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本編
ep20_7
しおりを挟む照れ屋なギリアロがまっすぐ言葉を返してくれて、あたしはますます涙でいっぱいになって。頷く。なんども。
青空を飛びながら、あたしたちはふたりきり。ウエディングドレスはぼろぼろになっちゃったけど、あらためて誓う。
「無事でよかった……チセ、……チセっ」
ず、って、ギリアロってば鼻水すすってて。いっぱい、いっぱい震える手で抱きしめあって。
あたし、このひとがめちゃくちゃすきで。これからもずっと、ずっと一緒に生きていきたいって。
――お父さん、お母さん……安心して。
あたしは心のなかで話しかける。
やっぱりギリアロは世界一のパイロットだよ。
どこにいたって、こうやって迎えに来てくれる。お父さんの愛した空を自由に飛んで――。
そうして、もう一度ギリアロとキスしようとしたところで――、
《あー……ごほん、ごほん。いい雰囲気のところ悪いけど》
「!」
「!!」
かたまった。
あーーー……そうだった。
思いっきり、通信つながっていたんだ。
《チセ、助かったんだね?》
「……ええと、はい」
めっちゃくちゃ冷静なエドアルド殿下の声が聞こえてくる。
ギリアロとちゅっちゅしているうちになぜか風が凪いでたっぽいから、そのあたり……晶精が気を利かせてくれた気がしないでもないのだけれど。
……殿下の声がものすごーく冷静に聞こえていたたまれない。
ギリアロもばつが悪そうな顔をして、ぽりぽりと頭をかいてるしね。
「ヴィリオたちをのせた船は今、ゆっくり高度を下げています。このまま墜落しますね。おそらく湖の西側に。先に破壊しますか?」
《たのむ。集落に落とさないでくれ》
「はい」
《ティーガたちは?》
「緊急待避しました。――いまごろ湖に浮いていますよ。座標、西95-03-366、回収願います」
《わかった》
エドアルド殿下は通信先でそう言って、ふううと大きく息を吐くのが聞こえた。
《――ティーガを止められなかったのは、こちらの手落ちだ。チセには悪いことをした》
「あー……はい」
大丈夫ではなかったからね。気にしないよ、とかは簡単に言えない。
せっかくの結婚式だったのに。めちゃくちゃ怖かったし、……できればもう、こういうのはいらない。ギリアロはめちゃくちゃかっこよかったけど……。
《パレードは中止だが――できれば、君が無事だったことはみなに知らせてやってほしい。もちろん、ノウトが助け出したってこともね》
「…………それ、ぜんぜん中止じゃないじゃないですか」
《ははは。まあ、適当に王都の上空を飛行して戻っておいで。――ほんとうに、無事でよかった》
そういってエドアルド殿下は笑った。
めちゃくちゃ狭い操縦席のなか、ギリアロはあたしの肩を寄せる。
わざわざ通信を切って。
「これなら、いいだろう?」
そういってもう一度、あたしにキスをした。
そうしてあたしたちは王都へ戻る。
実はあのあと、エドアルド殿下の命令どおり、ギリアロってばヴィリオの飛行機を撃ち落としてたんだけど表情がいきいきしてたなあ……。
よっぽどヴィリオのこと腹に据えかねてたっぽい。
で、方向転換して王都の方へ。
高度を落として、第一区から第四区全部の空をめぐる。
ひとは豆粒みたいに見えたけど、みんながめちゃくちゃ手をふってくれて。
もうすでにドレスはぐしゃぐしゃだから、無理に畳んであたしは操縦席に座ってたんだけどさ、つい立ち上がってこたえたくなった。手錠がまだとけなかったからね。手も振ることができないもん。
でも、そのたびにギリアロに叱られた。危ないからちゃんと座ってろ!! だって。
ギリアロ、碧い眼をもう隠そうとしてなくて、ゴーグルはずしてて――ちょっと泣きそうな顔してた。
ごめんなさい、って、しゅんとして、あたしはすわったまま地上に声をかける。
大丈夫ー!?
って声が聞こえてきたから、あたしも大声でこたえる。
「大丈夫――っ! 旦那さまが助けてくれた――――っ!!」
正直に言っただけなのに、ギリアロってばちょっと恥ずかしそうにそっぽ向いちゃった。でも、止められはしなかったよ。
しかたないなって苦笑い浮かべて、王都をぐるっと一周――そして、大時計城へ向かう。
この日の空は青空で、いつも以上に晶精がきらきら輝いていた。
大時計城の大時計は、ずっと虹色に輝いている。あたしたちを祝福してくれているみたいに。
――あとで知ったことなんだけど、この虹色の光はあたしたち以外にも見えていたみたい。
それでよけいに街の人たちはわきたっていたんだね。
この日を境に、王都の晶精エネルギーはすっごく強くなったらしいんだけど、それはまた後のはなし。
そしてね――――?
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