7 / 31
7. 惚れ薬は他に使い道があるので
ガチャリと黒い扉が開かれると、奥の部屋は薄暗く何やら多くの物が置いてあるようだった。
手慣れた様子でマリーが部屋のそこかしこにある蝋燭へ火をつければ、室内の全体像がぼんやりと浮かび上がってきた。
何かの像やら、魔法陣のような図柄の入った絵やら、器のような物、怪しげな液体の入った瓶などが多く存在している。
他にも鍵の束や杖のようなもの、天秤や訳の分からない粉のようなものまで……とにかく怪しげな品々が所狭しと並べられているのだ。
「ようこそ、私の『魔女部屋』へ」
マリーは蝋燭の明かりを受けて、あえて妖しげに微笑みながらカーテシーを披露する。
赤い髪は蝋燭の明かりによってなおさら美しい輝きを放ち、マリーの紫色の瞳は神秘的な光をたたえた。
「やはりマリーは魔女ではないのか?」
室内をキョロキョロ見渡すように、カボチャ頭をあちこちへ向けるリュウ・シエンはマリーへ問うた。
「私は魔女ではありません。しかし、魔女に憧れて魔術の類や呪いについてなどを色々と研究しているのです」
「ほう、それがマリーの令嬢らしからぬ趣味か」
「まあ、そうですわね。驚かれました?」
カボチャ頭のリュウ・シエンが腰を抜かさなかったことは些か不満ではあったが、期待を込めてマリーは尋ねた。
「まあ、珍しい趣味ではあるな。だが、俺の趣味に比べればまだ真っ当な物だと言える」
リュウ・シエンの言葉に、マリーは愕然とした。
せっかくこの澄ましたリュウ・シエンを驚かせようとしたのに、全く驚くことなどなく……それどころかこの変わっていると言われがちな趣味を認めているようでもあるのだ。
「で、では……、そういうリュウ・シエン様のご趣味とは何ですの?」
マリーは思い通りの反応が返ってこなかったことが悔しくて、一体どんな趣味の持ち主なのかとリュウ・シエンに尋ねた。
「俺の趣味は……、欲しいものを何としても手に入れること。その経過すら楽しむこと、かな」
「……確かに、とても自信がおありの貴方にはぴったりの趣味のようですね」
やはり若くして大きな商会の会長になるほどの人物だけあって、人よりも貪欲で傲慢なところがないとやっていけないのだろうとマリーは納得した。
「だが、なかなかマリーの趣味も面白そうだ。これは何だ?」
そう言ってリュウ・シエンが手にしたのは、紫色の液体の入った小瓶だった。
「ああ、それは惚れ薬ですわ。それこそ、『責任は取らないマーサの魔法と魔術道具の店』で購入したものです」
それを聞いてリュウ・シエンはカボチャ頭のままで首を傾げた。
「首が辛そうですね」
カボチャは大きいから首が辛いのではないかと、マリーは明後日の方向の心配をする。
「確かにこの頭は少し重いな……。いや、そうではなくて。この惚れ薬とやらは何のために購入したんだ? こんな物があるならばさっさと使えば良いのでは?」
確かにリュウ・シエンの言うことはもっともだった。
無駄に時間を使わずとも、惚れ薬を二人が飲んで口づけを交わせば呪いは解けるかも知れないのだ。
「それは……、私が近々使おうと思って購入したものだったので。すごく貴重な物で、今はひと瓶しかありませんし、効果は短時間しかないのです」
マリーはスッと瞳を伏せて、どこか元気のないように見えた。
リュウ・シエンはそんなマリーの様子に、何故か声を震わせながら言葉を投げかけた。
「……もしかして、既に心に決めた相手がいたのか?」
その問いに、マリーは即座に首を振って否定する。
すると、リュウ・シエンはホウッと息を吐いた。
「それならば何故? 何故惚れ薬など使う必要があるんだ?」
確かにマリーの言いたいことは良く分からない。
好きな相手がいないにも関わらず、短時間しか効果のない惚れ薬を使うと言う。
「三ヶ月後、私の大嫌いな男性が私との婚約を結ぶ為の書類を持って屋敷を訪れるのです。そこに私がサインをしなければならないのですが、どうしても生理的に受け付けられなくて。それでは書類にサインを出来そうになかったので、惚れ薬で相手のことを好きになれば苦痛なくサインができるかと思って……」
マリーはすっかり元気がなくなって、ポツリポツリと惚れ薬を使う理由を話したのだった。
「そんなことは伯爵から一言も聞いていない」
低い声でリュウ・シエンがそう呟くと、マリーは慌てて兄を庇う。
「兄はまだ知らないのです。どちらにしても、断れる縁談ではないのですから。相手は私どもの領地経営にとって大切な取引先でもあるのです。それに、幼馴染ですから気心知れているといえば知れているので。書類にサインして婚約さえ結んでしまえば、きっと私は諦めもつきますし……大丈夫です」
「でも、相手の男のことを嫌いなんだろう?」
「まあ、私はあのような放蕩者は大嫌いですね。何故婚約までしてこの領地との繋がりを持ちたいのかは分かりませんが」
それを聞いてからはカボチャ頭の顎のあたりに手をやって、リュウ・シエンは何か考えているようだった。
「それでは、その不届きな輩が来るまでの三ヶ月以内にはこの呪いが解けるようにしなければならないな。そんなおかしな輩であれば、不貞だの何だの騒いで何をするか分からないだろう」
「まあ、そうかも知れませんね」
カボチャ頭のリュウ・シエンはマリーの方へと向き直ると、至極真剣な声音で問うた。
「それでマリー、お前の好む男とはどのような男なんだ?」
あなたにおすすめの小説
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
触れられないはずの私が、ただ一人の彼にだけ心も体も許してしまいました
由香
恋愛
男性に触れられると体調を崩す令嬢リリア。
そんな彼女にとって唯一“触れられる”存在は――幼なじみの公爵令息レオンだけだった。
手を取られ、抱き寄せられ、当たり前のように触れられる日々。
それがどれほど特別なことなのか、彼女はまだ知らない。
やがて政略結婚の話が持ち上がり、“触れられない相手との結婚”か、“彼に触れられる人生”かを選ぶことに。
「お前に触れていいのは俺だけだ」
逃げ場のない独占と、甘すぎる溺愛。
これは、触れられないはずの少女が、ただ一人にだけすべてを許していく物語。
《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?
桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。
だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。
「もう!どうしてなのよ!!」
クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!?
天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?
悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。
香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。
皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。
さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。
しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。
それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
悪役令嬢と誤解され冷遇されていたのに、目覚めたら夫が豹変して求愛してくるのですが?
いりん
恋愛
初恋の人と結婚できたーー
これから幸せに2人で暮らしていける…そう思ったのに。
「私は夫としての務めを果たすつもりはない。」
「君を好きになることはない。必要以上に話し掛けないでくれ」
冷たく拒絶され、離婚届けを取り寄せた。
あと2週間で届くーーそうしたら、解放してあげよう。
ショックで熱をだし寝込むこと1週間。
目覚めると夫がなぜか豹変していて…!?
「君から話し掛けてくれないのか?」
「もう君が隣にいないのは考えられない」
無口不器用夫×優しい鈍感妻
すれ違いから始まる両片思いストーリー
悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています
かきんとう
恋愛
王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。
磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。
その中心に、私は立っていた。
――今日、この瞬間のために。
「エレノア・フォン・リーベルト嬢」
高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。
転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした
ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!?
容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。
「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」
ところが。
ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。
無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!?
でも、よく考えたら――
私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに)
お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。
これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。
じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――!
本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。
アイデア提供者:ゆう(YuFidi)
URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464