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番外編1 Holy Night Healing
オーナーシェフと一彰の関係
しおりを挟む最初に見たのは、初めて二人でその店の前を通った時。そして、二度目に二人で訪れた時、一彰の強い希望で千紗子はこのワンピースを試着することとなった。
試着してみると着心地がとてもよく、体にフィットしながら美しいラインを描くそのワンピースは、オフホワイト一色で、全体を柔らかな印象に仕上げていた。
七分丈の袖は二の腕から緩やかに膨らんで可愛らしく、浅いブイカットの胸元、ウエストの高い位置で一旦切り返されたスカートは、ふわりと広がってひざ下に落ち、そこから出た足の部分を細く見せてくれている。
これまでの地味で無難な自分の服とは全く違う、可愛さと上品さを兼ね備えた装いに、千紗子はただただ驚くばかりだった。
試着した千紗子は、恐る恐るフィッティングルームの扉を開けると、待っていた一彰の前におずおずと自分の姿を披露した。
「可愛い。今すぐ食べたい」
あの時と同じ台詞が、今、吐息と共に耳にかかる。
千紗子の顔に熱が集まり、心臓が忙しなく脈を打ちはじめた。
「あ、あの…ここは、」
「おい、一彰。ここでは俺の料理を先に食え」
言いかけた千紗子の言葉の上から、被さるように降って聞こえた見知らぬ声に、千紗子の体がピクリと固まった。
三人の会話を聞いている千紗子には、分からないことだらけだ。
なんとなく会話に入って行けず、少しだけ身の置き場がないけれど、そこは敢えて割り込んでいくところではないような気がして、千紗子は黙っていた。
「ちぃ、実はオーナーシェフの柾さんは、俺の母方の従兄なんだ」
「え!従兄さんなんですか?」
「そう、母の兄の息子、という関係で、俺にとっては兄のような存在なんだ」
「一彰が子どもの頃、よくうちに来て遊んでやったよな」
「良いことも悪いこともぜんぶ柾兄さんから教わったような気がするけどな」
「はははっ。」
二人の会話を目を千紗子は白黒させながら聞いている。
「実咲ちゃんは、二人の長女なんだ。今は高校一年生なんだっけ?」
「ああ、もう十六になるな。あと十二の長男と十歳の次女もいる」
一彰は柾から千紗子に視線を移して、口を開く。
「この店は日祝は予約を取っていないんだ。だけど、俺が無理を言って開けて貰ったんだよ」
「そうだったんですね…ありがとうございます」
目の前の天道夫妻に向かって、千紗子が頭を下げと、恵実が慌てて手を振りながら口を開く。
「いいのいいの。普段からお客様からご予約を頂いた時だけ開けている、気ままな店だもの。今日だって、一彰君が家で食べる食事のついででいいって言ってくれたから、申し訳ないけど我が家のクリスマスメニューとほとんど同じものなのよ。だから気を遣わないで、親戚の家に遊びに来たと思ってゆっくりしていってね」
「「ありがとうございます」」
千紗子と一彰のお礼の言葉が重なり、一瞬の静けさの後、四人で笑い合った。
そう言って奥の部屋からゆっくりとこちらにやって来たのは、白いコックコートの下に黒いギャルソンエプロンを着けた、背の高い男性だった。
「よ、一彰。久しぶりだな」
「柾兄さん…久しぶり」
一彰との遣り取りから、この店のオーナーシェフで、恵実の夫であると気付いた千紗子は、慌てて立ち上がり頭を下げた。
「はじめまして。木ノ下千紗子です」
「ああ、いらっしゃい。俺は柾。ここの店主だ」
目の前に立つ柾は、口元に弧を描く。
三十代半ばくらいに見える彼は、百七十センチ後半はあると思われる高身長で、何かスポーツをやっていたと思われるほど肩がガッチリとしている。きちんと整えられたひげが、彼のワイルドな風貌を強調している。
「それにしても一彰。久々に顔を出したと思ったら、イブに女性を連れてとは」
「柾兄さん、今回は無理を言ってしまってごめん。本当は休みだったんだろ?」
「いや、まあ、な。一彰の頼みなら聞かないわけにはいかないだろ?」
「そうよ。うちのことなら大丈夫。実咲(みさき)が自分たちでクリスマスパーティの準備をするって、張り切ってるから」
一彰と柾の会話に、後からやってきた恵実が加わる。
「めぐの言う通りだ。俺たちのことは気にするな」
「ありがとう、恵実さん、柾兄さん。それと実咲ちゃんたちにも礼を言っておいて」
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