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29日目①

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.。*゚+.*.。 29日目  ゚+..。*゚+


「お言葉ですが、お父様。女性一人で子供を作ることなどできませんわ」
「……………………」
「男女で作るもの。お父様の子種と、お母さまの畑が必要となりますわ。あら?もしかして、子作りなど、すでに遠い昔のお話ということで、お忘れになってしまったのですか?」
「……………………」
「それならそれで致し方ありません。ただ、さっきから聞いておりましたら、まるで出産した母様だけに非があるように聞こえてなりません」
「……………………」
「はっきり申しますわ。お父様、娘を………いえ、私を産んだと、お母様だけを責めるのはお門違い。タンポポではあるまいし、種を出した後は、人任せ。というのは納得いきませんわ」
「……………………」
「胸に手を当てて良ぉーく思い出して見てくださいませ。お肉は胸焼けする程に召し上がってから励みましたか?3人目だからと言って手を抜いてはおりませんでしか?」
「……………………」
「責めるならどうかお父様の子種も一緒に責めてくださいませ」
「…………………っ」

 ──────パンッ。



 いきなり軽い下ネタから始まってしまい、ごめんあそばせ。

 そして、パンッという音は私がビンタをされた音。ちなみに犯人は父上だ。え?暴行罪?傷害罪?現行犯逮捕?

 …………ふっ、我が家の法であり秩序である父上がそうしたのだから、これは教育的指導ということで罪にはならない案件。 

 まぁ、一歩外に出て、父上以外の人にそうされたのなら、個人的意見に基づいて、間違いなく私刑と言う名の処刑をするけれど。

 と、いうことはさておき、ここで何故に下ネタから、ビンタ!?という疑問を持っている人もいると思う。

 まぁ…………年頃の娘が、父親に向かって下ネタぶっこんだら、怒らない方がおかしい。『照れる父』というのも一部いるそうだけれど、それはそれ。うちはうち、よそはよそ。ということで。

 さて、話が脱線してしまったけれど、このビンタの経緯を簡潔明瞭に説明すると、17年間一度も従順だった娘が口答えをしたから、だ。

 ただ私も藪から棒に、父上に向かって一方的に下ネタをぶちかましたわけではない。

 これは夫婦喧嘩(?)の仲裁という名の、今までの意趣返しをさせていただいただけなのだ。





 事の起こりは、昨日から始まっていた。
 
 デリックはご丁寧にもレオナードが失踪したことを、父上にチク……いや、密告していたのだ。本当に余計なことをしてくれたものだ。

 そして予想通りというか、予想以上に、我が家は大変騒々しい状況になってしまった。

 兄二人は決闘だと騒ぎだす始末。居ない相手にどうやって決闘するのかという素朴な疑問が生まれたけれど、とりあえず無視することにした。

 けれど、父上に関してはさすがに無視することはできず、翌日…………というか、今日、再び執務室と言う名の裁判所に連行されるハメになったのだ。母様も同伴で。

 といっても、レオナードは既に行方不明。それこそ居ない相手に対して文句を言ったところでどうにもなることではない。…………そう、本題は今後の私の身の振り方についてだった。

 そして私は当初の予定通りこう言った。

『異国の地で、この心の傷を癒したい。っていうか、癒します』と。

 もちろんこれは、移住するための言い訳。行ってしまえばこっちのもん精神で、ペロリと嘘を吐いたのだ。

 もちろん、父上は激怒した。けれど『お前の好きにすればいい』と言ったのは他ならぬ父。激怒をしたけれど、私に対して実力行使はできるはずもない。

 そんなこんなで、父上の怒りの矛先は何故か、母様に向かってしまったのだ。そして、あろうことかネチネチネチネチ『娘など何故産んだのだ』と責める始末。

 母様はお得意の戦法でのらりくらりと受け流してはいたけれど、横で聞いた私が堪忍袋の緒が切れるのは、自然の摂理であった。

 ────という事情で、私は父上からビンタをお見舞いされてしまったのだ。

 そして、この出来事は僅か数分前の事。現在進行形で、父上は私の眼前に居たりする。

「……………………」

 父上は呆然と自分の手を見つめている。けれど、すぐに私の方に視線を向けた。けれど、すぐに逸らす。

 …………娘の首が吹っ飛んでしまったのか確認したかったのだろうか。

 安心して欲しい。兄二人ほどではないが、私だってそこそこ鍛えている。そしてその体にくっついている首はそうやすやすとは飛ばされない。

 という憎まれ口は心の中で呟くことにして、さて、私はどうすれば良いのだろう。ベタに『お父様の馬鹿っ』的な言葉を吐いて、嘘泣きして部屋に戻れば良いのだろうか。それとも、謝罪の言葉でも口にした方が良いのか?したくないけど。

 といった感じで、退出するタイミングを計っていたけれど────。

「裏山に行ってくるっ」

 捨て台詞にしては、随分パンチの弱い台詞を吐いて父上は、足音荒く部屋を出て行った。

 ただ父上が扉を閉めた途端、眩暈を覚え、よろめいてしまった。

 それが、父上が扉を閉めた反動だったのか、それともこのタイミングで地震がおこったのか、はたまた父上のビンタで私が脳震盪を起こしているのかわからない。ただ、最後の脳震盪なら、凄い時差だと思う。

「────いつかやらかすと思っていたけれど、まさかこんな時にやらかすなんて。本当に困った人ね」

 ぼんやりと脳震盪の対処法について考えていたら、少し離れた場所から母様の呆れた声が飛んできた。

 しまった、忘れていた。夫婦喧嘩というなら、当然、ここに母様だって居るのが当然だった。

「お母様…………あの…………」
「ミリア、先に部屋に戻っていなさい。本格的に腫れてしまう前に、さっさと冷やしましょう」
「…………はい」

 事の成り行きを一番近くで見ていたのに母様は、恐ろしいほど冷静にそんなことを言う。そしてそれは少々的外れではあるが、内容は至極真っ当なこと。というわけで、私は頷くほかなかった。


 でも────ビンタされたら、すぐに冷やすのが一番。

 そんな当たり前の事、母様から言われてから、やっと思い出すことができた。

 ああ、そっか。そういえば、私、父上に手を挙げられたの、産まれて初めてだった。
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