ハニードロップ

白川ゆい

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Chapter.7

それだけ

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 利根さんに会社まで送ってもらって、ビルに入る。周りの人がどんな反応をするかとても怖かったけれど、特にいつもと変わりはないようだった。私は博也くんのファンから刺されたり、あの下着姿の写真を見た人に何かヒソヒソ言われることを恐れていたから少し拍子抜けだった。顔が写っていないからまだバレていないだけかもしれないけど。
 外は一人で出歩かないことを利根さんと博也くんと相談して決めた。でも会社には行かないといけないし、そうじゃないと生きていけないし、何とかホテルから出た。

「おはよう」
「えっ、あ、おはよう」
「どうしてそんなに挙動不審なの」

 同僚はそう言って笑った。あれれ、やっぱりいつも通り……?
 意外とみんな知らないのかな。まだ週刊誌が出てないから?みんなネット見ないのかな?
 それから会う同僚はやっぱりみんないつも通りだった。

「おう、有名人」

 だけど、昼休みにいつもみたいに私のところにやってきた吉村のせいで私は事実を知ることになる。吉村はコンビニで買ってきたパンやおにぎりを広げながらニヤニヤと私を見ている。

「有名人じゃないし」
「有名人だろ。お前が来る前みんな三木村さんとお前の写真見てたぞ」
「え……」

 手からポロっとおにぎりが落ちた。もったいねー!と苛ついている吉村の肩をガッと掴む。

「み、みんな知ってるってこと?」
「うん」
「私、刺されたりしない?博也くんのファンに」
「さあ、こんだけ社員数多いから変な奴もいるかもしれないけど。ま、お前のことちゃんと知ってる奴らはみんな、お前が居心地悪くならないようにいつも通り振る舞おうって言ってたな」

 私は、周りの人に恵まれている。高校生の時にいじめられていた時だって、いじめグループ以外の友達は普通に接してくれた。もちろん、いじめられていることを誰にも悟らせなかったのはあるけれど。

「う……」
「あ、お前泣くなよ?!三木村さんに俺が怒られるんだからな?!」

 うるさいな、ちょっとはみんなの優しさに浸らせろよ。
 私はこの仕事が好きだし、会社も好きだ。なのにこんなことになって、自分は悪くないとはいえ騒ぎを起こしてしまって、もしかしたら会社を辞めなければいけないかもしれないと思っていた。やっぱり辞めたくない。私は、この会社も仕事も人も好きだ。

「あ、そういえば望月さんが呼んでた」
「え、それ早く言わないといけないことじゃないの」
「忘れてた」

 っとにこいつは……!!
 おにぎりを急いで頬張って開発室を出た。何だかさっきまでと会社の景色が違う気がする。いや、見え方が違う?私は胸を張って歩いた。多分外ではできないけど。信頼できる人たちの前でなら、平気。だって私は悪いことをしたわけじゃないんだから。好きな人と一緒にいたい、ただそれだけ。
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