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21 姉弟の関係 ★

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「涼介、麦茶でいい?」
「ああ、うん。よろしく」

 真南可まなかは義弟の答えを背中で聞きながら、冷蔵庫から作り置きの麦茶を取り出し、氷を準備する。

 食器棚に手を伸ばし――
 そこで、わずかに躊躇する。2人暮らしの部屋。ひと揃えのグラス。それは、真南可と、婚約者が使っているグラス。

「…………」

 胸を苛む背徳感に苦痛を覚えつつ、けれど一方で気分が高揚してしまう自分を、心底嫌悪しつつ――
 真南可は、2つのグラスに麦茶を注いで、リビングへと持って行く。

「ありがと」

 気安い返事の義弟は、上半身は裸のままで、ソファに腰掛けている。

 もっとも、真南可のほうもそれを指摘できるような格好ではない。
 彼女の場合は、裸体に手近なTシャツを着ただけで、下半身には下着だけの、はしたない格好だ。

 夕刻――といっても、この季節は17時でもまだまだ明るい。
 薄いカーテンから日差しが挿し込むリビングに、彼がいる。

 真南可が置いたグラスに視線を落とすと、涼介はかすかにその目を細めた。
 一対のデザインをしているそれについて、彼がどんな感想を抱いているのかは分からない。

(でも……)

 胸がまたドキドキする。
 無言になってグラスを手に取る涼介の仕草にも。喉を鳴らして嚥下するその横顔にも。

「――なに?」
「な、なにが?」

 視線に気づかれて、慌てて真南可もグラスを取って一気に飲み干す。
 実際、喉はおおいに渇いていた。いくら冷房の効いた室内とはいえ、さっきまで、すぐ隣の寝室でセックスをしていたのだ。まだその火照りは、真南可の身体中に残っている。


 ――あの日以来。
 涼介がこの部屋をたずねて来て久しぶりの再会を果たしてから、2人の関係も再開された。

 あってはならないことだし、この関係を清算するためにあの家を出たのに。
 でも、婚約者の不在を教えているのは、真南可のほうからだった。

(忘れようとしたのに……)

 一度思い出してしまったら、もう歯止めは利かなかった。肉体の一番深いところに打ち込まれていた楔が疼いて、仕方がなかった。


 胸の奥を滑り落ちていく液体の冷たさを心地よく思いながら、真南可はグラスをテーブルに置いた。

「…………」

 涼介は何も喋らない。
 彼のグラスにはまだ麦茶は残っている。

 ――不思議な気分だった。
 絶対に、ここに居てはいけない相手なのに。絶対に、もう触れてはいけない相手のはずなのに。

 けれど、ひと息をついたところで火照りは鎮まるどころか、むしろ燻っていた残り火は勢いを増すようだった。

「……涼介」

 囁くように名前を呼んで彼の肩にしなだれかかり、胸元にキスをする。
 少し、ムカつくぐらい滑らかな年下の男性の肌。

 唇で触れる箇所を増やしていくと、彼の腕が真南可の腰に回って、ゆっくりと、しかし有無を言わさぬ力強さで抱き寄せられる。
 
「んっ、あっ……」

 唇と唇、腕と腕、指と指が絡まって、ふたたび幸せな時間が真南可に訪れた。

「涼介、ここ……」

 彼の下腹部を撫で、チャックを下ろし露出させて、そこへ口づけする。

「あむっ……、ん。ぢゅっ……、くぽっ」
「――姉さん」
 
 自分を呼ぶその声が震えるのが嬉しくて、真南可はさらに深くペニスを咥え込み、喉奥の粘膜まで使って快感を与える。

「んぶっ、ぐぶっ……ぢゅぅっ」

 口腔内を余すことなく使ったディープスロート。頭を上下させ、はしたない音を上げて、激しく吸い立てる。

「んぢゅっ、ぢゅろっ――ぢゅぼっ、ぢゅぼっ、ぢゅぼッッ……!」

 婚約者相手には、こんな口淫はしたことがない。

「姉さん、さっきあんなにしたのに……足りないんだ?」
「んんんッ――!」

 首を振って否定するが、まったく説得力はなかった。ソファの上で四つん這いになって、下着のヒップを振りながら、頬をすぼめて男根にむしゃぶりつく、こんな姿では。

 涼介の腕が伸びてきて、胸の膨らみに触れる。下を向いていた乳首を指先で摘ままれて、痺れるような快感が突き抜ける。

「――ッッ、んぐッ、んっ、んむッ……!」

 Tシャツ越しに乳房を揉みしだかれるその力加減が堪らない。このまま射精に導いてあげたい――

 そう思って切なくなっているところを、涼介に覆された。腕力に任せて仰向けに倒され、シャツを剥がれる。

 真南可の大きな乳房が、ぶるんとまろび出る。

「……ッ、ここ、明るいからっ」
「今さらでしょ。それに、誘ってきたのは姉さんだよ」
「――っ、あっ、あ……」

 どこをどうされれば気持ちいいのか――そのことを、涼介は真南可本人よりも熟知している。

 揺さぶられて、弾かれて、突かれて、押し込まれて。唇で甘噛みされて、器用すぎる舌で極上の愛撫を施される。

「――んッ、んんんっ……!」

 全身が悦び、わなないている。

(あの人とより、ずっと……!)
 
 その感覚は、義弟と初めて肌を重ねたときから一向に衰えることなく、むしろより鮮烈になって真南可に刻まれている。
 やはりもう忘れられない。逃げられない。逃がさないで欲しい―― 

「涼介……っ、き、きて……っ!」

 耐えきれず、淫らな悲鳴をあげて彼に請う。

 涼介は薄く笑むと、硬く膨らんだペニスを、真南可の淫裂に突き立ててきた。

「やッ、あ、あ……っ!」

 全身が歓喜する。彼と繋がるだけで、震えるほど嬉しくなる。ジュクジュクになっている膣が、義弟のペニスに犯してもらえて悦んでいる。

「ああッ、いやっ、だめっ――!」

 快感にのけ反る真南可のことを押さえつけて、涼介は腰を叩きつけてくる。そのペースはどんどん早くなり、結合部のにちゃにちゃした音が部屋中に響き、泡立てられた愛液がソファに垂れる。

「あっ、あっ、あ――ッ!」

 真南可の奥深くで、2人の快感が弾けた。

「あああッ――! あっ、んッ、んん……っ!」
 
 初めてセックスをしたあの日から今まで、もっとも多く肌を重ねてきた相手。あの家の中で、幾度も幾度も、許されない行為を繰り返してきた共犯者――。

 涼介にセックスの快感を教えてしまったのは真南可だ。その後、彼に誘われるまま――そして時には彼を誘って交わったのも、真南可自身の罪だ。禁断の関係に溺れてしまっているのも、彼とその味を共有しているのも。

「はあっ、はあっ、あ、あっ……」

 知ってしまった快楽を、真南可はもう手放せなかった。

(ごめんね涼介っ、でも私……気持ち良くてっ……)

 快感に打ち震えて、義弟の背中を強く掻き抱く。自分の体内で彼の脈動を感じられるのが、痺れるほど気持ちがいい。

 しばらくそうして抱き合っていたのだが、ふと、涼介が口を開いた。

「――姉さん。報告があるんだ」
「……え? なに、改まって」
「彼女ができた」

 唐突な告白に、真南可は耳を疑った。

 この義弟に、女性の影が多くあることはよく知っている。彼自身から打ち明けることはなかったが、妹――真凛まりんからはなぜかよく報告を受けていた。あるときには、家の中で涼介の〝お相手〟と鉢合わせることもあった。

 けれど今まで、涼介はそれを姉妹の前で交際とは認めていなかった。……いや、実際に彼自身、そんな認識がなかったのかもしれない。

 どういう心境の変化なのか、そしてどうして今そんなことを話すのか――その意図が掴めず、代わりに真南可は間抜けな問いかけをしてしまう。

「なのに、こんなことしていいの……?」
「それ、姉さんが聞く?」

 嘲笑混じりに耳元で返されて、居心地が悪くなる。

「そ、そうだけど」

 改めて、罪悪感が胸に広がり苦しくなる。そんなふうに感じる資格すらないというのに。

「……姉さん、また興奮してきた?」
「ち、違う――これは」

 涼介がまたゆっくりと腰を動かし始める。

「や、やめっ、……んっ、んっ!」

 その緩やかな動きが真南可の性感帯をじわじわと刺激して、ほんの数十秒でまた昇り詰めてしまう。

「あっ、あああああっ……! んぅっ……、ご、誤魔化さないでっ」
「たっぷり感じておいて、説教とか通用すると思う?」
「――あなたって」
「最低だろ? 知ってる。卑怯なところは、姉さんに似たんだと思う」
「――――っ。……人を試すところは、真凛にそっくりね」
「はは。あいつはちょっと特殊すぎるよ」
「あなたには……私たちには、言われたくないでしょうね」

 真凛のあの性格形成にも、真南可は一役買っている。

 妹はもともと重度の〝お姉ちゃん子〟だったが、真南可に恋人が出来てから――今の婚約者との交際が正式に始まってからは、彼女に構ってあげられる時間も減ってしまった。

 そんなときに母の再婚が決まり、義父と涼介の家に同居することとなった。

 最初、真凛は涼介にまったく懐くことなく、だから知らない家で孤独だったのだろうと思う。……それを寂しく思っていたのかは分からない。実の妹でありながら、彼女の心の内を覗くのは、今でもとても難しい。

 ――ともかく。
 そんな義理の家族の生活の中で、勘の鋭かった真凛は、真南可と涼介の関係が始まったことにどうやら早くから気づいていたようだった。

 それでここからが妹の不可解なところだが――その淫らな関係を知って2人を軽蔑するどころか、なぜかより強い愛情を抱くことになったらしく、特に涼介相手には心を開くようにすらなった。


 ……もしかしたら、真南可が妹を歪めてしまったというより、彼女が自身の性向に気づくキッカケを与えてしまった、というのが正確なのかもしれない。

 では、この義弟についてはどうだろう――


〝――俺は、あの人の代わりでいいから。〟


 いつだったか、情事の最中に涼介が漏らした言葉が脳裏に蘇る。

 涼介が洞察力に優れているのは、無意識的にしろ、他人に愛されようと必死だからなのかもしれない――そして、そんな彼に成功体験を与えてしまったのが、真南可のもっとも重い罪なのかもしれなかった。

 快楽で繋がるすべを教えてしまい、その結果、真南可自身も彼の虜にさせられてしまった。

 もしそうだとしたら――

「姉さん、もう一回」
「え、りょ、涼介っ……!」

 取り返しのつかないことをしてしまった――と後悔しても、もう遅い。

 その指で撫でられるだけで思考が絡め取られ、唇を奪われると体の自由が利かなくなり、その声だけで絶頂に導かれてしまう。

 義理の姉に対する〝愛情表現〟ですらこの鮮烈さなのだ。涼介がもし本気の相手を見つけたとして、その彼女を全力で愛してしまったら――。

「…………っっ!」

 想像すると、背筋がゾクゾクと震えた。恐ろしさと、そしてたぶん嫉妬の感情で。――やはり、そんな感情を抱く資格なんて真南可にはありもしないのに。

「あっ、……駄目っ、あっ、あっ……」

 ソファの上で義弟に犯されながら――自省も後悔も、理性も罪悪感も、すべて塗りつぶされて、真南可はまた快感の海に沈んでいった。


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