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番外編1 Holy Night Healing
美味しい料理とワインと
しおりを挟む「おまたせいたしました。メインのローストチキンです。こちらは取り分け式になってますので、仲良くお二人でどうぞ」
二人の前にあるの皿が空になったのを見計らって、恵実が料理を持ってやってきた。
大皿がテーブルの真ん中に置かれる。
「うわぁ~!」
思わず声を上げてその大きなローストチキンを見つめた。
とりわけ用のナイフや新しいカトラリーを並べると、恵実は一旦厨房に戻ってから新しいワインを持って戻ってきた。
白ワイングラスをそれぞれの前に置くと、慣れた手つきでワインを注いで行く。
「お料理もとっても美味しいですし、ワインもお料理と合うものばかりで、ついつい飲みすぎそうです」
恵実を見上げて千紗子がそう言うと、ワインを注ぎ終わった恵実が瞳を細めて微笑む。
「ありがとう。そう言って貰えるとソムリエ冥利に尽きるわ」
千紗子が目を開いて驚くと、一彰が横から言葉をかけてくる。
「恵実さんはソムリエールでもあるんだよ。この店を開くにあたって、彼女は柾さんをフォローする為に色々な資格をとったんだって」
「そうだったんですね」
『すごい』と尊敬のまなざしを送られた恵実は、少し照れくさそうに笑って
「そんなかっこいいもんじゃないわよ。色々と手伝ううちに自分が楽しくなって来ちゃってね。一度ハマるとどんどん穴が深くなっていくタイプなだけ。よく、やりすぎって柾にも叱られるのよ」
「うふふ」と笑ってから、恵実は厨房に戻って行った。
「こんな素敵なお店を夫婦で持つことが出来て、お料理もワインも、本当に美味しくて…私、すっかりアンソリールのファンになってしまったわ」
「そう言って貰えると俺も嬉しいよ。ここは予約制のお店だから、また来たくなったらいつでも言って。夜だけじゃなくてランチもやっているし」
「ほんとう?じゃあ、また連れてきてね、一彰さん」
「ああ、勿論だ。さ、ローストチキンを頂こう」
一彰がとりわけ用のナイフとフォークでチキンを切り分け、千紗子の皿の上に置く。
「ありがとう、一彰さん」
それから二人は他愛のない会話と料理を楽しんだ。
二人のお腹が満たされ、テーブルの上の皿が空になった時、恵実がやってきて皿を下げはじめると、すぐあとから柾もやってきて、二人の前に一人分づつに切り分けられた可愛らしいブッシュドノエルが置かれた。
「これで俺たちは一旦家に帰るから、お前たちはゆっくりして行っていいぞ。鍵は厨房の入口に置いておくから、鍵を掛けたらドアポストから投げ込んで置いてくれたらいい」
「ありがとう、柾兄さん。料理、とても美味かったよ」
「ありがとな。次はちゃんとしたフレンチを食べに来てくれよ。一彰ならいつ来てくれてもいいから」
「ああ、千紗子とまた来るよ」
二人の会話が止んだ瞬間、千紗子は思い切って柾を振り仰ぎ、口を開いた。
「あのっ、お料理もワインもとっても美味しかったです。それにお店の雰囲気も素敵で、本当に楽しかったです。また是非食べに来させてください」
千紗子の言葉に一瞬目を丸くした柾は、すぐに嬉しそうに瞳を細めた。
(あ、一彰さんに似てる……)
笑うと目じりが下がる、その目元が一彰とよく似ていることに、千紗子は今更ながらに気付き、少しの間その顔をじっと見つめてしまっていた。
「ありがとう。一彰が居なくても、いつでもおいで。君にはいつでもご馳走してあげるから」
そう言い残して、柾と恵実は、店から自宅へと戻って行った。
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