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有翼種の羽
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大人しくベッドで寝ていた俺は迎えにきてくれた教授にこんこんと説教され、全身から怒りと不機嫌を放つエンセイに詰られたものの、体がまだ辛いだろうともう1日ハオランさんの家で過ごすことになった。
のだが。
「あの、なんでエンセイまで……?」
「監視だよ監視。僕のハオランに変なことしたらただじゃおかないんだからね」
「変なことって……」
「何」
「いえ……」
2人ともナンヨウヘ帰ったのだと思ったらエンセイは俺を連れ帰るまでここにいるらしい。ベッドの横に仁王立ちしたエンセイは戸惑う俺をギロリと睨む。
怪我人の俺に何ができると言うのか。そう思うけどエンセイの目に宿る敵意に何も言えずに口を噤む。
「あんたさ、自分が僕らの信用に足ると思ってんの?こんなことしでかしておいてさ」
「おっしゃる通りでございます」
「だいたいあんたは」
「エンセイ、もういいだろ。あんまり心労をかけると治るものも治らなくなる」
再び始まる説教の予感に身を縮こめているとハオランさんが助け舟を出してくれた。困ったように形の良い眉を下げて前のめりになったエンセイの肩を引いている。
「ハオランさん~!」
「甘えんなバカ!」
「すみません」
天の助けと名前を呼ぶと、エンセイにピシャリと叱り飛ばされて思わずぴっと背筋が伸びた。が、体のだるさのせいでまたくたりと背が曲がる。
その姿を見てエンセイは大きくため息を吐いた。
「そうだね。熱が下がらないからっていつまでもここに居座られても困るし、今日はこのくらいで勘弁してあげるよ」
「ありがとうございます……」
しゅんとする俺の態度にエンセイは腕を組んで鼻を鳴らす。今日のところはどうにか許してくれたみたいだ。助かった。
エンセイの追求から逃れた後、タイミングを見計らったハオランさんが新しい熱冷ましの薬湯を渡してくれて俺はありがたくそれを受け取った。
「君の事故を聞いて思ったんだが」
「はい」
飲み終わるまで一緒にいてくれるのか、ソファに腰かけたハオランさんが新たな話題を口にする。
「森の中の道は街の道ほど舗装されてないし、遺跡の周りは特にだ。有翼種以外滅多に近寄らないから気付かなかったが、舗装の必要があるのかもしれないな」
「そう?でもまあ、急ぎじゃないよ。羽のない人間なんてここにはいないんだし」
ハオランさんの隣に座ったエンセイがしたり顔で俺を見ている。羽のない人間ここにいますがー?くそ、当てこすりだ。
でもいい機会だしこの流れで気になること聞いてみようかな。教えてくれるかはわからないけど。
「あの、有翼種の人たちって基本的に移動は飛行なんですか?ナンヨウの中央では歩いてる人ばかりでしたよね」
「それは距離と状況によるな」
「近い距離なら歩くよ。ちょっと距離があったり足場が悪いと飛ぶね」
以前から気になっていた有翼種の飛行事情を聞いてみると実にあっさりと答えてくれる。エンセイも普通に教えてくれるあたりやっぱり何だかんだ真面目なんだろうな。
「へぇ~。あ、じゃあここから領都へ行くなら飛ぶんですか?」
そっか、飛んで移動するのかと頷いて再び疑問を口にする。すると今度はエンセイが心底バカにするような顔で俺を見てきた。
え、いやなんだよその顔。
「馬車か馬に決まってるじゃん。あんたここから領都まで走って移動すんの?」
「はぁ?無理だよそんなの」
「じゃあわかるでしょ。飛ぶのも結構疲れるんだよ」
「あ、なるほど……」
そりゃそうか。自分の体を浮かせるんだから長時間は疲れるよな。エンセイの顔の意味を理解してちょっと恥ずかしい気持ちになった。
でも、知らなくてもおかしくないんだからそんな顔することないだろう。鳥と同じくらい飛べるのかなって思うじゃないか。
「人間種は我々の羽を便利な道具とでも思いがちだが、羽は我々の体の一部。動かせばそれだけ疲労は溜まる。それに、翼ある種とはいえ我々は人類。本物の鳥類ほどの性能はないから長時間の飛行は難しいんだよ」
「そういうことだよ、無知な人間」
補足してくれたハオランさん。その横でまだ馬鹿にした顔でエンセイがせせら笑っている。腹立つなあの顔。
しかしそれなら新たな疑問が湧くわけで。俺は2人の手首から生える数枚の羽を見つめた。
「じゃあ腕の羽は?」
「これはただの飾りだな」
「飾り?じゃあ特に意味はないんですか?」
「まあそうだな。何かの役に立つとか、絶対に必要なわけじゃない」
そう言ってハオランさんは手首の飾り羽を撫でる。彼の飾り羽は瑠璃色と白が混ざっていて、何故か左右でバランスが違う。右は瑠璃色の長い羽が3枚と白の短い羽が7、8枚重なっているが、左は白の短い羽しか生えていないのだ。
「でもこれが長く均等なほど美人だって言われてるから、美の評価基準ではあるよね」
そう言うエンセイの飾り羽は先端にかけて黄色から白にグラデーションしていく長い羽が2枚と短い羽が3枚で左右バランスよく揃ってる。こういうのがきれいな飾り羽っていうのかな。俺から見ればどっちもきれいだと思うけど、有翼種にとっての美の基準を聞けるって貴重な体験だ。
のだが。
「あの、なんでエンセイまで……?」
「監視だよ監視。僕のハオランに変なことしたらただじゃおかないんだからね」
「変なことって……」
「何」
「いえ……」
2人ともナンヨウヘ帰ったのだと思ったらエンセイは俺を連れ帰るまでここにいるらしい。ベッドの横に仁王立ちしたエンセイは戸惑う俺をギロリと睨む。
怪我人の俺に何ができると言うのか。そう思うけどエンセイの目に宿る敵意に何も言えずに口を噤む。
「あんたさ、自分が僕らの信用に足ると思ってんの?こんなことしでかしておいてさ」
「おっしゃる通りでございます」
「だいたいあんたは」
「エンセイ、もういいだろ。あんまり心労をかけると治るものも治らなくなる」
再び始まる説教の予感に身を縮こめているとハオランさんが助け舟を出してくれた。困ったように形の良い眉を下げて前のめりになったエンセイの肩を引いている。
「ハオランさん~!」
「甘えんなバカ!」
「すみません」
天の助けと名前を呼ぶと、エンセイにピシャリと叱り飛ばされて思わずぴっと背筋が伸びた。が、体のだるさのせいでまたくたりと背が曲がる。
その姿を見てエンセイは大きくため息を吐いた。
「そうだね。熱が下がらないからっていつまでもここに居座られても困るし、今日はこのくらいで勘弁してあげるよ」
「ありがとうございます……」
しゅんとする俺の態度にエンセイは腕を組んで鼻を鳴らす。今日のところはどうにか許してくれたみたいだ。助かった。
エンセイの追求から逃れた後、タイミングを見計らったハオランさんが新しい熱冷ましの薬湯を渡してくれて俺はありがたくそれを受け取った。
「君の事故を聞いて思ったんだが」
「はい」
飲み終わるまで一緒にいてくれるのか、ソファに腰かけたハオランさんが新たな話題を口にする。
「森の中の道は街の道ほど舗装されてないし、遺跡の周りは特にだ。有翼種以外滅多に近寄らないから気付かなかったが、舗装の必要があるのかもしれないな」
「そう?でもまあ、急ぎじゃないよ。羽のない人間なんてここにはいないんだし」
ハオランさんの隣に座ったエンセイがしたり顔で俺を見ている。羽のない人間ここにいますがー?くそ、当てこすりだ。
でもいい機会だしこの流れで気になること聞いてみようかな。教えてくれるかはわからないけど。
「あの、有翼種の人たちって基本的に移動は飛行なんですか?ナンヨウの中央では歩いてる人ばかりでしたよね」
「それは距離と状況によるな」
「近い距離なら歩くよ。ちょっと距離があったり足場が悪いと飛ぶね」
以前から気になっていた有翼種の飛行事情を聞いてみると実にあっさりと答えてくれる。エンセイも普通に教えてくれるあたりやっぱり何だかんだ真面目なんだろうな。
「へぇ~。あ、じゃあここから領都へ行くなら飛ぶんですか?」
そっか、飛んで移動するのかと頷いて再び疑問を口にする。すると今度はエンセイが心底バカにするような顔で俺を見てきた。
え、いやなんだよその顔。
「馬車か馬に決まってるじゃん。あんたここから領都まで走って移動すんの?」
「はぁ?無理だよそんなの」
「じゃあわかるでしょ。飛ぶのも結構疲れるんだよ」
「あ、なるほど……」
そりゃそうか。自分の体を浮かせるんだから長時間は疲れるよな。エンセイの顔の意味を理解してちょっと恥ずかしい気持ちになった。
でも、知らなくてもおかしくないんだからそんな顔することないだろう。鳥と同じくらい飛べるのかなって思うじゃないか。
「人間種は我々の羽を便利な道具とでも思いがちだが、羽は我々の体の一部。動かせばそれだけ疲労は溜まる。それに、翼ある種とはいえ我々は人類。本物の鳥類ほどの性能はないから長時間の飛行は難しいんだよ」
「そういうことだよ、無知な人間」
補足してくれたハオランさん。その横でまだ馬鹿にした顔でエンセイがせせら笑っている。腹立つなあの顔。
しかしそれなら新たな疑問が湧くわけで。俺は2人の手首から生える数枚の羽を見つめた。
「じゃあ腕の羽は?」
「これはただの飾りだな」
「飾り?じゃあ特に意味はないんですか?」
「まあそうだな。何かの役に立つとか、絶対に必要なわけじゃない」
そう言ってハオランさんは手首の飾り羽を撫でる。彼の飾り羽は瑠璃色と白が混ざっていて、何故か左右でバランスが違う。右は瑠璃色の長い羽が3枚と白の短い羽が7、8枚重なっているが、左は白の短い羽しか生えていないのだ。
「でもこれが長く均等なほど美人だって言われてるから、美の評価基準ではあるよね」
そう言うエンセイの飾り羽は先端にかけて黄色から白にグラデーションしていく長い羽が2枚と短い羽が3枚で左右バランスよく揃ってる。こういうのがきれいな飾り羽っていうのかな。俺から見ればどっちもきれいだと思うけど、有翼種にとっての美の基準を聞けるって貴重な体験だ。
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