28 / 31
28. 背中のむず痒くなる二人
ラヴァンディエ伯爵邸に戻ったマリーは、時間も遅かった為にエマではない侍女に湯浴みを手伝ってもらい就寝した。
そして翌朝、マリーが目覚めた時に現れたエマに思いっきり抱きついて驚かれたのであった。
「お嬢様、どうなさったんですか?」
「エマ、私の本当の家族になってくれるのね!」
「……フランク様からお聞きになったのですね。申し訳ありません」
抱きしめられたままで、エマはマリーに頭を下げた。
「どうして謝るの?」
「お嬢様にずっと秘密にしていたからです」
「いいのよ。それより、これからのことが大切よ。婚礼のドレスや色々選ばないといけないものはたくさんあるのだから! 忙しくなるわね!」
エマはクスッと笑ってマリーを抱きしめ返した。
「お嬢様、これからもよろしくお願いいたします」
「こちらこそ……あ! でも、エマがお兄様と婚姻を結んだら私の専属の侍女はエマじゃなくなるから……どうなるのかしら……?」
「それまでには、お嬢様もリュウ・シエン様とあの方の祖国へ帰るでしょう?」
マリーは気付いてしまった。
そういえば、リュウ・シエンの口からは直接今後どうするのか聞いていないのだ。
「どうかしら? そういえば何も聞いていなかったわ」
「きっと、またリュウ・シエン様の方からお話がありますよ」
「そうよね……」
マリーの着替えを終えたエマは、もう一度マリーをギュッと抱きしめてから囁いた。
「お嬢様、フランク様とのことを認めてくださってありがとうございます」
「エマ、お兄様のことよろしくね」
こうして、二人は本当の姉妹のようにして笑い合った。
食堂に着くと、今日は初めて人の顔をしたリュウ・シエンが席に着いていた。
そこで初めてマリーはリュウ・シエンが飲食をするところを見たのである。
「なんか、不思議な感じだな。久しぶりの食事は……」
「まあ、カボチャ頭では飲食はできませんでしたからね」
リュウ・シエンとリー・イーヌオが話しているのを、マリーは俯いて食器に目を落とすしか出来ないでいた。
美形のリュウ・シエンの方を見ることが気恥ずかしくて、目を合わせることができないのだ。
そんな妹に気付いたフランクは、リー・イーヌオと話すリュウ・シエンに声を掛けた。
「リュウ・シエン殿。もう呪いも解けた訳ですし、良ければマリーとお出かけになっては?」
「それは良い考えですね! ね、主人? 折角ですからマリー嬢にオススメの場所など連れて行って貰ってはいかがですか?」
リー・イーヌオの援護もあり、リュウ・シエンは赤らめた顔を何とかマリーの方へと向けて声を掛ける。
「マリー、すまないが頼めるか?」
「はい……」
リュウ・シエンからの誘いに、マリーは真っ赤な顔をして震える声で返事をした。
二人ともが顔を真っ赤にしているのを見て、フランクとリー・イーヌオは背中の方がむず痒くなる気がするのであった。
朝食を終えたあと、マリーはすぐに外出用の支度を整えた。
外出用の動きやすい黒のワンピースに、黒のケープを羽織った。
「ねえ、エマ。おかしくないかしら?」
「いつも通り美しいお嬢様ですよ」
「でも、どこにお連れしたら良いか分からないわ」
「それなら、どんなところに行きたいかをリュウ・シエン様に問えば良いのです」
マリーは終始頬を染めて、落ち着かない様子であった。
「マリーお嬢様、リュウ・シエン様は玄関でお待ちです。お支度は整いましたか?」
扉の向こうから、家令のジョルジュの声が聞こえてくると、マリーは更に慌てた様子で胸に手をやった。
「エマ、やっぱり無理だわ。リュウ・シエン様は素敵過ぎるんだもの。だって見たでしょう? あんなスッキリとして美しい顔立ちをなさっているのよ。目を見て話すなんて無理だわ」
「お嬢様、それでは恋人骸骨に勇気をもらいましょう。お嬢様が積極的になれますように」
エマに連れられて、魔女部屋に入ったマリーは恋人骸骨に触れてお願いをした。
「どうか、リュウ・シエン様ときちんとお話ができますように。あっ! それと……、リュウ・シエン様がきちんと私たちのこれからのことをお話してくださいますように……」
「さあ、もう大丈夫ですよ! 何てったって恋人骸骨のおまじないですからね! 行きましょう」
エマに引きずられるようにして、マリーは玄関ホールへと向かった。
玄関ホールには、やはりいつもの異国の衣装を身につけてリー・イーヌオと話すリュウ・シエンがいて、その姿を見るだけでマリーは手に汗をかくほどに緊張するのであった。
「あっ、ほら我が主人。マリー嬢ですよ。頑張って行ってきてくださいね」
「……分かっている」
リュウ・シエンとリー・イーヌオのボソボソと話す声がマリーの耳にも届くと、緊張は絶頂に達していたマリーは思わずエマの後ろに隠れようとした。
しかしエマはそれを許さず、ニッコリと笑ってマリーをリュウ・シエンに引き渡した。
「お嬢様をよろしくお願いいたします」
あなたにおすすめの小説
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
触れられないはずの私が、ただ一人の彼にだけ心も体も許してしまいました
由香
恋愛
男性に触れられると体調を崩す令嬢リリア。
そんな彼女にとって唯一“触れられる”存在は――幼なじみの公爵令息レオンだけだった。
手を取られ、抱き寄せられ、当たり前のように触れられる日々。
それがどれほど特別なことなのか、彼女はまだ知らない。
やがて政略結婚の話が持ち上がり、“触れられない相手との結婚”か、“彼に触れられる人生”かを選ぶことに。
「お前に触れていいのは俺だけだ」
逃げ場のない独占と、甘すぎる溺愛。
これは、触れられないはずの少女が、ただ一人にだけすべてを許していく物語。
《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?
桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。
だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。
「もう!どうしてなのよ!!」
クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!?
天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?
悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。
香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。
皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。
さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。
しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。
それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
悪役令嬢と誤解され冷遇されていたのに、目覚めたら夫が豹変して求愛してくるのですが?
いりん
恋愛
初恋の人と結婚できたーー
これから幸せに2人で暮らしていける…そう思ったのに。
「私は夫としての務めを果たすつもりはない。」
「君を好きになることはない。必要以上に話し掛けないでくれ」
冷たく拒絶され、離婚届けを取り寄せた。
あと2週間で届くーーそうしたら、解放してあげよう。
ショックで熱をだし寝込むこと1週間。
目覚めると夫がなぜか豹変していて…!?
「君から話し掛けてくれないのか?」
「もう君が隣にいないのは考えられない」
無口不器用夫×優しい鈍感妻
すれ違いから始まる両片思いストーリー
悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています
かきんとう
恋愛
王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。
磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。
その中心に、私は立っていた。
――今日、この瞬間のために。
「エレノア・フォン・リーベルト嬢」
高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。
転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした
ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!?
容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。
「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」
ところが。
ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。
無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!?
でも、よく考えたら――
私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに)
お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。
これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。
じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――!
本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。
アイデア提供者:ゆう(YuFidi)
URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464