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1章: 刃なき剣

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「実は数日前から、村の畑が荒らされましてね」
 宿の主人はレムダの前に料理を並べながら語る。
「それは、獣ですか? それとも盗賊?」
「それが・・・・・・どちらとも言えないのですよ。獣と言えば獣。盗賊と言えば盗賊の類でしょうか」
「どういう意味ですか?」
「姿はね、本当に可愛らしいお嬢さんなのですよ。少し変わった外見ではありますが。最初はとぼとぼ歩いて村を訪れたのだけど、誰が尋ねても何も言わない。ただ腹を空かせているのか、村の畑の作物を無断で取ったのを見つけたとかで、村人が叱って追い返そうとしたんです。そしたら・・・・・・」
「そしたら?」
「・・・・・・恥ずかしながら、返り討ちに遭いました」
「・・・・・・えっと、姿はかわいらしいお嬢さん、なのでしたよね?」
「はい」
「ちなみにそれを追い返そうとしたのは、あの外で見回っている人たちですか?」
「はい・・・・・・俄かには信じがたいのですが、とにかくすばしっこくて、同い年の子供では考えられないほど、力が強いんです。おまけにその一件で怒らせたらしくて、最近はことあるごとに畑に忍び込んでは荒らしまわるんです。村の者も、腕に自信のありそうな男達に武器を持たせて追い返そうとしますが、中々手強くて・・・・・・」
「それで、こんな物騒な景色になったわけですか」
 ここで宿の主人はひょんなことを尋ねる。
「・・・・・・失礼ですが、お客様は武勇の腕に自信が?」
「どうしてそう思いますか?」
「いえ、こちらにお越しになった時、剣を佩かれていたものですから」
「ああ、あの剣ですか・・・・・・あれはただの飾りですよ」
「飾り?」
「でも、その子のことは少し気になります。明日、村の人達から詳しい話を聞きたいのですが、よろしいですか?」
「本当ですか? それはもう、願ってもないことで」
 あくる朝、レムダは村人達に連れられて畑に出た。
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