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第三章 帝国編(空路編)
エイルの不調
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そんな時だ。
それまで歩調を緩めることの無かった侍女の一人が、じっと空を見上げてそこに佇んだのは。
「……エイル? どうかしたの」
サラの誰何の声に、侍女はぶるっと一つ肩を震わせて心細げな声を出した。
「わたしたち、来る場所を間違えてしまったのかもしれません」
「どういうこと?」
「だって……」
一瞬、オットーが言っていた他の勢力、という謎の輩が上からなにかを仕掛けてきたのかとサラは思う。
アイラと共に天蓋を見上げても、しかし、そこには変わらぬ大地の岩肌が露出した黒々とした光景と、まぶしいばかりの照明しか見えなかった。
「戻りたい」
そんな一言を言うエイルは明らかに動揺していて、顔は蒼くなりかけていた。
姉の意外な一言を耳にして、アイラは目を驚きでまん丸に見開いてしまい、サラもまたいきなりどうしたの、と耳を疑ってしまった。
「今更何を言い出すの、エイル」
「なにって……お嬢様。こんな体験したことがないことばっかり起きているのに。それも、次から次へとわたしたちの常識が覆されていく。こんな恐ろしいことって他にはないと思いませんか」
「エイル、恐怖なんて貴方らしくないわね?」
「だって」
と、エイルは普段の知的で冷静な自分を見失ったかのように俯いてしまう。
サラはアイラにどういうこと、と目で尋ねると、妹はたぶんあれかな。そう言い、天井を指さしていた。
「……上?」
見上げるそこには先ほどと同じ照明があり、天蓋はどこまでも続くように深い闇を作り出している。
アイラはその更に上を指さしていた。
三人のやり取りを隣で聞いていたオットーは、自分には知りえない何かがそこにいるのかと驚いて上を見上げる。
そして何もないことを確認すると、部下たちに目をやるが――獣人たちの鋭敏な感覚をしても特に問題は見いだせないようだった。
「どうかなさいましたか、殿下……何か問題でも」
「ああ、いえ。何でもありませんわ。こちらの話ですから。寒さが酷いとは思います」
「ああ、そうでしたか。それは申し訳ありません。もうすぐ、建物の中に入れますから暖も取れると思いますよ」
オットーのその言葉に寒さを我慢していたアイラはほっとした表情を浮かべ、サラはまだ肩をすくめているエイルにしっかりして、と声をかけた。
前に姉、後ろに妹。真ん中にサラの順番だった三人は、いま横に一列になって歩いている。
サラは天井を見上げてもその理由がわからず、アイラにどういうこと、と尋ねていた。
「あれですよ、お嬢様。エイルはコウモリがだめなんです」
「は……?」
「コウモリですよ。騎士団で見習いをしていたときに、深夜になると馬のお尻に牙をたてて血を吸いに来る吸血コウモリがいたんです。それを追い払う見張り番をこの子、一月ずっとやらされていたんですよ」
「それで――嫌いになったってこと……そう……」
「そういうことです、ね、エイル?」
確かに言われて見てみれば、洞穴の天井近くをちらほらと影がちらついて動いているのが見えなくもない。
しかし、それは言われて気が付くレベルのもので、人は嫌いなものには過剰に反応するのね、と妙に納得してしまった。
「あれに襲われたらと思うともう怖くて怖くて……」
か細い声でそう鳴くエイルはとても保護欲をそそる。
こんな侍女を見たことはなかったサラと、姉をいじるための口実が増えたと喜ぶアイラは対照的だった。
「殿下、お付きの方は大丈夫ですか?」
「まあ、問題はないかと思います。当人が怖がっているだけですから、後で言い聞かせますので、ご心配なく」
「そうですか、さすがにコウモリとはこちらも思い至らず」
などと、オットーはサラの付き人の心配までしてくれる。
しかし、その影で先頭を行く二人の女性兵士はエイルを小ばかにするようなそんな目で見ていた。
チラチラと後ろを振り向くその視線の盾にサラがなろうとしたとき、そんな彼女たちを先に咳払いで叱りつけたのもまた、彼だった。
「こちらにも態度の悪い獣がおりますれば、どうかご容赦を」
「いいえ、お構いなく。誰しも上に立ちたいときはあるものですから」
さっきは癒されたその尾が左右に微妙に揺れつつ、女性兵士たちは獣呼ばわりされたことを屈辱に感じたのだろう。
低く、オットーに対してでさえも歯向かうようなうなり声を上げて先を歩いた。
やがて通路が終わり、建物に入るための扉の前で一行は立ち止まった。
文官が背丈ほどの何か反射するガラスのような素材で作られたそれに手をかざすと、重々しい鉛色のそれは緩やかにスッと音もなく開いてサラたちを驚かせた。
「ほら、もうコウモリなんてどこにもいないからさー。しっかりしてよ、エイル」
「だって……」
妹の言葉に姉は上下左右を見渡し、ようやく不気味なあの姿が消えたことを知って、ほっと強張っていた顔を緩ませた。
そしてはっとなり、サラに向きなおると、「申し訳ございません、お嬢様……」と自分がさらした失態について、恥じ入った面持ちで謝罪したのだった。
「もういいわよ、建物の中に入ったら収まるなら。心配したのは本当だけど、あなたらしくない言動だったわね、エイル」
「……」
ついでにあんな獣人たちにまで馬鹿にされるなんて。自分の大事なこの侍女たちを。
サラの中ではエイルの失態よりも、家族に近い彼女たちを軽んじた兵士たちに怒りが強かった。
「あのふかふかしている尾でも頂いたら、この心の寒さもおさまるかもしれないわね。いいマフラーになりそうだし」
「でっ、殿下っ!?」
「お気になさらず。さ、参りましょう、オットー様。まだ先が長いなんてこと、そろそろやめて頂きたいと思います。我慢というものにはそれなりに限りがあるかもしれませんし」
「……心致します」
これだけ言えばアリズンとの対面まで待たされる時間はもう少しだろう。
二人の女性兵士たちはサラのマフラー発言に慌ててその尾を軍服の下に隠してしまったし、エイルの不調もどうにかなりそう。
本当に来るべき場所を間違えてしまったとは思いたくないのよ。
と、サラは自分たちの旅の羅針盤を自ら操作することを新たに決意したのだった。
それまで歩調を緩めることの無かった侍女の一人が、じっと空を見上げてそこに佇んだのは。
「……エイル? どうかしたの」
サラの誰何の声に、侍女はぶるっと一つ肩を震わせて心細げな声を出した。
「わたしたち、来る場所を間違えてしまったのかもしれません」
「どういうこと?」
「だって……」
一瞬、オットーが言っていた他の勢力、という謎の輩が上からなにかを仕掛けてきたのかとサラは思う。
アイラと共に天蓋を見上げても、しかし、そこには変わらぬ大地の岩肌が露出した黒々とした光景と、まぶしいばかりの照明しか見えなかった。
「戻りたい」
そんな一言を言うエイルは明らかに動揺していて、顔は蒼くなりかけていた。
姉の意外な一言を耳にして、アイラは目を驚きでまん丸に見開いてしまい、サラもまたいきなりどうしたの、と耳を疑ってしまった。
「今更何を言い出すの、エイル」
「なにって……お嬢様。こんな体験したことがないことばっかり起きているのに。それも、次から次へとわたしたちの常識が覆されていく。こんな恐ろしいことって他にはないと思いませんか」
「エイル、恐怖なんて貴方らしくないわね?」
「だって」
と、エイルは普段の知的で冷静な自分を見失ったかのように俯いてしまう。
サラはアイラにどういうこと、と目で尋ねると、妹はたぶんあれかな。そう言い、天井を指さしていた。
「……上?」
見上げるそこには先ほどと同じ照明があり、天蓋はどこまでも続くように深い闇を作り出している。
アイラはその更に上を指さしていた。
三人のやり取りを隣で聞いていたオットーは、自分には知りえない何かがそこにいるのかと驚いて上を見上げる。
そして何もないことを確認すると、部下たちに目をやるが――獣人たちの鋭敏な感覚をしても特に問題は見いだせないようだった。
「どうかなさいましたか、殿下……何か問題でも」
「ああ、いえ。何でもありませんわ。こちらの話ですから。寒さが酷いとは思います」
「ああ、そうでしたか。それは申し訳ありません。もうすぐ、建物の中に入れますから暖も取れると思いますよ」
オットーのその言葉に寒さを我慢していたアイラはほっとした表情を浮かべ、サラはまだ肩をすくめているエイルにしっかりして、と声をかけた。
前に姉、後ろに妹。真ん中にサラの順番だった三人は、いま横に一列になって歩いている。
サラは天井を見上げてもその理由がわからず、アイラにどういうこと、と尋ねていた。
「あれですよ、お嬢様。エイルはコウモリがだめなんです」
「は……?」
「コウモリですよ。騎士団で見習いをしていたときに、深夜になると馬のお尻に牙をたてて血を吸いに来る吸血コウモリがいたんです。それを追い払う見張り番をこの子、一月ずっとやらされていたんですよ」
「それで――嫌いになったってこと……そう……」
「そういうことです、ね、エイル?」
確かに言われて見てみれば、洞穴の天井近くをちらほらと影がちらついて動いているのが見えなくもない。
しかし、それは言われて気が付くレベルのもので、人は嫌いなものには過剰に反応するのね、と妙に納得してしまった。
「あれに襲われたらと思うともう怖くて怖くて……」
か細い声でそう鳴くエイルはとても保護欲をそそる。
こんな侍女を見たことはなかったサラと、姉をいじるための口実が増えたと喜ぶアイラは対照的だった。
「殿下、お付きの方は大丈夫ですか?」
「まあ、問題はないかと思います。当人が怖がっているだけですから、後で言い聞かせますので、ご心配なく」
「そうですか、さすがにコウモリとはこちらも思い至らず」
などと、オットーはサラの付き人の心配までしてくれる。
しかし、その影で先頭を行く二人の女性兵士はエイルを小ばかにするようなそんな目で見ていた。
チラチラと後ろを振り向くその視線の盾にサラがなろうとしたとき、そんな彼女たちを先に咳払いで叱りつけたのもまた、彼だった。
「こちらにも態度の悪い獣がおりますれば、どうかご容赦を」
「いいえ、お構いなく。誰しも上に立ちたいときはあるものですから」
さっきは癒されたその尾が左右に微妙に揺れつつ、女性兵士たちは獣呼ばわりされたことを屈辱に感じたのだろう。
低く、オットーに対してでさえも歯向かうようなうなり声を上げて先を歩いた。
やがて通路が終わり、建物に入るための扉の前で一行は立ち止まった。
文官が背丈ほどの何か反射するガラスのような素材で作られたそれに手をかざすと、重々しい鉛色のそれは緩やかにスッと音もなく開いてサラたちを驚かせた。
「ほら、もうコウモリなんてどこにもいないからさー。しっかりしてよ、エイル」
「だって……」
妹の言葉に姉は上下左右を見渡し、ようやく不気味なあの姿が消えたことを知って、ほっと強張っていた顔を緩ませた。
そしてはっとなり、サラに向きなおると、「申し訳ございません、お嬢様……」と自分がさらした失態について、恥じ入った面持ちで謝罪したのだった。
「もういいわよ、建物の中に入ったら収まるなら。心配したのは本当だけど、あなたらしくない言動だったわね、エイル」
「……」
ついでにあんな獣人たちにまで馬鹿にされるなんて。自分の大事なこの侍女たちを。
サラの中ではエイルの失態よりも、家族に近い彼女たちを軽んじた兵士たちに怒りが強かった。
「あのふかふかしている尾でも頂いたら、この心の寒さもおさまるかもしれないわね。いいマフラーになりそうだし」
「でっ、殿下っ!?」
「お気になさらず。さ、参りましょう、オットー様。まだ先が長いなんてこと、そろそろやめて頂きたいと思います。我慢というものにはそれなりに限りがあるかもしれませんし」
「……心致します」
これだけ言えばアリズンとの対面まで待たされる時間はもう少しだろう。
二人の女性兵士たちはサラのマフラー発言に慌ててその尾を軍服の下に隠してしまったし、エイルの不調もどうにかなりそう。
本当に来るべき場所を間違えてしまったとは思いたくないのよ。
と、サラは自分たちの旅の羅針盤を自ら操作することを新たに決意したのだった。
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