魔女っ子令嬢はこの度カボチャと契約恋愛をする事になりました!〜お兄様とイケメンに溺愛されて大変です〜

蓮恭

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2. 来客は横柄なカボチャ


 そして未だ息切れの治らない瓶底眼鏡の兄の手を引きながら、黒いワンピースをヒラリとひるがえしたマリーはサロンへと向かった。

「……ありがとう、マリー」

 フランクは自らの手を引きながら先を歩くマリーにポツリと呟いた。
 昔から自分にあまり自信を持てない彼は、妹のマリーにいつもリードしてもらっていたのだった。

 この、レンズが重すぎる瓶底眼鏡は彼の自信のなさを象徴するようなものである。
 これがあるからこそまだ人前に出ることができるが、これがないと話すことはおろか目を合わせることすら困難なのだ。

 二人の両親である前ラヴァンディエ伯爵が馬車の事故で二人同時に亡くなった後に、若くして当主となったものの未だにしっかり者の妹が居ないと不安でならないフランクは、それでも彼なりに努力はしていた。

 二人がサロンに着くと、ちょうどジョルジュがお茶の準備を終えたところであった。

「マリーお嬢様、おかえりなさいませ。ちょうどお茶の支度が整っております。どうぞ」
「ありがとう、ジョルジュ」

 席に着いたマリーは、兄であるフランクがお茶を一気に流し込む様を横目で見守りながら、自らもカップのお茶を一口含んた。

「ゴホッ……ゴホッ!」
「お兄様、大丈夫?」

 案の定、期待を裏切らないフランクはむせ込んでお茶を鼻と口から吹き出した。
 マリーは慣れた様子でフランクにスッとハンカチを差し出す。

 仲の良い兄へのこのような時の対応をマリーはすっかり心得ていた。

 フランクはそのハンカチを受け取ってから眼鏡を外し、顔と瓶底眼鏡をポンポンと拭き取ってからマリーに謝罪する。
 そしてすぐにまた重い眼鏡をかけ直した。

「ごめんよ、マリー」
「いいのよ、お兄様。それで、何かあったの?」
「そうだ! 実はマリーにお願いがあって……」

 そこまでフランクが話した時、窓の外で馬車が玄関ホールの方へと走り込んでくる音が聞こえた。

「ああー! どうしよう⁉︎    もう来ちゃったんだ! マリー! 助けてくれ!」
「お兄様、落ち着いて。一体どなたがいらっしゃったの?」
「実は……」

 フランクは立ち上がりながらマリーへ説明しようとしたが、アワアワと口を開けたり閉じたりするばかりで声にならない。
 手をバタバタと仰ぐようにする様も相まって、まるでアヒルかガチョウのようで滑稽こっけいだ。

「もういいわお兄様、とにかくお客様をお迎えしなくては……」
「そ、そうだな。では向かおう」
「お兄様、濡れてるわよ」
「ああ、もう……。僕はどうしていつもこうなんだ……」

 フランクの胸元、クラバットの辺りがお茶で濡れていたが着替える暇はない。
 とりあえずマリーがハンカチで拭ってから、二人は玄関ホールへと向かった。
 もちろん、マリーがフランクの手を引いて。

 既に客は玄関ホール内に到着していたが、何やら様子がおかしいようだ。

「フランク様、お客様がお見えになっているのですが……」

 侍女の一人がそこまで言ってから何故か口籠くちごもる。

「ああ、分かってる。マリー、いいか決して驚いてはいけないよ。今から……って、マリー!」

 フランクが何やらマリーに話そうとしているようだったが、マリーはそんな兄を放っておいてさっさとお客様の方へと歩みを進めた。
 後方で何やら絶望的なフランクの叫びが聞こえたが、とりあえずマリーは聞こえないフリをしているようだ。

「ようこそいらっしゃいました。ラヴァンディエ伯爵が妹のマリー・ド・ラヴァンディエと申します。……カボチャ……?」

 客の面前にも関わらず、思わずマリーが呟くほどに目の前にあるはずの客の顔はカボチャだったのだ。
 
「……こちらの令嬢がこの呪いを解いてくれるという魔女か?」

 カボチャは目元と鼻の辺り、そして口元がくり抜かれている。
 その僅かな隙間から見えた薄めで形の良い唇から絞り出すような声が聞こえたのだった。

「呪い……魔女……?」

 マリーはカボチャの言葉を復唱する。
 よく見ればカボチャの着ている服は見たことのない異国の物のようで、服から出た首や手は人間のそれであった。

「それよりも……そのカボチャの被り物はまるでそう、最近異国で流行していると噂の『ハロウィン用のランタン』?」

 今日買い物に出たマリーが店で見かけて、その滑稽さに失笑したばかりだったので覚えていたようだ。
 カボチャをくり抜くなど、一体誰が考えたのかと侍女のサラと言い合ったのだから。

「リュウ・シエン殿! 妹が失礼を……! まさかこんなに早く到着されるとは思わず、まだ妹に説明が出来ていないのです! お許しください!」

 遠慮のないマリーの言葉に慌てた様子でフランクがカボチャに謝罪する。

「……ラヴァンディエ伯爵。本当に俺の呪いは解けるのか?」
「はい。僕の妹はそのようなたぐいのことに詳しいので、きっと大丈夫です! それに……」
「では! 早速頼む」

 フランクの言葉に被せ気味で話すえらく横柄な態度のカボチャに、マリーはムッとした様子でフランクとのやり取りを見つめている。

「マリー、お願いだ。僕を助けると思ってこの方の呪いを解いて差し上げてくれないか?」

 フランクの瓶底眼鏡の奥は涙目で、祈るような姿勢で妹に向かって懇願する。
 マリーはまたフランクがややこしいことを持ち帰ってきたのだと悟ったようで、諦めの表情となった。

「カボチャさん、私は魔女ではありません。しかし、できる限りのご協力はいたしましょう。まずはお話を聞かせてください」
 
 








 
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