【SF×BL】碧の世界線 

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第二章 N+捜査官

36. 容疑者

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「違う、俺は犯人じゃない」

こういう時は抵抗をしないに限る。樹は両手を頭の脇まで上げて抵抗の意思がないことを示すと、背後からもう一人、鋭い眼差しが登場した。

「如月さん!?」
「樹君?」
「知り合いですか?」
「うちのチームの刑事です」

男が胡散臭そうに樹を見てから如月を見た。未だ戦闘態勢のままだ。男は樹を警戒しながら室内に入ってくると倒れている男の首に軽く触れた。

「その刑事がなぜここに?」
「ちょっと気になることがあって話を聞こうと思って……。そしたら叫び声が聞こえて部屋に突入したんです」

「アンタが殺したんじゃないの?」
「違います!」
「じゃあ、アンタが来た時はもう死んでた?」

「いえ、俺が来た時にはまだかろうじて息がありました」

「何か言ってた?」
「何も。なんとか目が開いている状態で、話せる状態ではなかったです」

二人の話を遮る様に「とりあえず」と如月が言った。

「所轄の警察に連絡して協力を仰ぎます。樹君は警視庁に戻って詳しく事情聴取。いいですね?」


 警視庁に着くと火災発生の通報によりBチームが駆けていくところだった。邪魔にならない様に廊下の端に寄り如月の後ろをついていくと、取調室の前を通過した。

「聴取じゃないんですか?」

「聴取ですけど、今日はちょっと違う部屋です。これから行く部屋は防音が完璧なのですよ。どんなに良く聞こえる耳を持っていてもここからの音は拾えません」

如月が向かったのは室長室の隣の部屋で、樹も初めて入る部屋だ。特別豪華でもなく、ただのよくある会議室のようだ。「少しの間、二人で待っていて貰えますか?」と如月が去ると、部屋には樹と男の二人だけになった。

 身長は175センチ、後ろで一本にきっちりと結った黒髪、細身の体に黒スーツ、シャツの一番上のボタンまでもちゃんと留めてあり几帳面そうだ。一重瞼の塩顔、一重にしては大きな目がじっと樹を見ている。

「あの、俺、藤丘樹といいます。警視庁捜査一課所属です」
自分からの自己紹介は、それであなたは何者ですか? の質問に等しい。

間壁匡まかべたすく、公安だ」

公安!?

「公安がなぜあの男を調べているんですか? しかも如月さんと一緒ってどういう」

樹が声を大きくした時、部屋のドアが開いた。現れたのは加賀美と田口、そして如月だ。加賀美は「樹君、お久しぶりですねぇ」と街で偶然出会ったかのように指をひらひらさせた。

「加賀美さんがどうして?」

「如月君から森山の家で樹君に会ったと聞きましてね。偶然ってことはないでしょうし、そろそろ例の事件についての情報を共有しておいた方が良いと思ったのです。それで樹君はどういういきさつであそこに?」

加賀美の言葉は樹が優愛を殺した犯人を追って掴んだものが正しかったことを意味する。ようやく欲しかった情報を得ることが出来るのだ。樹は手に汗を握りながら、どうして森山にたどり着いたのかを話した。

「なるほど、リンゴですか。まさかあっちの世界の食べ物だったとはね。それは我々ではたどり着けなかった視点です」

「ちょっと待って下さい。あっちの世界ってどういうことですか!?」

立ち上がった間壁に「あー……」と気まずそうな表情をしたのは田口だ。加賀美は余裕の表情で「それは田口さんに聞いて下さい」と言った。

その後の間壁のため息は部屋全体が沈んでしまうかと思う程重いもので、吐きだした息を大きく吸い込んだ間壁は一気にまくしたてた。

「この世界の秩序と平和を守る役割のあなたたちが率先して法を破るとは何事ですか!」

「いや、でも、他の世界から人を連れてきてはいけないっていう法律はない……、だろ?」

「あたりまえでしょうっ! こんな事態は想定外です! そもそもそれ以前を阻止しようとしているのですから。他の世界と干渉することが無いようにと我々が動いているというのに!」

 田口がやりこめられている様子に満足したようにほほ笑んでいた加賀美だったが、間壁が「だいだい加賀美さんも加賀美さんですよ!」とい出したのを聞いて、ヒクっと頬を引きつらせた。

「まぁまぁ、怒るのはこの事件が解決してからってことで、今は事件について話しましょう」

「加賀美さんたちはどうして森山って人にたどり着いたんですか? 俺、それが知りたいです」

「それは俺が説明しよう」

 話が本題に移ったことで息を吹き返した田口は樹がこちらの世界にきてからどんな捜査をしていたかを話し始めた。

「樹がこっちの世界に来た頃、時空マシーンが動くところには大きな時空の乱れが生じるっていう話をしたよな? この半年間、俺たちはその時空の乱れを探っていた。二度程、高濃度の時空の乱れを感知し、この世界と樹の世界を繋ぐワームホールも発見した。だが、それは通り過ぎた後の残骸のようなもので、樹の時とは比べ物にならないくらい小さなものだった」

田口が話していると、傍にいたロボットが動き勝手にお茶を用意して田口に渡した。田口の体内水分量の減少を感知したのだろう。

「早い話、後手後手に回っていたんだが、時空の乱れが出現した場所を調べていて気が付いた。ワームホールの出現を感じるほどの大きな時空の乱れがあった土地は全て神崎グループの所有物だった」

「神崎グループって神崎祐一郎のあのグループですか?」

「そうだ。一か所、二か所ならまだしも、全部が神崎グループの持ち物だってそんな偶然があるわけがないだろ。そこで我々は神崎グループがワームホール作っている犯人、もしくは犯人に繋がりがあるとして捜査していたんだが、祐一郎に接触する人物でちょっと毛色の変わっている人物がいてな。それが森山だった」

「神崎祐一郎と森山が……」

「あぁ、もっとも神崎グループは児童福祉施設の経営にも力を注いでいる。森山は捨て子で、児童福祉施設で育ったから、神崎と森山が会うことがおかしいとは言い難いが」


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