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スエル・ドバードの酒場
#7.アグロのプライド
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「きさま! 自分の立場を分かっているのか?!」
1人のアルダ・ラズムの兵士がセシリアの挑発的な発言に声を荒げて胸元の襟を掴んで揺すると、
セシリアはその反動で両手に持っていた5つのジョッキが乗ったトレイを落としてしまった。
そのジョッキの割れる大きな音がアルダ・ラズムの兵士の1人の荒くれた声によって静まり返った店内いっぱいに響き渡る。
兵士の屈強な手に捕まれた襟の部分の先にある喉にその手が何度もぶつかり、そこから石の様な固さを感じてもセシリアは、何事もなかったかの様な表情でその兵士の男を見続けていた。
「おい! 止さないかアグロ...他の者に迷惑だろ?」
「いやしかし! ズバル様..この女の態度は、許せるものではありませぬ!
この程度の身分の女のクセに..」
「気にするなアグロ...なあセシリアよ..
少し見ない内に...随分と気性が荒くなったんじゃないか?」
そのズバルの声にセシリアは視線をアグロからズバルに移してから床に目を遣ると、わざとらしい声を上げる。
「......あーあぁ...せっかくのお詫び印として用意させていただいたラム酒でしたが...
どうやらお気に召さないようでしたわね?」
「安酒など要らん!」
その場にいるアルダ・ラズムの兵士たちに素っ気ない態度で返すセシリアにアグロは叫ぶ。
カウンター席でそれを見ていた店主ニズルにセシリアは、
(悪いけど後でここの床をホウキで掃いてくれない?)
と目で合図を送る。
それに対してニズルはカウンター席で..
「...あの女..余計なことを...」
..と1人こぼした。
セシリアは、テーブル席で座るズバルの横に
他の兵士を押し退けるようにしてずけずけと座ると、
手前にあった飲み残した酒の入ったジョッキを手に取りそれを一気に飲み干した。
「くーっ! マズイ酒だ......で、ズバル様..今日は何故ここへ?」
「悪いのか?」
急な質問をするセシリアにズバルは笑みを浮かべ答える。
「いいえ...最近は余り見かけなかったので..
ずいぶんと久しぶりだなぁぁ...と?」
「久しぶりにお前の体が恋しくなったのさ?
いやか?」
「別に...私の仕事がそれですから...」
少し考える様にしてから..セシリア目を見開いて答える。
「ありがたく思え..お前の様な女が...
この我々アルダ・ラズムの兵士に抱かれるのだからな...
ましてや団長たる御方から相手にしてもらえるのだから...感謝するんだな?」
酒の入ったジョッキを口元から離すとアグロは、あざ笑う様にしてセシリアに言葉を吐いた。
「...ありがたく思えだと?」
「そうだ? お前みたいな娼婦を、このアルダ・ラズム兵団を指揮する団長から直に相手にしてもらえるのだから..
感謝しろと言っているのだ...分からんか? ふん...ゲス女め!」
このアグロの態度にセシリアの目つきが変わる。
「ゲス女だと? ...そのゲス女の娼婦に、
わざわざ遠い所から会いに来て..毎晩毎晩ヨダレを垂らしながら相手にしてもらってるのは何処のどいつだい? あん?
..あんまりつけ上がったこと言ってんじゃないよ?
このアルダ・ラズムの兵士ども!」
テーブルを叩きその席に座るアルダ・ラズムに声を浴びせ睨みつけるセシリア。
「...この野郎? ...言わせておけば...
ここでその首を叩き切ってやる!!」
完全に頭に血の上ったアグロは、腰に携えた剣の鞘に手を掛けると、それを見た周りで飲んでいた客たちは、一斉にその場から距離を置いた。
「さあ立て!!」
「...」
血走った目で叫ぶアグロに平静とした態度で座るセシリアは、手に持ったジョッキに残された酒の瓶を注ぎ黙って飲み干す。
「貴様だけは、絶対に許さん...この帝国アルダ・ラズムの兵士に逆らおうとは..なんたる無礼だ!」
「...」
「さあ..早く立て!」
「止さんかアグロ! 少し落ち着け...周りで飲んでいる客人たちも怯えているではないか...さあ、その鞘から手を離すんだ...」
アグロに落ち着きを求めたズバルは直ぐにセシリアの方に目を向けて問い始める。
「..それとセシリアよ...いったい何があったんだ?
随分と気性が荒れてるではないか? 前に会った時は、そんな風ではなかったぞ?」
驚いた表情を見せるズバルにセシリアは空になったジョッキをテーブルに置き、下を向いた。
「...ふふふ...毎晩毎晩...荒くれた男どもの性処理として扱われ...裸になった私はその都度...ケツを何度も何度も叩かれ..終わったと思えば..今度は顔を打たれ..殴られりゃ..自然とそうなりますわ...違いますか..ズバル様?」
静まり返ったその場でセシリアは軽く微笑でから..
「...どうなんだい! アンタらは!?」
押し殺していた感情を、一気に吐いて、引き攣らせた表情で立ち上がる。
その瞬間、そこに張り詰めた糸が出来てセシリアに誰一人として、苦虫を噛み潰した様な顔をするだけで声を上げる者はいなかった。
「...くっ!」
「......おい? もういい...お前たちは、もう帰れ
...俺は明日の早朝には戻る」
ズバルがその空気を割る様にアグロを含むアルダ・ラズムの兵士に声を掛ける。
「......分かりました。
我々は先に帰らさせていただきます..」
鼻息荒く表情を赤らめたアグロは声を落ち着かせてそう言うとセシリアがアグロに顔を向け、さっきまでの態度が嘘だったかのような声を出す。
「あら? もう帰られるのですか? あら残念...」
「黙れ...貴様......但し..次に会う時は覚悟しておくんだな?」
興奮を抑え平静を装うアグロの忠告にセシリアは挑発的な態度を返す。
「ええ...覚悟しておきますわ?
...果たして裸になった私のお尻は何回打たれる事やら? 50回? それとも100回以上? 相手の数は...4人以上かしら? ..ふん」
「....泣いて土下座などするなよ? ..行くぞ」
そう言うとアグロはズバルを残し酒場を出、他のアルダ・ラズム兵士と共に馬に跨りその場を後にした。
その時のアグロの表情には憎しみが滲み出ていた。
まるで、傷つけられた者が抱く感情の一つをその場で見つけたように...
───
「...度を越したなセシリア?」
「...何がさ?」
笑みを見せズバルがセシリアに忠告するも不貞腐れた表情を見せるセシリア。
「..まあいい...今日の所は大目に見よう。何せ明日の朝には我々は、イルモニカ政府の護衛の大仕事が待っているのでな?
さあ、セシリア..行くぞ」
ズバルは、登り階段に目を遣りセシリアに3階の寝室へと上がるように命じると先に歩を進める。
ちょうど、そのズバルの前に急ぎ足でニズルがやって来て頭を深く下げセシリアの無礼を謝罪した。
「ズ..ズバル様...この野蛮な女の行為..
ど..どうか...お許し下さいませ!」
「..構わん」
片手を上げて反応するズバルに深く下げていた頭を上げ二ズルは更に口を開く。
「...どうか、この野蛮な女を..
お..お好きなように痛ぶって下さいませ!」
そのニズルの言葉にはズバルは黙って階段へ上がり、セシリアは笑みを浮かべながら自分を睨みつけるニズルの顔に左目で瞬きをした。
だが、そんなセシリアの内心は怯えていた。
この世界から最早、古き考えとされる帝国主義のアルダ・ラズムにあの様な態度をとった事を...
母の墓参りを終えて戻って来たばかりのセシリア・ルージュは、酷く怯えていたのだ。
1人のアルダ・ラズムの兵士がセシリアの挑発的な発言に声を荒げて胸元の襟を掴んで揺すると、
セシリアはその反動で両手に持っていた5つのジョッキが乗ったトレイを落としてしまった。
そのジョッキの割れる大きな音がアルダ・ラズムの兵士の1人の荒くれた声によって静まり返った店内いっぱいに響き渡る。
兵士の屈強な手に捕まれた襟の部分の先にある喉にその手が何度もぶつかり、そこから石の様な固さを感じてもセシリアは、何事もなかったかの様な表情でその兵士の男を見続けていた。
「おい! 止さないかアグロ...他の者に迷惑だろ?」
「いやしかし! ズバル様..この女の態度は、許せるものではありませぬ!
この程度の身分の女のクセに..」
「気にするなアグロ...なあセシリアよ..
少し見ない内に...随分と気性が荒くなったんじゃないか?」
そのズバルの声にセシリアは視線をアグロからズバルに移してから床に目を遣ると、わざとらしい声を上げる。
「......あーあぁ...せっかくのお詫び印として用意させていただいたラム酒でしたが...
どうやらお気に召さないようでしたわね?」
「安酒など要らん!」
その場にいるアルダ・ラズムの兵士たちに素っ気ない態度で返すセシリアにアグロは叫ぶ。
カウンター席でそれを見ていた店主ニズルにセシリアは、
(悪いけど後でここの床をホウキで掃いてくれない?)
と目で合図を送る。
それに対してニズルはカウンター席で..
「...あの女..余計なことを...」
..と1人こぼした。
セシリアは、テーブル席で座るズバルの横に
他の兵士を押し退けるようにしてずけずけと座ると、
手前にあった飲み残した酒の入ったジョッキを手に取りそれを一気に飲み干した。
「くーっ! マズイ酒だ......で、ズバル様..今日は何故ここへ?」
「悪いのか?」
急な質問をするセシリアにズバルは笑みを浮かべ答える。
「いいえ...最近は余り見かけなかったので..
ずいぶんと久しぶりだなぁぁ...と?」
「久しぶりにお前の体が恋しくなったのさ?
いやか?」
「別に...私の仕事がそれですから...」
少し考える様にしてから..セシリア目を見開いて答える。
「ありがたく思え..お前の様な女が...
この我々アルダ・ラズムの兵士に抱かれるのだからな...
ましてや団長たる御方から相手にしてもらえるのだから...感謝するんだな?」
酒の入ったジョッキを口元から離すとアグロは、あざ笑う様にしてセシリアに言葉を吐いた。
「...ありがたく思えだと?」
「そうだ? お前みたいな娼婦を、このアルダ・ラズム兵団を指揮する団長から直に相手にしてもらえるのだから..
感謝しろと言っているのだ...分からんか? ふん...ゲス女め!」
このアグロの態度にセシリアの目つきが変わる。
「ゲス女だと? ...そのゲス女の娼婦に、
わざわざ遠い所から会いに来て..毎晩毎晩ヨダレを垂らしながら相手にしてもらってるのは何処のどいつだい? あん?
..あんまりつけ上がったこと言ってんじゃないよ?
このアルダ・ラズムの兵士ども!」
テーブルを叩きその席に座るアルダ・ラズムに声を浴びせ睨みつけるセシリア。
「...この野郎? ...言わせておけば...
ここでその首を叩き切ってやる!!」
完全に頭に血の上ったアグロは、腰に携えた剣の鞘に手を掛けると、それを見た周りで飲んでいた客たちは、一斉にその場から距離を置いた。
「さあ立て!!」
「...」
血走った目で叫ぶアグロに平静とした態度で座るセシリアは、手に持ったジョッキに残された酒の瓶を注ぎ黙って飲み干す。
「貴様だけは、絶対に許さん...この帝国アルダ・ラズムの兵士に逆らおうとは..なんたる無礼だ!」
「...」
「さあ..早く立て!」
「止さんかアグロ! 少し落ち着け...周りで飲んでいる客人たちも怯えているではないか...さあ、その鞘から手を離すんだ...」
アグロに落ち着きを求めたズバルは直ぐにセシリアの方に目を向けて問い始める。
「..それとセシリアよ...いったい何があったんだ?
随分と気性が荒れてるではないか? 前に会った時は、そんな風ではなかったぞ?」
驚いた表情を見せるズバルにセシリアは空になったジョッキをテーブルに置き、下を向いた。
「...ふふふ...毎晩毎晩...荒くれた男どもの性処理として扱われ...裸になった私はその都度...ケツを何度も何度も叩かれ..終わったと思えば..今度は顔を打たれ..殴られりゃ..自然とそうなりますわ...違いますか..ズバル様?」
静まり返ったその場でセシリアは軽く微笑でから..
「...どうなんだい! アンタらは!?」
押し殺していた感情を、一気に吐いて、引き攣らせた表情で立ち上がる。
その瞬間、そこに張り詰めた糸が出来てセシリアに誰一人として、苦虫を噛み潰した様な顔をするだけで声を上げる者はいなかった。
「...くっ!」
「......おい? もういい...お前たちは、もう帰れ
...俺は明日の早朝には戻る」
ズバルがその空気を割る様にアグロを含むアルダ・ラズムの兵士に声を掛ける。
「......分かりました。
我々は先に帰らさせていただきます..」
鼻息荒く表情を赤らめたアグロは声を落ち着かせてそう言うとセシリアがアグロに顔を向け、さっきまでの態度が嘘だったかのような声を出す。
「あら? もう帰られるのですか? あら残念...」
「黙れ...貴様......但し..次に会う時は覚悟しておくんだな?」
興奮を抑え平静を装うアグロの忠告にセシリアは挑発的な態度を返す。
「ええ...覚悟しておきますわ?
...果たして裸になった私のお尻は何回打たれる事やら? 50回? それとも100回以上? 相手の数は...4人以上かしら? ..ふん」
「....泣いて土下座などするなよ? ..行くぞ」
そう言うとアグロはズバルを残し酒場を出、他のアルダ・ラズム兵士と共に馬に跨りその場を後にした。
その時のアグロの表情には憎しみが滲み出ていた。
まるで、傷つけられた者が抱く感情の一つをその場で見つけたように...
───
「...度を越したなセシリア?」
「...何がさ?」
笑みを見せズバルがセシリアに忠告するも不貞腐れた表情を見せるセシリア。
「..まあいい...今日の所は大目に見よう。何せ明日の朝には我々は、イルモニカ政府の護衛の大仕事が待っているのでな?
さあ、セシリア..行くぞ」
ズバルは、登り階段に目を遣りセシリアに3階の寝室へと上がるように命じると先に歩を進める。
ちょうど、そのズバルの前に急ぎ足でニズルがやって来て頭を深く下げセシリアの無礼を謝罪した。
「ズ..ズバル様...この野蛮な女の行為..
ど..どうか...お許し下さいませ!」
「..構わん」
片手を上げて反応するズバルに深く下げていた頭を上げ二ズルは更に口を開く。
「...どうか、この野蛮な女を..
お..お好きなように痛ぶって下さいませ!」
そのニズルの言葉にはズバルは黙って階段へ上がり、セシリアは笑みを浮かべながら自分を睨みつけるニズルの顔に左目で瞬きをした。
だが、そんなセシリアの内心は怯えていた。
この世界から最早、古き考えとされる帝国主義のアルダ・ラズムにあの様な態度をとった事を...
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