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本編

夜会でドッキリ!

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ついに夜会の日がやってきましたわ。

わたくしのエスコートはお兄様に頼みましたわ。

「レティシアのエスコートなんて光栄だよ」

とニコニコ顔でしたけれど、次期公爵として地位もわたくしよりももっと神々しい美しさと頭脳を持つお兄様は令嬢方との社交はあまりお好きではなくて、わたくしの相手ということで、それを避けることができるのも機嫌がいい理由の一つだと思うんですけれどね。

もちろん、サーティス様とサロモン様のエスコートは丁寧にお断りしましたわ。いくらフィリップ様がマリアンヌ様を選ばれたとはいえ、婚約者候補であるわたくしが他の殿方と出席するのはいいことではありませんから。

もし、アリステア様に誘われたら承諾してしまったかもしれませんけれど、それはなく、予定通りお兄様をお相手に夜会に向かいましたわ。

わたくしは公爵家の令嬢としてデビュタントは済ませましたけれど、やはりこういう公式の場は気を抜く事は出来ませんのよ?

色々見られていますし、ブラッドストーンの家名に恥じない振る舞いも要求されますから。夜会は女の戦場ですから、優雅に振舞いながら、様々なトラップを避けないといけないのです。

「レティシア、この夜会の中でやはり君が一番綺麗だよ」

「ありがとうございます。お兄様」

わたくしのドレスは銀の髪と緑の瞳に合うキラキラと輝く刺繍が入った白いドレス。刺繍のせいで銀のドレスにしか見えないけれど。お兄様は空色の髪と空色の瞳が映える白の夜会服。一見すれば結婚式のカップルみたいにみえるけれど、兄妹だから別に恥ずかしい気持ちは起こりませんでしたわ。

今夜の夜会の話題の中心はフィリップ様にエスコートされているマリアンヌ様。フィリップ様の瞳の色のドレスとフィリップ様が送られたであろう宝石を身につけていて、輝いておられましたわ。

さすが乙女ゲームのヒロインという輝きと可愛らしさを披露して王様たちにもいい印象を与えたみたい。ファーストダンスは王太子とそのパートナーが踊るから、みんなの注目の的でしたわ。

「あれが、噂の男爵令嬢か?」

マリアンヌ様を眺めながらお兄様がいう。

「ええ。マリアンヌ様ですわ」

「顔立ちは可愛らしいけれど…私がフィリップ様なら一番にレティシアを選ぶよ」

「ありがとうございます。お兄様。でもわたくしフィリップ様の隣に立つ未来が見えませんの。分け隔てなく接してくださるけれど、わたくしが特別好かれてるとは思いませんわ」

「政略結婚でも多少の恋の種は必要、という意味かな?」

「好かれた相手に嫁ぐ事も幸せだと思いますけれど、わたくしの気持ちも大切にしたいと思いますのよ?お兄様だって公爵家のためとはいえ全然惹かれない相手より少しでも惹かれる相手の方がよろしいでしょう?」

「確かにそうだが…」

「わたくしはフィリップ様の幸せを祈るだけですわ」

「我が妹を熱い目で見つめているサロモンと隣国の王太子はお前の目に留まらないのか?」

「あの方達には迷惑しておりますの。このあいだはっきり断ったのですが、諦めてくれません」

次期公爵である美貌の青年が王宮の夜会の広間を見渡すと彼の妹に心を奪われている男たちはたくさんいるのが確認できた。

妹の視線の先を辿ると公爵家のアリステアがいる。アリステアは紫紺の軍服姿でエスコートする相手もなく、単独で出席しているようだ。銀髪に映える軍服姿に周囲の令嬢たちは色めき立っているようだが、それを気にする様子もなく、周りの貴族の男たちと話し込んでいる。

「レティシア…」

溜息をついて美しい妹がアリステアを見つめている。時には言葉より行動が全てを語るものだ。

「その美しい顔と頭脳に落ちない男はいないと思うけれどね?自信を持って?」

「そんな甘い言葉をいってくれるのはお兄様だけですわ」

マリアンヌとフィリップのダンスが終わって、他の貴族たちがダンスの輪に加わり始める。

「私は価値がわかるからね。そろそろ私たちもダンスの輪に加わることにしよう」

「ええ。わたくし、今夜は気分が優れませんの。お兄様以外と踊るつもりはありませんわ」

「では、そのようにしよう。今夜は私がついているから、安心して?適当に社交を終わらせて屋敷に帰ろう」

「ありがとう。お兄様」

当初の予定ではお兄様とのダンスの後適当に挨拶回りをして夜会を出る筈だったのにお兄様にご執心の他国の宰相のご令嬢とその宰相に足止めされてしまい、わたくしはバルコニーで夜風に当たることにいたしましたの。

「レティシア」

振り返るとアリステア様の神々しい軍服姿が飛び込んできた。


「アリステア様」

かっこよすぎて赤くなっているわたくしを見つめるアイスブルーの瞳が微笑みかける。


「こんなところにいては風邪をひくよ?」


「あまり社交的な気分になれなくて…」

アリステア様はわたくしの言葉にラブラブな雰囲気のフィリップ様とマリアンヌ様を見やるとすまなそうな顔で、わたくしを慰めようとしてくださいましたわ。


「やはり殿下はマリアンヌに心を奪われているようだね」

「ええ…」

「君は…」

アリステア様はなにかいいかけようとして口を噤んだ。

「いや。少し外の空気を吸いに庭園にでも行こうか?」

「はい」

アリステア様の言葉に元気を取り戻したわたくしは王宮の王妃様が育てるバラがたくさんある庭園に向かいました。

好きな方と行く場所はどこでもロマンチックに思えるものですけれど、庭園は格別でしたわ。

白いバラと紫紺の軍服が映えてもうアリステア様の美形度は200%ぐらい割増でしたわね。

ドレス姿の私が転ばないようにエスコートしてくださった手袋から指のぬくもりが伝わることわありませんでしたけれど。

わたくしたちは無言で庭園を散策しましたわ。

「レティー危ない!」

アリステア様のことを見つめすぎて、転びそうになったわたくしを支えてくれたアリステア様の綺麗なお顔が目の前にありましたわ。

綺麗。やはり美形はアップでも美形ね。

アリステア様の逞しい胸に抱きしめられる形で見上げる感じになってしまったのですけれど。

わたくし的にはこのまま口付けもOKだったのですけれど、

「すっ、すまない」

「いえ、助けてくださってありがとうございます」

という会話の後は何も起こらず、無事にお兄様のもとに送り届けられて夜会の夜は終わりましたわ。

夜会から屋敷に向かう馬車の中でお兄様に心配されましたけれど、本当に何もなかったのでその言葉を繰り返す度気分が沈みましたわ。

ロマンス小説でもああいうシチュエーションではキスするのが定番ではないのかしら?

わたくしはこの乙女ゲーの世界でヒロインでないからそんな美味しい展開にならないのかしら?

それともキスしたくなるぐらいの魅力がない?

その夜はいろんなことをグルグル考えて、すぐに寝付くことはできませんでした。

とりあえずこの夜会が終わってさらにマリアンヌ様の存在が社交界に広まったことはいうまでもございませんわ。


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