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3章: 威厳なき名家

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 配属実習――それは士官学校の学生が辺境守備軍に2週間ほど仮配属して領土防衛の基礎を学ぶいわゆる社会見学のことだった。
 帝国軍にしてみれば、東西南北に領土を広げる国境線は延々と広がっており、守備隊にはたとえ未熟と言えども、士官学校の学生の戦力を借りたいのが本音だろう。
 配属先は原則、各自の出身地に近い国境拠点が選ばれるが、レムダやフェリスのように内地出身の学生の場合、個人の意向も加味して配属が決定される仕組みになっている。
「まだ、出していないけど?」
「では私と、アトロネーゼ方面に行きませんか?」
「いやっ! それは・・・・・・」
「私とご一緒するのが、嫌なのですか?」
「べ、別に・・・・・・」
 それもあるが、何より目的地に問題があった。
 アトロネーゼ地方とは帝国の北側に位置する辺境地域だった。
 凍土の広がる荒地だけに人口も少なく、農林水産鉱物含めて主だった産業もない。
 故に帝国軍も大きな防衛戦力を置かず、かといって周辺国も無駄に帝国の領土を浸潤するくらいならと、領土を狙った攻撃は仕掛けてこなかった。
 ただ必ずしも安寧な地域ではなく、どこの国からも見放されたその地域では治安機関の不在をよいことに野盗が貧民を更に搾取するという暴挙が日常的に行われているという。
 言ってみれば問題だらけの土地である。
 自信家のフェリスのことだから、そんな問題地域でも課題をやってのけるという自信があるのだろう。
 ただレムダにしてみれば、全くの巻き添えに他ならない。
「では私と一緒に、来てくれますね?」
 皮手袋に嵌められた指がレムダの顎をしゃくる。
 いやが応にも首を縦に振らせるためだ。
 断れば、その首ごと持っていかれるかもしれない。
 そう思わせる凄みが、この麗人にはあった。
「はい・・・・・・行きます」
「よろしい。では早急に申請書を提出なさい。早くしないと、他の学生に先を越されますよ」
 誰も行きたがらない土地だ。
 他に希望者など出るはずもない。
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