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19. カボチャ頭の理由
「我が主人、マリー嬢との関係性は順調なのですか? あれから少しばかり、マリー嬢も可愛らしいお顔を見せる時が増えましたけどね」
ラヴァンディエ伯爵家であてがわれた客室に、たくさんの資料や書類を持ち込んで業務にあたるリュウ・シエンにリー・イーヌオが狐のような顔をニヤリと歪ませて尋ねた。
「リー・イーヌオ、お前も仕事をしろ」
「主人、そうは言ってもそこにあるのは貴方のすべき仕事ばかりで、私の仕事は貴方の代理でそれらを持ってサインを貰ってくるだけですから」
「くそっ……」
そう悪態をつく主人に、リー・イーヌオはニコニコと微笑むだけだった。
そして、思い出したかのように細い目をしっかりと見開いて手を叩いて言った。
「ああ、そうだ。もう近々ですねぇ、ハロウィン。あのアルバン・レ・ガルシアとかいう若造と、苛烈な悪役令嬢サラ・ド・プラドネルがどんな顔をするのか楽しみですねぇ。私なんて、想像して今からゾクゾクしますよ」
「リー・イーヌオ、お前は本当に悪趣味だ。他人の不幸がなによりも快感だなんて実に気持ち悪いな」
リュウ・シエンは書類に走らせていたペンを置いて、怪訝そうに従者を見やった。
リー・イーヌオは恍惚とした表情で、ハロウィンの日に起こるであろうことを想像しているようだ。
「だって主人、元はと言えば貴方が始めた喜劇ではないですか。一目惚れした相手を自分のモノにする為にに、自らカボチャとなって近づくなど。普通ならば躊躇しますよ? だってカボチャですよ?」
「五月蝿い。カボチャになったのはさすがに想定外だった。フランクはそこまで詳しく説明しなかったからな」
あの店の老婆は、リュウ・シエンとフランク、それにマリーと、それぞれの客にうまいこと金を落とさせたのだ。
リュウ・シエンには『情報』を、フランクには『マリーへのお土産と称したアイテム』を、マリーには『わら人形』を。
――元々、数多くの商談のために訪れたこの国で一番の大きな商談となったのがこの国の木材を使った家具の輸入だった。
リュウ・シエンの祖国では、今この国で作られた家具が人気で、より多くの品を求められているのだ。
その商談の場で出会った、燃えたつような赤い髪と神秘的に輝く紫色の目を持つ不思議な貴族がフランク・ド・ラヴァンディエだった。
不自然な厚みのレンズを嵌め込んだ眼鏡で隠した表情と、とぼけた態度は多くの人と接してきたリュウ・シエンには作り物だとすぐに分かった。
案の定、話してみれば聡明で興味深い人物だったのだ。
何故そのようなことをするのかと聞いてみれば、『世界一可愛い可愛い妹が、僕がこんな男だと心配して優しくしてくれるから』だと言う。
リュウ・シエンはその妹がどんな人物なのか気にはなっていたが、そのうち忙しさでそのことは忘れていた。
しかし、ある時招待された貴族の夜会でフランクと同じ色味を持つ令嬢を見かけたのだった。
色とりどりのドレスを纏う令嬢たちの中で、真っ黒なドレスを身につけたその令嬢は目を引いた。
自らを招待した貴族に問えば、『あれは変人で魔女令嬢と呼ばれているラヴァンディエ伯爵令嬢』だと言う。
その時リュウ・シエンはマリーに、それまで感じたことのない溢れるような切ない感情を抱いたのだった。
目を逸らせずに、じっと見つめてしまう。
だが、簡単に近づくこともできない。
数々の商談をモノにしてきたリュウ・シエンが、何がなんでも手に入れたいと思ったモノは、この国では魔女令嬢と呼ばれる神秘的な女性だった。
「俺は一目惚れなど本当に馬鹿らしいと思って来たが。確かに今まで扱った商品に対しての一目惚れと言えることは多くあったのだから、その対象が人間だとしてもおかしくはない話だ」
そう言って、やり手の商人であるリュウ・シエンはひとまずマリーの兄であるフランクにそれを告げたのだった。
そしてフランクにマリーの人となりや趣味、好きなもの、贔屓の店などを訪ねた。
そしていかにも商人らしいリュウ・シエンは、自らそれらの店を回って情報収集に励んだのだ。
もちろん、一番贔屓にしているという『責任は取らないマーサの魔法と魔術道具の店』にも立ち寄って店番の老婆にもマリーのことを事細かに尋ねた。
知れば知るほどマリーは神秘的で、リュウ・シエンは惹かれていったのであった。
そのうち、何度もリュウ・シエンがマリーへの気持ちを訴えるものだからそこまで言うならばとフランクも機会を与えることにした。
「たとえ醜い相手だとしても、真実の愛があれば恋に落ちると本で読んだのです。妹が贔屓にしている店で姿を醜く変えるアイテムがあったので買ってきました。リュウ・シエン殿、貴方がこれを使ってまで妹のことを手に入れたいと言うのであれば僕は貴方を応援しましょう」
どんな姿になるかは教えられなかったが、リュウ・シエンは迷わずそれを使った。
今まで懸命に集めた情報によると、マリーは困った人を捨て置けない性格で、しかも呪いや変わった物の類には興味があるのだ。
これをきっかけに接触を試みようと、変に奥手なリュウ・シエンはこの回りくどいやり方でマリーに近づくことにしたのだった。
その結果があのカボチャ頭である。
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