宿屋の魔法使い
埃っぽい窓から差し込む夕陽が、宿屋の薄汚れた床を赤く染めていた。 五歳のエリスは、小さな手で雑巾を絞り、カウンターを磨き上げた。 その小さな体からは想像もつかない力強さで、埃はみるみるうちに消えていった。 宿屋「月の満ち欠け」は、辺境の町、アストリアにある、決して立派とは言えない宿屋だった。 しかし、エリスが働き始めてから、客足は少しずつ、確実に増えていた。
エリスは、三歳の時に前世の記憶、いや、前々世の記憶まで蘇った。 貴族の令嬢として生きた前世と、辺境の村で暮らした前々世。 二つの異なる人生を経験したことで、彼女は並外れた知性と、驚くべき適応能力を身につけていた。 そして五歳になった時、彼女は誰も聞いたことのない魔法スキル、「創造魔法」を授かった。 それは、食材の欠点を補い、料理を想像をはるかに超える美味しさに変える魔法だった。
エリスの料理は、アストリアに旋風を巻き起こした。 粗末な材料でさえ、彼女の魔法にかかれば、王侯貴族をも魅了する絶品に変貌した。 「月の満ち欠け」の料理は、評判となり、宿屋はいつも満員だった。 エリスの料理を目当てに、遠くから客が訪...
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