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12日目②

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 無理矢理レオナードに手を引かれ、腰に手を回され、私達は踊り始めた。

 まずは試しに1曲だけ。何となく手ごたえを感じて続けて2曲踊って…………気付けば、6曲踊り続けていた。

 ちなみに私もレオナードも息切れ一つしていない。けれど、お互い思うところがあったのだろう。同時に手を離した。

「レオナード………あのね私────」
「ミリア嬢、皆まで言うな。そして私から言わせてくれ。君は素晴らしい機転の持ち主だ。これなら、夜会までに間に合いそうだ」

 そう、驚くことにあれ程、苦手だったステップが体術と剣術の足運びに置き換えた途端、あっという間にマスターすることができたのだ。もはやこれは奇跡と言っても過言ではない。

 正直言って、今後の人生に役には立ちそうもないこのステップ。マスターしたところで、何の特にもならないけれど、達成感と充実感は予想以上のものだった。

 けれど、満面の笑みを浮かべる私とは対照的に、レオナードの顔は浮かないものだった。 

「すまなかった」
「何が?あなたのお母様のことなら、もういいわ。私、その日のうちに決着を付けることができなかった案件は、消去して生きて行くことにしているから、気にしないで」
「素晴らしい程のポジティブ思考だな。………いや、違う。そうじゃない」
「じゃあ何よ。まさか、今現在、私の知らないところで何かしでかしたの?それなら、謝る前に腹を切って頂戴。噴水に飛び込むっていうのでもアリだけれど」 
「ちょっと、待ってくれ。君にとって切腹と噴水へのダイブは同レベルなのか!?…………って、いや違う、違うっ」

 そう言って仕切り直しをするようにレオナードは小さく咳ばらいをして、再び口を開いた。

「一昨日のこと、本当に申し訳なかった。ミリア嬢、実は…………私は……………」
「もう良いのよ。あなたって本当に律義ね。さっきも言ったでしょ?翌日に持ち越してしまった案件は、もうこの世に存在しないことって決めているんだから。それに…………私こそ、一昨日は助かったわ、レオナード、改めて、あの時はありがとう。私だったらあんなに上手く誤魔化すことはできなくて、きっとアルバードを殴って気絶させる手段しか思い浮かばなかったわ」

 人の表情は鏡のようなものだ。レオナードが素直になれば、私も何故だか素直な気持ちを伝えることができる。

 でも、レオナードはまだ言い足りないのだろうか。その顔はちょっと不満そうだった。もしかして、私が彼の言葉を遮ったことを不快に思ったのだろうか。

「ねえレオナード、怒ってる?」
「…………いいや、別に私は怒っていない」
「あっそ」

 本当に怒っていなければ、『別に』なんていう言葉は使わない。でも、そこは敢えて触れない。なぜなら、アルバードが休憩の為のお茶を運んできてくれたから。


 簡易的なテーブルセット。といっても我が家より遥かに高級なもの。それに所狭しと並べられた本日のスウィーツは、運動の後ということもあって、口当たりの良いものばかり。

 一昨日の果実ジュレに、飾り切りされたフルーツ。それからヨーグルトのタルト。お茶はミントティーと東洋のジャスミン茶の二種類用意されている。

 それらをあっという間に並べたアルバードは慇懃に一礼して、すぐに部屋を去っていった。

 執事服に身を包んだ隙というものが一切無い初老の男性の背中を見送った後、私はレオナードにおもむろに問いかけた。

「それにしてもあなたの執事、何者なの?まったく隙が無いんだけど。一度手合せ願いたいわ」
「何者って言われても、さあ………………どうだろう」
「どうだろうって………………あなた、興味ないの?」
「いや違う。アルバードは私の父の代から執事を務めてくれているのだが、少々訳アリなんだ」
「というと?」
「ある日突然この屋敷に来て、出自を問わなければ、誠心誠意尽くすから雇ってくれっていったそうだ。だから、私も父も、誰一人アルバードの過去を知らないのだ」

 思わず、手にしていたフルーツを落としそうになってしまった。だって、それは────。

「ミステリアスで素敵っ」
 
 ということだったから。思わず弾んだ声を出した私に、レオナードは訝しげな視線を私に向けた。
 
「………………君のときめきのツボは良くわからないが、彼について語るのはここまでにしておいて欲しい」
「もちろんよ。謎は謎のままでいるのがロマンってものよね。私だって無粋なことは嫌いだわ」

 手にしていたフルーツをぱくりと口に放り込んでから、私はレオナードに向けてにっこりと笑みを浮かべた。

「……………なるほど、ね」

 そう言ったレオナードの声音は少し何かを含んでいた。

 けれど私は、それに気付くことができず、ただ目の前のスウィーツを頬張ることで頭が一杯だった。
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