁ……そんな風に言われたら、震えている場合じゃなくなるじゃないか。

 俺はシルヴィアの手を両手で握り返してこう言った。

「行ってくるよ。そして必ず勝つ」

「はい……!」

 俺は控え室を出て会場へと歩き出す。

「さあ! 続いての入場は……皆様お待ちかね! ヴァイシルト家代表のご登場だぁ! 果たしてどんな戦いが繰り広げられるのかぁ!?」

 実況の人が俺を呼ぶ声が会場へと響き、観客が息を飲み真打ちの登場を待ち構えていた。

「――それでは、入場お願いしまぁす!」

「よし、行くぞ!『人形接続ドールコネクト』っ!」

 俺は魔動人形が入ったアーティファクトを片手に、教えてもらった起動式を叫ぶ。
 
 すると、手の紋章とアーティファクトが同時に光り始め、俺はそのまま膨張し続ける光に包まれる。
 眩しさに瞑った目を開くと、真っ暗闇の中でいつの間にかパイロットシートのようなものに座っていた。

「お、おお!? 真っ暗だけど大丈夫なのか!?」

 間もなくして、何かしらの計器類だと思われるものが順々に光りだし、そして最後に正面にモニターっぽいのが出てきて、機体目線であろう正面の映像が大きく写し出された。
 手元には青く煌めく球体がある。これが意思伝達装置ってやつだろうか。

 ん? 意気込んで登場したはいいけど、会場が静かだな。もしかしてなんか間違えたか……?
 さっきまでの盛り上りが嘘だったかのように、辺りはシーンと静まり返っていたのだった。
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