魔女っ子令嬢はこの度カボチャと契約恋愛をする事になりました!〜お兄様とイケメンに溺愛されて大変です〜

蓮恭

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4. マーサにも瓶底眼鏡と呼ばれる兄


 マリーはサロンを出た後に一旦自室へと戻った。
 とにかく街へ出て『責任は取らないマーサの魔法と魔術道具の店』へと向かわなければならない。

 自室の扉の前ではエマが心配そうにして待っていた。
 
「お嬢様、どうでした?」
「エマ、最悪よ。とにかく今から『責任は取らないマーサの魔法と魔術道具の店』に向かわないといけないの。一緒に行ってくれる? 詳しいことは馬車の中で話すわ」

 マリーの言う『最悪』とは、トラブルメーカーのフランクが引き起こすトラブルにおいて、本当に最悪なことが起こった時に使われる言葉であったから、エマはゴクリと喉を鳴らした。

 二人は早足で馬車へと乗り込み、先程の浮き足立つような楽しい買い物から一転して、恐らくとんでもない波乱の待ち受ける『責任は取らないマーサの魔法と魔術道具の店』へと暗い気持ちで向かうのであった。

 馬車の中で先程聞いた出来事を全てエマに話し終えた頃、ちょうど『責任は取らないマーサの魔法と魔術道具の店』の前に到着した。
 すでにもう外は薄暗くなり始めていた。

「はぁー……。いつもならとても楽しい気分で来るお店なんだけれど。こういう時にはこのお店でなく他のお店なら良かったと心から思うわ」
「お嬢様、仕方ありません。心を決めて行きましょう」
「そうね」

 マリーはエマに励まされながら『責任は取らないマーサの魔法と魔術道具の店』へと足を踏み入れた。
 エマはこの奇妙な店には入らずに表で待つ。

 カランカランと大きめの鈴の音が鳴り響くドアを開けると、中は薄暗くておかしな匂いのする空間であった。
 おどろおどろしい物や、いかにも怪しげな道具が所狭しと並んでおり、その奥のカウンターではフードをスッポリと被った老婆が店番をしている。

「マーサ、こんばんは」

 マリーが声を掛けると、シワが顔中に広がる老婆がモゴモゴと口を動かしてしゃがれた声で返事をした。

「おや、マリーかい。今日は朝の早いうちからあんたの血縁の者が来てたよ。色々店の中で商品を落として壊して散々だったけどねぇ。ヒッヒッヒ……」

 きっと、というか確実にフランクのことであろう。
 あの度の合っていない瓶底ずり落ち眼鏡でそこら中にぶつかって、店に迷惑をかけたのだろうと想像出来た。

「兄が本当にごめんなさい、マーサ。実は、聞きたいことがあってきたの」

 マーサが本気で怒っている訳ではないと分かっているマリーは、早々に本題に入ることにした。

「マリーが無事なところを見るに……が他の誰かに効果を発動したのかい? ヒッヒッヒ……」

 マリーが口を開こうとした時に、マーサが先に言葉を紡いだ。

「そう、なのかしら? 実は兄の知人がカボチャになってしまったのよ。あれはやはり呪いなの?」

 そう言い終えた時、マーサは普段閉じられた目を見開き、肩を震わせてケラケラと笑い始めた。
 皺くちゃの顔で目をこれでもかと見開いて笑う老婆は、この店の雰囲気も相まってとても不気味であった。

「あははは……っ! そうかい! あの瓶底眼鏡の知り合いがカボチャになったのかい! そりゃあ面白いことになったね!」

 この老婆でさえ、フランクのことを『瓶底眼鏡』と呼んでいたとは知らなかったマリーはため息を吐いてから核心をついた。

「それでマーサ、あの呪いはどうやったら解けるの?」

 マリーの問いに、マーサはケラケラと笑うのをスッとやめた。
 そしていつものように皺に囲まれた目を細めて、マリーにそっと囁いた。

「いいかい。今から言うことは本当のことさ。そりゃあ元に戻すのはもちろん、『愛し、愛される者からの口づけ』だよ。ヒッヒッヒ……」

 それを聞いたマリーは思わず膝から崩れ落ち、絶望に暮れた。
 あのようなカボチャのお化けに口づけをしようと思うような者などいるのだろうかとはなはだ疑問だった。

「いいえ、もしかしたら恋人か、妻くらいいたかも知れないわ」

 顔はカボチャだったから年齢まではよく分からなかったが、商会の会長をするくらいだからある程度の年齢ではあるだろう。
 マリーは希望が見えた気がした。

「ありがとう! マーサ! お礼にこの『呪いのわら人形』一ついただくわ!」
「まいどあり。こっちは随分と面白いことになりそうだから逆に金を払っても良さそうなもんだけど。マリーがそう言うならそれでもいいさ。ヒッヒッヒ……」

 『責任は取らないマーサの魔法と魔術道具の店』を出たマリーに、表で待っていたエマが話しかける。

「お嬢様、どうでした?」
「『愛し、愛される者からの口づけ』が呪いを解く鍵だったわ」
「まあ、それなら何とか解決しそうですね。カボチャのお方がおいくつくらいなのかは存じ上げませんが、一人くらいはそのような相手がいらっしゃるでしょう」
「そうよね。とにかく屋敷へ帰りましょう」

 二人はまた馬車へと乗り込んで、きっと一人で気まずい思いをしているであろうフランクの元へと急いだ。

 
 

 
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