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番外編

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 …………夜になっちゃった。

 ええ。お城で、しっかりふて寝してたらね。

 夜に! なっちゃった!! 嘘でしょ!?

 いや、面会謝絶モードだから? むしろ、謝絶手間ありませんラッキー! ってことかもしれないけどね!?
 ギリアロからの連絡一本……ない。……え……あたしそんな、ギリアロに呆れられてる? 愛想尽かされた? 心配すらされてないの!?

 自分で勝手に家を出ておいて、追いかけてもらえなくてスネてるのはあたし、チセです……。でもさあ、追いかけてくれるって思うじゃん!?
 わーん! ほんっとあたし、めんどくさい女!

 いやまあ、ここのところゆっくりする時間とれてなかったから、わりとしっかりお昼寝できちゃったんだけどね。
 悩みごとあってもすやすやできるあたり、あたしはあたし。
 あっ、反省はしました。しましたとも。ちょっとしたことでスネて本当に申し訳ありませんでした。
 その結果がこれですよ……ギリアロに愛想尽かされた、とか。
 わーん! 軽率な行動してごめん……ごめんってば、ギリアロ。

 はぁ。
 ひと晩寝て、明るくなったらお家にかえろ。
 で、ギリアロに謝ろ……って思ってたんだけどね?

 こんこんこん。ってノックの音がして、あたしはドアの方を見る。
 はーい、って声をかけてみると、ジズさんがひょっこりと顔を出した。

「チセ様。先ほど、ギリアロ様から連絡がありまして。面会謝絶とは伝えておいたのですが」
「えっ」

 面会謝絶!
 あー! そ、そうだった……!
 あたし話の流れで殿下に面会謝絶お願いしてたもんねっ!
 いやいやいや、まって! あの! もう! 面会謝絶なんて、してませんっ。してませんけどおおお。

「……あたし、ギリアロに対してめちゃくちゃ怒ってる感じになってない!?」
「なってますね」

 いやああああ。
 さらにやらかしちゃったあ!
 ちがうの、ちょーっと気まずくて、顔を合わせにくかっただけなのっ。

「あ、でもご安心ください。ギリアロ様も、すっかり動揺していらっしゃって」

 くすくす、とジズさんは笑ってる。

「あの様子だと、すぐに飛んでいらっしゃるでしょう」
「それはそれで、心の準備が……!」

 全然できていない!
 会いたいけど、会いたくない。まさにそれ。
 だってさ、ギリアロにどんな顔して会ったらいいっていうの。
 ってか、出てきてからこれだけ時間経ってから迎えに来るとか、ギリアロも大人すぎない?
 あたしが冷静になるのを見計らってるってことだよね?
 お子様扱い? やっぱりヤレヤレって呆れられてるんじゃ……。

 あたしはサーッて青くなって。いや、でもこうなったら、と腹をくくりたい気持ちもあり。
 さらに外から「灰の死神の機体が――」って誰かが伝えに来てくれたところで、ものすごーく居たたまれなくなった。

 うん。
 迎えに来たんだよね。わかる。わかるよ。
 でも、やっぱ勇気でない。
 うん。家に帰るのは明日。明日にしよう。ねっ。冷静になってから! よし。
 そう思ってあたしはすくっと立ち上がる。

「? チセ様、どこへ行かれるので?」
「ど、どこでもいいっ。ギリアロから身を隠せるとこ……」
「くくくっ、観念なさったらいいのに」
「いや、でもお……」

 なんてジズとやりとりしてたら、遠くからものすごい勢いでこの部屋に近づいてくる足音が聞こえる。なんせ床が金属の場所も多いからね。ここまで響く響く。
 この走り方が誰だかわからないあたしじゃないからね。ヤッバ! と思って、あたしは慌てて部屋を出た。
 で、足音が聞こえてくるのと反対方向へ、ダッシュ!


 でもそこは、やっぱギリアロなんだよねえ。
 昔優秀なヒコーキ乗りだったわけで、周辺状況察知する力がハンパない。
 あたしが部屋を飛び出したことも筒抜け状態っぽくって、あっという間に見つかってしまった。

「! いやがった、チセぇ!」
「わわわっ!」

 って、ギリアロってば足早すぎない!?
 歩幅たいして変わらないはずなのに、ぐんぐんぐんぐん追いつかれるのはなぜ!?

「あははは、チセ様、勘弁なさっては?」
「わあああ、ジズさん……っ!!」

 ジズさんもヘーキで横についてくるし。うううっ、どーせあたしはそんなに足早くないもんね。
 でも、こうなると、意地でも逃げたくなってくる。
 だから外の景色が見える城の回廊を、あたしは全力で駆け抜ける。

 きら、きら、きら、と晶精が輝いた。彼らはあたしの周囲にまとわりつくようにして、風を起こす。
 わあああ! と後ろから声が聞こえたから、何事って思ってふり返る。そうしたら、なんか突風が吹いていて、ギリアロたちがめちゃくちゃあおられてる。
 えっ、あれ!? 晶精さん!?
 あたし逃げるのに力貸してくれている!?

「お、おい!? 待て、チセ!」
「わああああ!!!」

 今のうちだ、逃げろっ。

「チセ、俺が悪かった! 戻ってこい!」
「わああ、ギリアロ、ごめんっ! ごめんねっ!」

 ぜったいあたしの方が、悪い!
 だから今も、向きあう余裕ないっ。

「いや、俺が! 俺が悪いっ! おい、待て、チセ!」
「あたしがっ、心に余裕がないからっ、ごめんっ!!」

 俺が悪い!
 いやあたしが!

 そうやってふたりで繰り返しながらあたしたちはお城の廊下を疾走する。
 そんな大騒ぎに、お城の人がなんだなんだ!? って顔を出してくるんだけどね!?
 ほんとにね!? なんだろうね、これね!?

 人だけじゃなくて晶精までもがきらっきら輝いて、あたしの周り――ううん、いつかのように城全体を照らしている。楽しい! 楽しい! いっぱい走って、遊んで、楽しい! って雰囲気で、虹色に輝いて飛び跳ねててさ。
 いや、こっちは全然楽しくないんだけど!?
 ……ちなみにこれ、後日「晶精の奇跡」だかなんだか語り継がれる現象になるんだけどね、このときのあたしは知るよしもなく。

 晶精の妨害にも負けずに全力で追いついてきたギリアロに、とうとう捕まりましたとさ。
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